<第二話> そして超能力世界へ

「旭。行くぞ」


この世界に来てやっとできた最初の親友、神谷穏かみやしずが俺の名を呼ぶ。

転生した俺の容姿はなかなかなものだったが、穏は比べ物にならない程整った顔立ちをしている。

オマケにすごく性格がいい

ブロンド色の髪がよりカッコ良さを際立たせている。


どうでもいいけど、俺転生しても髪黒だったなぁ…

名前も前世と漢字まで一緒だったし、代り映えしねぇ……


転生した俺、希月旭は、超能力学園に通う2年生の生徒として今を過ごしている。


蒼色の扉に吸い込まれたあの日から17年が経った。


目を覚ました時は産まれたばかりの姿で、意識があって、思考できる状態だった。

不思議な体験だったものの月日はあっという間に流れていく。

気がつけば希月旭は17歳になっていた。

旭が初めてこの世界を観測した時、自分の推測は間違いなかったのだと実感した。

この世界は、転生前の自分がいた世界、日本とほぼ変わらなかった。

場所の名前や建物まであまり様変わりしないこの世界。

『異世界転生』に違いないのだが、旭にとってそれはどちらかと言うと、輪廻転生に近いと感じた。


テクノロジーは進みすぎず遅れてもいない。

車もまだ地面を走っているし、PUNTER × PUNTERは未だに完結していない。

だからこそ異世界転生をした実感がわかないのだった。


"ある瞬間を除いて"。


購買に行こうと旭が教室のドアを開けたと同時に凄まじい速度で何かが廊下を横切った。


「コラァァァァ超能力を無闇に使うなぁあああああ」


教師の怒号が廊下に響く。


「すいませーーん今日弁当わs……」


そこで声は途切れた。

多分忘れたから一刻を争うんだろう。


「おい。そこどけよ。無自覚者」


「あ、あぁ……悪い……」


入口でたっていると、わざと肩にぶつかるようにクラスメイトに押しのけられた。


「無自覚者な……」


「あんなもん気にすんな」


ボソリと呟いたのが穏に聞こえていたらしい。

恥ずい


「コア能力のことまだ気にしてんのか」


「あぁいや、まぁ……そこそこな」


別段意味のある呟きではなかったためか気のない返事になってしまう。


この世界で生を受けたその瞬間、人は例外なく誰もが超能力を手に入れる。

事実、生まれたばかりの赤子が発火能力パイロキネシスで医療器具を燃やしてしまった話がある。

(どういう訳か母体にいる間に能力を使った前例はないらしい)

努力も知恵もいらない。

ここでただ生まれると言うだけで、超能力を手に入れられる。

それも3つ。

コア能力とその他2つ、希月はその中のコア能力を自覚していない。

自覚がないのはこの学園でただ1人だけだ。

だからあだ名は無自覚者。


「あんなもの普通に生活してれば使わないんだから気にするな」


穏の言う通り、コア能力を日常生活の中で使うことは滅多にない。

というかそもそも使えないのだ。

使えば周囲2kmが更地になってしまうような能力もあれば、人間を︎︎ことに長けたものもある。

そう言っている穏もまた日常で使うことはほぼない

コア能力を持っている。


「俺らもパン買いに行こうぜ。売り切れる」


「あ、あぁそうだな」


――――――――――――


結局ほんの少し遅れたのが仇となり、今日の気分だったカレーパンを買い損ねてしまった。


「なぁ旭。俺たちの能力ってこの先どう使うと思う?」


「そりゃ……入学式で校長が言ってた通り魔術世界との戦争に利用されるんだろ」


穏の質問にあっさりと回答したものの正直旭自身も聞きたい所だ。

というのも、能力を振るう目的がわからないのだ。

来る日に備え能力を研ぎ澄ませるように、としか言われていない。

魔術師であれば殺していいのか、それが正義悪か。

この世界に来てそういう倫理を養える講義は受けていない。

旭自身では判断するにはとても生きてる時間が足りなかった。


前世と合わせれば、一応30数年は生きてんだけどなぁ

世界が変われば法則もガラッと変わっちまう……

前世での経験なんて微塵も役に立たない


この世界に来てすぐにわかったことがある。

それはこの世界では「殺し」に関して、弾劾がない、ということだ。

一応それらしい警察機関はあるものの、警察行政機関ではなく民間が管理、統制する旭の元いた世界とはまるで規模感が小さい影響力に乏しい機関だった。

まるで人間界に弱肉強食の原理ができたように、弱いものが救われる世界ではなかったのだ。


ならば自分たちが振るう力はどうあれ、人の生命活動を絶ってしまう結果を産むのか。

生きるために。

"その日"が来るまで、果たして覚悟決まるのだろうか。

少なくともその覚悟が現時点でないのは俺だけだろう。

何故なら身近な人物で言うなら、穏。

いつもは普通の高校生として振舞っているが、その実彼は暗殺者一家の血が通っている。

怖くて数は聞いていないが、もう既に人を殺しているそうだ。

神谷は死神の苗字と言われるほどに、恐れられている。


この学校の情報隠匿技術は立派らしく、隠す必要が無い、と皆偽名は使っていないのでわかりやすい。

他にも有名人の子供が多く通っているこの学校は、一応付近では1番の名門。

親が名の知れた超能力であることが多く、命の危険があることから親仕込みの護身術を会得してる生徒がほとんどだ。

護身とは即ち相手を殺すことを意味する。


そんな奴らが9割の中、俺自身は未だ転生前の平和ボケした脳で過ごしている。

中学までは未成年ということで、国が正式に認める優秀な護衛能力者がついていたのだ。

だから何の心配も要らなかった。

しかし現時点ではもう高校生。

この世界では成年らしい。

もう誰も御守りはしてくれないみたいだ。

今日に至るまでよく生きていたなとしみじみ思う。


ひょっとしたら、明日死ぬんじゃねぇか?

いや、訳のわからないフラグは立てるものではないな。


午後の始業のチャイムがなった。


――――――――――――


「えー以上が50年前の主要な魔術師大戦の歴史だ。特にこの辺の戦いでは今の段階であっても有用と言える知恵が沢山あるから自分で参考書見るように。特に炎系統の能力者はーって」


「おい。希月ー。聞いてたか?」


やべ

聞いてない。


「まぁいいや。ちゃんと聞けよ。この世界に関わることだからな」


歴史の授業は未だにつまらない。

思わずぼーっとしてしまう。

なんだか洗脳されている気がしてならないのだ。

この世界に都合のいいことしか言われない教え。

なんだかそんな気がする。

争いにはこうあって欲しい見たいな欲望まで内包している。

そのせいで何が事実で、何が嘘か判断できない。

転生者だからだろうか。

せめてこの技術の発展した世界なのだ。

映像の一つや二つ見せてくれてもいいのに。

参考書にあるのはいつも写真ばかりだった。


そういえばひとつ気になることがある。

この世界の人間は皆、『スキル』の世界を認知していないということだ。

過去の争いも全て魔術世界との争いで、史実を見てもスキルのスの字も出てこない。


まぁ別に3つの世界に関わりがあるとは限らないもんな……。


正直魔術世界と対立関係にあるということだけで、最初は酷く驚いた。


転生する時何も言われなかったぜ?

ひでぇ話だ。

はぁ……

つまり俺があの時魔術の世界を選んでいたら、立場は変わっていたというわけか。


めんどくさい人殺しの覚悟より、スライムだかゴブリンだか人外を倒して適当にのらりくらり生活できるスキルの世界の方が良かったなと今更ながら思い直す希月だった。

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