第一話  3人の転生

「あれ?俺死んだはずじゃ……」


長い眠りから覚めるように、静かにまぶたを開けた希月旭きづきあさひは目の前に広がる異様な景色に仰天する。


「はああ!?え……ここ…何!?」


希月の周りには、3枚の扉が立ち塞がっている。

扉以外はただ真っ白な背景、ここが宇宙の始まりと言われても何も不思議に思えないほどただ1色の世界が広がっていた。

希月の左には青色の扉、正面には赤の扉、右には緑色の扉がある。

高さは10mあるだろうか。

とにかくデカく圧倒的な存在感を放つその扉を前に希月はまだ夢の中にいるのだと理解する。

その場に座り込み、あぐらをかいて頭を抱える。


つねっても目ぇ覚めねぇ……


その時だった。

脳内に低く落ち着いた、老人の声が聞こえてきた。


━━━希月旭。お前を理の異なる世界。異世界へと誘う。自身で選択するがいい。蒼は超能力。紅は魔術。翠はスキルが理となる世界……


えちょ待っていきなりそんなこと言われても訳分からん。


━━━を与えよう。そこでお前は第2の人生を歩むのだ。


ぬわあああぁん。お前脳内に語りかけてくるせいで、俺がなにか考え事してる間何も聞こえねえええんだよおおおおお。


━━━扉に入れば、その時点でお前はその世界の赤子として生を受ける。そこで何を成しどう過ごすもお前次第だ。ただしスキルの……


異世界転生ってやつか。

あーねはいはい存じ上げておりますよ。


━━━の選択


いいよいいよそういうの。

信じてないしね……


━━━最後に転生する際にその世界にそぐう転生能力を与えよう。健闘を。No.56


そこで脳内の言葉は途切れた。


……

これで終わり……?

転生するかどうかも聞かれない感じ?


あまりに簡潔で、あまりにあっさりとした説明に希月は困惑する。


死ぬ前に異世界転生系のアニメ見てたけどさ……

いやこれ……なんか違う……


希月旭は交通事故で命を失った。

誰かを助けるためにとか、そういう訳ではなくただの不注意だった。

だからこそ希月には転生などという非現実的なことはとても信じる気になれなかった。

意識不明の間に見ている幻想に過ぎないと、一蹴したいほどに。

それでも今はこの茶番に付き合うしかすべはない。


超能力と魔術と……あとスキルとか言ってたっけ……

あーどれがいいかな…

生前時々やった究極の選択を選ぶ時のような

"もしも"を考えるようなそんな幻想に想いを馳せるあの時を思い出して少し悲しくなりながら希月は迷う。


魔術ってあれか?錬成陣描いてうりゃってやる奴?

それともヘリーホッターみたいに杖でうりゃってする奴か?


スキルは……多分ウィンドウとか出てきて、レベルアップとかして、mpとか消費するやつだ。


超能力……あぁかっこいいよな。

なんだかんだ1番憧れたのはこれだなぁ。

1番現実に近くて、実際に力を持った人がいたんだもんな。

人体発火現象とかそんな奴。

俺のいた世界に1番近いのは、超能力の世界なんだろうな……

スキルは多分ほんとに俺の想像する異世界に連れてかれるはずだ。

ゲームのような世界観は、少年の期待を背負うものだが少々歳を重ねれば電気、ガス、水道のライフラインがない世界が以下に不便で生きづらいかを想像させる。

超能力の世界は多分現代と変わらないはず……

だって中世みたいな世界観で超能力とか……ないだろ……?

異世界で知識使って生きてくとか、憧れないって言ったら嘘だけど、正直なんでただの1高校生がライフル銃の構造と作り方知ってんだよ……

普通に知らんし、ゲームかアニメの知識しかない。

調味料はギリ知ってるけど、ロマンがない……

異世界行っても不便なだけだ。

魔術は多分……センスで決まる。

努力!才能!知識!

ってノリなきがするんだよなぁ……

俺が見てきた創作も魔術は全部家柄か努力で決まっていた。

多分……向かない。


「やっぱ……超能力か……?」


てか何本気で考えてんの……俺


ふと我にかえりかけ、何考えてんだと馬鹿らしいような寂しいような気持ちを抱えそうになる。


でも俺はどうしようもなく


厨二病だった。


別に転生の結果なんて保証されていなくとも顔は。



笑っていた



「よし。青だ」


覚悟を決め希月は左側の青色の壁へと歩いていく。

扉までは20mほど。

ゆっくりと、確実に歩みを進める。

扉が目前へと迫ったその時。

ふと誰かの気配がして歩きながら後ろを振り返った。


「……え……?」


自分だ。

自分がそこにいた。

それも二人。

3つの扉の中心から丁度同じ間隔が空いたその地点に、

希月旭が二人歩いている。

振り返って止まっている旭の前で二人の旭は止まることなく扉へ進んでいた。

1人は赤の扉に、1人は緑の扉に、寸分のずれなく同じ歩幅、同じ速度、同じ姿で歩いていく。

進む方向だけ異なる2人の希月旭がそこにはハッキリといた。

扉と扉の感覚は120度空いておりギリギリ彼らの視界に映らず、自分と同じ姿の人間がいることに気づいていないようだった。

青の扉へ進んだ旭だけが、振り返りその場に踏みとどまっている。


ドッペルゲンガーってやつ……?


前世には、自分とそっくりな人間が2人いると口にする者がいた。

しかしそっくりなんて次元では語れないほどに、扉に歩みを進める人間2人は正しく自分そのものだった。


気味が悪いほど全く同じ様相の自分に目を奪われていると急に左側から吸い寄せられるような力を感じた。

最初は掃除機のような風を感じる程だったのが、一瞬で逆らえないほど強力な力へと変貌し旭は扉に吸い込まれていった。

意識はそこで途絶えた。

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