4話:言い忘れてたことがあるんだ。
「……っ! 失礼しました……!」
「別に気にしてない。けど、そんなにこの結果は驚くことなのか?」
「それについては、私よりも……”氷雪”様に聞いたほうが早いと思います」
なるほど。明らかに魔法については一家言ありますよって感じだもんな、マナは。
マナは結果については言葉もないようで、ただただじーっと見つめているのみだし、一通り処理が終わったら聞くことにするか。
「それでは、こちら冒険者カードです。まずは最下層の銅ランクからとなりますので、着実にランクアップしていきましょう」
受け取った冒険者カードは銅みたいな色あいだ。マナの持っている金色と比べると少しくすんで見えてしまう。
……そういえば、金級冒険者ってどれくらいすごいんだろう。
軽く制度については説明を受けているが、冒険者ランクについては聞いてなかったな。
「金級冒険者ってどれくらいすごいんだ?」
「そうですね……。軽い貴族であれば、金級冒険者のほうが偉いとされるほどです」
「一種の特権階級ってことか……。そう考えるとマナってすごいんだな」
「……ところで、一つお伺いしたいことがあるんですが、よろしいですか?」
マリーに頷きで返すと、「では失礼ながら」と切り出してきた。
「その、先ほどからおっしゃっている”マナ”という名前が、その、”氷雪”様の……?」
「ああ、本人からそう呼んでくれって言われてる」
本当は俺が名前を付けた、とは言わない。
名前がついてなかっただなんて喧伝するようなことでもないわけだし。
「……今まで、”氷雪”様のお名前を聞いたものは誰もいませんでした」
「あえて話すことでもなかった、とかじゃないか?」
「確かに、それはあるかもしれません。”氷雪”様ほどの方なら、今更名前を広めるよりは二つ名のほうが伝わりやすいでしょうしね」
少しだけ疑問に思われている様子ではあるが、冒険者は相手のことを深く詮索しないのがマナーらしい。
だからこそ、俺の適正について伝えるときもマナに席を外すように伝えたのだろう。
今はそういう風土があることに感謝し、俺は席を立った。
「今日は登録してくれてありがとう」
「いえ。何かお困りのことがあればお伝えくださいね」
マリーは笑顔を浮かべて、頭を下げるのだった。
■
「マイナスなんて、聞いたことない……!」
ギルドから出た後、人通りが少ない路地裏に連れ込まれた俺は、マナに質問攻めにされていた。
たいていは「わからない」で答えた……というかそれでしか答えられなかった。
だって本当に何が原因でそんなことになっているのかがわからない。
マナも「マイナスになる事例はあるけど、先天的」だって言ってたし、俺も多分そうなんだろう。
「でもこれで、魔法陣が起動しなかった理由が分かった」
「ふむ?」
「あまりに適性が低すぎて、魔法陣がソラの魔力を感知しなかった」
それはそれで悲しい事実かもしれない。
「まぁ、それがわかってうれしいっちゃうれしいけど……これからどうしようかねぇ」
「どうしよう、って?」
「え? ああ。いつまでもマナの世話になるわけにはいかないだろ?」
「何言ってる、の?」
え、と声に出た。まさか、ここまでにかかった諸費用を請求されるとか……?
それとも、強制労働で奴隷堕ちとか……?!
「……? なんで怖がってる?」
「いや、奴隷にされるんじゃないかって」
「……??? そんなことしない」
わずかだが目の端が吊り上がった。今の一言で怒ったらしい。
「そもそも、ソラは使い魔。使い魔は主人から離れられない」
「え?」
「……あっちに歩いてみて」
言われるがままに、俺はマナから離れていく。
すると、一定の距離離れたところで、前に進めなくなる。
足がコンクリートで固められたみたいに、動かない。
「こういうこと」
「まぁ、何らかの代償があると思ってたけど……まさかこんなことになるとは」
「だから、これからよろしく」
マナが、手を差し出してきた。
その手を取ろうと手を伸ばして……その前に、一つだけ言い忘れていたことがあることを思い出した。
「マナ、言い忘れてたことがあるんだ」
「……?」
「助けてくれて、ありがとう。感謝してる」
俺の言葉に、マナは小さく頷いた。
そして手をもう一度差し出して……今度は小さく、ほんとうに小さく笑った。
「どう、いたしまして」
俺も照れ臭くなって、すこしはにかんで。
マナが差し出した手を、弱弱しく握ったのだった。
■
さて、そんな感じで感動的な始まりを迎える感じのシーンの直後。
流石に野宿するわけにもいかないので、宿を探していた俺たち。
無事に宿は見つかったのだが、問題はそのあとで。
「あの、なんで二人で1部屋なんだ……?」
「使い魔と主人だから、これが当然」
そんなことを言いながら、マナはローブを脱ぐ。
ローブの下、そんな薄いシャツ一枚だけなんですか?!
「おい、男がいる前だぞ……!」
「……ん。ソラ、恥ずかしいの?」
「お前は恥ずかしくないのかよ!」
「……別に? 私のこと、そんな目で見る人なんていないし」
その言葉に引っ掛かりを覚えた俺は、背けていた目をマナに戻す。
肌着一枚になったマナがそこには立っていた。真っ白な肌に、月の光みたいに綺麗な銀色の髪の毛。青い瞳。細い体。
まるで芸術品のようだ。……それだけを見ていれば、だが。
ことさらに俺の目を引いたのは、胸にきらめく小さな宝石だった。
血のように赤い宝石だった。
「……マナ、それについて俺は聞いていいのか」
「ん。問題ない。ちょうど話そうと思っていた」
マナは窓の外を眺めて、振り返る。
いつも通りの無表情。だがそこには、明確な不安があるように思えた。
……打ち明けることへの、不安だ。
「あのね、ソラ。私は――人間じゃない」
「人間じゃ、ない……?」
「ん。そう」
俺は唇を真一文字に結んで、こぶしを握る。
マナの続きの言葉を、待つ。
「――私は、
こちらを見つめる無機質そうに見える瞳は、しかし今確かに、不安に揺れていた。
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