夢落ち?

 ここ数年で一二を争うほどの大雨が石畳に降り注ぐ。

 私の傘にも勢いよく打ち付けられる。

 雨と傘で前がよく見えない。

 こんな時はゆっくり落ち着いていくに限る。

 幸い自宅を出るときに見た家の時計の時間はまだまだ余裕があったから大丈夫だ。

 なるべく水たまりを避けるようにして駅へと向かう。

 それにしてもこんな大雨なのに会社はいつも通りあるだなんてどうかしているんじゃないかな。

 正直大雨の日は休みでも全然いいと思う。どうせ外出しないから町が回ってなくても何とかなるでしょ。

 なんて適当なことを考えていたら、道中の公園が見えてきた。

 子供のころはよく公園で遊んでたけど大人になった今はすっかり遊ばなくなっちゃったな。

 ふと、公園の敷地にある時計が目に入る。

 11時

 え⁉思わず二度見する。

 11時

 見直しても変わらない。

 予定の時間は10時

 家を出たときの時計は8時を指していた。

 どういうこと⁉駅まで15分くらいなのに!

 公園の時計がおかしいんじゃ。

 そんな希望を考えたが、公園にある二つの時計が全く同じ時間を指している。そのうえ見ている間に針が進んだから。止まってもいない。

 ってことは、家の時計がおかしかったってこと⁉

 急がないと!

 濡れることも気にせず走り出す。

 はぁはぁはぁはぁ

 息が乱れる。

 でも駅が見えてきた!

 ツルッ

 世界が上下反転する。

 へ⁉

 頭に強い衝撃が襲い掛かり、意識は暗転した。


 ボーっとする意識の中、誰かの話し声が聞こえる。

 誰か、泣いてる?それを別の誰かが慰めているみたいだ。

 誰だろう。なんだか聞き覚えがある気が・・・

 そう思いながら、再び意識は暗転した。


 目が覚めた。

 あれ?目の前がまっくらだ。

「や・・・らかに・・・のよ」

 え?誰?

 ひとまず起き上がろ・・・あれ。

 体がほとんど動かない。

 なんだか狭いところにいる。

 背筋が冷たくなる。

 体がまっすぐ動く感覚がする。

 何⁉何が起きているの!

 何も聞こえなくなった。

 真っ暗、無音。

「だれか!たすけて!」

 思わず叫ぶ。

 帰ってくるのは無音。

 何かが付く音がする。

 少しづつ温度が上がってきた。

 肉が焼ける感覚がする

「あつい!あつい!だれか!たすけてえええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!」

 叫んでも何も起こらない。

「たすけて!たすけて!だして!だして!だして!だ・・・」

 のどが焼ける。

 声が出なくなる。

 熱すぎて感覚がなくなる。

 今まで感じたことのない恐怖の中、私の意識は暗転した。


「いやああああああああああ!!!!」

 かつてないほどの悲鳴が私の口から洩れる。

「だ、だいじょうぶですか?」

 高校生くらいの男の子が私の顔を覗き込む。

 あれ?私、生きてる?

「お姉さん、倒れた後しばらく苦しんでいたんですよ」

 そうなんだ。てことはあれは夢?

「ありがとう。ごめんね、心配かけて。もう大丈夫だから」

 私の言葉に安心したのか男の子は去っていく。

 私も急がないと。

 そう思い起き上がると焦げたにおいが鼻を刺す。

 雨でびしょびしょに濡れた髪と服がところどころ焼け焦げていて、ところどころ煤もついている。

 夢・・・だったんだよね・・・?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

単話完結集 月夜アカツキ @akatsuki0707

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画