飯テロ

 カチッ

 時計の針が深夜0時を告げる。

 窓の外は当然のように暗く、わずかにまだ起きている人の家の明かりが漏れ出ているのみ。

 かく言う私もまだ起きているんだけど。

 明日、と言うか今日か、とにかく締め切りが迫った仕事を済ませているうちにこんな時間になってしまった。

 うーーーん

 と体を伸ばす。

 そろそろ寝ようかな。

 そんなことを考えていると、ブーブーとスマホが鳴った。

 こんな時間に誰だろう。

 別に開かなくてもいいのに気になって開いてしまう。

 同じ職場の友人からだった。

『みてみて!めっちゃ美味しそうじゃない?』

 そう書かれたメッセージと一緒に料理動画が送られてきた。

 作られているのはカツ丼。

 見ているだけで味、匂いが伝わってくるようだ。

 なんてものを何で時間帯に送ってくれたんだ!

 私は『おいしそう!』と送った後に『飯テロだ!』と付け足した。

 グー

 思わずお腹がなってしまう。

 口もすっかりカツ丼の口になっている。

 こんな時間にこんなものを食べるのは罪深すぎる。

 そんなことはわかっているが、体が台所へと向かってしまう。

 冷蔵庫を開ける。

 材料は・・・あった。あってしまった。

 こうなったらもう止まれない。

 玉ねぎを切り、豚ロースに下味をつける。

 衣を纏わせ熱した油に入れた豚ロースはジュワーと衣が揚がる音がする。

 いい色になったら油から取り出す。

 油をきっている間に熱したフライパンに水、調味料、玉ねぎを加えていためる。

 しばらくいためていたら玉ねぎに火が通ってしんなりとしてきた。

 あたりに広がるいい匂い。

 このまま食べたい気持ちを抑えつつ切った豚カツと溶き卵を加えたら蓋をする。

 少ししたら蓋を開ける。

 湯気とともに広がる香り、そこにあるは魅惑の料理。

 急いで写真を撮る。

 もう待ちきれない!

 私はレンチンしておいたお米をどんぶりに入れて、その上にフライパンの上のを全部のっけた。

 たまらずそのままかぶりつく。

 うーん!美味しい!

 ふわふわの卵が絡んだ柔らかいお肉。そこに加わる玉ねぎの甘さと調味料の甘味としょっぱさ。

 それだけでも最高なのに、そこに深夜に食べると言う罪悪感が加わる。

 口いっぱいに広がる幸せの味。

 一口、二口と箸が進む。もうとまらない!

 あっという間に平らげてしまった。

 ごちそうさまでした。

 私は満足感に包まれながら歯を磨いて眠りについた。

 

 翌朝、昨日のことへの後悔とそれでも感じる満足感が襲ってくる。

 そうだ!忘れないうちに・・・

 その日の夜、私は友人にメッセージを送った。

『みてみて!美味しそうでしょ!』

 送ったのは昨日とっておいたカツ丼の写真。

 ブーブー 

 すぐに返事が来た。

 なんて来ているのかは予想がつくけど、メッセージを開く。

 そこには一言こう書いてあった。

『飯テロだ!』

 

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る