単話完結集

月夜アカツキ

部活動見学

 キーンコーンカーンコーン

「なあ栞、部活動見学どこに行くか決めた?」

 帰りのホームルームがおわるなり同じ中学出身の友達であるうたが私に声を掛けてきた。

 私たちは今年から高校生。今はまさに新しい青春に胸を膨らませているところです。

 そんな私たちは今日から部活動県見学が始まります。詩はすごく楽しそうにしているけど…

「実はまだ決めてないんだよね。正直自分がどんな部活に入りたいのか分からなくて」

 何かしらの部活に入りたいとは思っているけど、私は運動も音楽も芸術も全然できない。そんな私はいったいどんな部活なら楽しくやっていけるのだろうか。

 するとそんな私の様子を見た詩は私の手を取って教室の外に連れ出した。

「そんな考え込むなって。そんなの行ってみりゃ分かるだろ」

「…たしかにそうだね。考え込んでても仕方がない。ありがとね。色々と行ってみよう!」

「そうこなくっちゃ」

 そうして私は詩と一緒に手あたり次第いろいろな部活動を見学しに行くことにした。

 軽音楽部、科学部、書道部、卓球部、バレー部などなど

 いざ回ってみると思っていた以上にたくさんの部活動が存在していた。

 どの部活の人たちも楽しそうに活動していてすごくいい部活なんだろうなとは思ったけど、私にはしっくりこなかった。

「ごめんね、詩。こんなにつき合わせちゃって」

「気にするなって。それよりも何かいい部活はあったのか?」

「どこも楽しそうだけど私には合わないんだよなあ。最後の部活が合わなかったらどこかに当たって砕けろの精神で入部しようかなあ」

「それはそれですごいけどな。ところで最後の部活ってたしか『文芸部』って部活だっけ。どんな部活なんだ?」

「さあ?」

 文芸部、名前は本とかでよく見るけど具体的にどういう部活なのかわからない。いかつい部員がいる怖い部活だったらやだな。

 そうこうしていると文芸部の活動場所までやってきた。

「それじゃあ開けるぞ。」

 扉を開けるとそこには昭和の不良風の部長が・・・と思ったらそこにいたのは厳つさとは正反対のいかにも優しそうな人がいた。

 私が想像との違いに拍子抜けしていると、件の人がすごい勢いでやってきた。

「文芸部に興味があるの?文芸部は特に活動していない来ても来なくてもいいっていう不思議な部活で、顧問の先生は殆ど来ないし、もし百人一首がしたかったらいつでも誘ってくれたらするし、肩部でもいいし、ただ部活に入っているっていう肩書が欲しいだけでもいいからよかったら文芸部に入らない?」

 ・・・いきなりのことに頭が追い付かない。え、活動してない?来ても来なくてもいい?そんな部活が存在するのだろうか。

「本当になんの活動もないんですか?」

「ないない、あるんだけどしてない」

 ぽかーん

 思わず私と詩は顔を見合わせてしまった。

 こんな部活見たことない。おそらく全国で見ても珍しいタイプの部活だろう。

「ちなみにそのしてない活動っていうのはどんな活動何ですか?」

「部誌作成と大会やコンクールへの参加だよ。これでも昔は大会で賞を取れるくらいの部活だったんだよ!もしやってみたいのなら全然やって大丈夫だよ。基本フリーが売りの部活ですから」

「大会ってどんなのがあるんですか?」

「えっとねー、一番大きな大会は文化の日あってね、そこでは部誌、詩、散文つまりは小説、短歌っていう部門に分かれて参加するんだ。まぁ詳しいことはその年ごとの大会の概要を見たらわかると思うよ」

 それを聞いて私は「ここなら」と思った。

 実は私は前々から小説を書いてみたいと思っていた。だけどなかなか機会が無くて結局書けずじまいだった。

 だけどここでなら部活動として書ける。

 その時私はここに来るまでの不安がすっときえていくのを感じた。

 私たちは先輩にお礼を言ってその場を後にした。

「で、どうするんだ?いいところあった?」

「うん。私、文芸部に入ることにする」

「おっ!いいところ見つかったんだ。よかったな!」

「そういう詩は、もうきめたの?」

「もちろん!俺はね・・・」

 こうして私たちの青春はまた一歩前進した気がする。

 これからどんな毎日が待っているんだろう。大きな期待を胸に、私は入部届を提出した。

 ちなみにこれから数年後、『ミリオンセラー』と書かれた帯が付いた私の本が全国の書店にならぶことになるのだがそれはまた別の話。

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