第6話 お迎えにきた変身上手な部下さん

 お客様がいなくなった不動産オフィス。私は三人分のお茶をいれてあげているところです。

 あぁ、お菓子は私の分ですよ?


「下の生活を見てくるといってもう半年ですよ? いったん戻って下さい!!」


 グダエラ様の部下、キングノブカイチデス、略してグノさんがグダエラ様に詰め寄る。

 半年もお任せになって何をしてたんですか。まったく。あぁ、でもそうですね。シタッパーズじゃないとあのお家を紹介されることはなかったでしょうからそのためだったのかもしれません。

 いたく気に入っていただけたようですからね。

 二人の話されている机の横にそっとお茶を運び、自席に戻る。

 雑魚スライムの私が国家機密的なお話を聞いても大丈夫なんでしょうか。出来れば場所を変えてくれないかな。

 そんな願いも虚しく、二人はストンと近くの椅子に腰をおろしお茶を飲み始めた。

 魔王グダエラ様の姿のグノさんはグダエラ様にねちねちねちとお説教を始めていました。

 二人は仲良しなのでしょうか。魔王とその部下というよりも親友や悪友といった印象を受けます。


「で、戻れるんですよね。戻りますよ! 今すぐ」


 はい、とっとと連れて帰って下さい。その方がこちらとしても自由に戻れるというものです。


「まだもっと知りたい」

「ダメです。帰りますよ」

「もう少し」

「ダメです!! もう限界なんですよ!」


 長そうだな。お菓子をつまみながら様子を見守ります。予約のお客様、夜にもう一件あるなぁ。これが終わってから帰ってくれないかなぁ。なんて。

 私が二人を見ているとグダエラ様(本物)と目が合いました。さっきまで駄々をこねる子どもみたいだったのが嘘みたいに大人の顔に戻る。


「帰るぞ。グノ」


 え……、帰っちゃうんですか?

 今日はまだあと一件仕事が。それに社長だってまだ帰ってきていないのに。

 だからなの。帰ってほしくないわけじゃない。そう、仕事が残ってるからそれだけやってもらいたいなーって思ってるだけなの。うん、それだけ。

 だから、帰ってもらっても全然さみしくないですよ。

 心がちくちくと痛むのは気のせいだ。

 彼は魔王様で、私はシタッパーズ住宅内見案内係。

 お家を紹介し終わった彼は、ここから出てしまえばもう私とはなんの縁もなくなる。だけど、少し前だってそうだったんだから。ただ、戻るだけ。それなのに、どうしてこんなにさみしく感じるんだろう。


 あ、そうか。私まだ高級お菓子を彼から取り返してないからだ!! あれ、どこにやったんだろう。


「それじゃあ行きますよ」

「……帰ってくる」


 お戻りになるんですね。

 魔王様がくる。それからほんとびっくりしたこと多かったです。ほんの少しの時間でしたが楽しかったし、助けられて感謝もしています。なので高級お菓子はおいていってくださいね。


「はい、ご来店ありがとうございました。またお部屋や何か用事がありましたらいつでもお声がけ下さい」


 あの男、おっと魔王グダエラ様は振り向きもせず、グノさんと一緒に出ていかれました。

 お店には、少しはやい季節の移り変わりの生あたたかい風が吹き込んできました。


「さようなら」

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