第5話 ゴブリンのお客様④
「あぁ? 何だ邪魔すんじゃねぇよ、兄ちゃん」
「ホブ様! こいつもう一人いた従業員ですぜ!」
「んんー、あぁなら手間が省けたな。おい、お前! 今すぐここに契約書を持って来い。でないとそこにいるお仲間のように痛い目にあうぞ」
ぎひひと笑い声を上げながら私を指差してきます。
「グ……ダエラ様はやくお逃げ下さい」
私みたいな雑魚になんて構わずに、傷がつかないうちにさぁはやく。でないと私、魔王グダエラ様の側近とかなんか偉い人達に処されてしまいます。
あぁ、でもこのままでもきっと処されるのは変わらないのでしょうが。
悔しいな。私にも力があればこんなことには。
ただ、お客様にお家喜んでもらいたいだけなのに。
だから、この人たちにだってお客様としてだったら本当は……。
「ジャナ」
「ふぅぁいっ!?」
名前を呼ばれ緊張してしまう。だってそうでしょ。一介のスライムが魔王様から名前を呼ばれるなんてまず、ぜったいにほぼない事だから!
魔王グダエラ様の目が炎でも噴き出しそうなくらい深緑の瞳が燃えている。
あー、このままじゃ魔王様の瞳森林火災になっちゃうー。誰か水を持ってきてー!!
「オレより先にスライム姿を拝んだのはコイツか! こいつか!? それともあいつか!!」
「へっ?」
私は我に返り顔から火が出た。こっちでも燃え出しました。誰か水をー!!
いや、スライムだから赤くなってるのかどうかなんてわからないだろうけど?
ていうか、そこなの!? 今そういう状況じゃないのわかるよね? 魔王様ぁぁぁぁ!?
「ジャナの姿を見た者すべて消す!!」
「ほぇぇぇぇぇ!?」
何をしたのかわからない。一瞬でゴブリン全員が昏倒する。しかも――。
「あぁぁぁぁ!! お客様ぁぁぁぁぁぁっ!!」
コーズさんまで一緒に。
「ちょ、グダエラ様、何やってるんですか!!」
「決まっている。消すのだ。全員をな」
ひぃ、圧が強すぎて近寄れない。やっぱり魔王様だ。でもでもでも。
「ダメです!! お客様を消さないでくださぁぁぁぁぁい!!!!」
◇
「はい、では契約はこちらで完了です。よいハウスライフを」
笑顔でコーズさんを送り出す。
あの部屋に決めたそうだ。今日は奥さんも一緒にご来店いただいていた。
え、あんな場所で大丈夫かですか? 大丈夫なんです。
「安心しろ。消すのは存在ではない。記憶を消すのだ」
「へ?」
と、このようにグダエラ様が言いその通りきれいに私の姿を見た記憶だけを消したそうだ。本当ならグダエラ様の記憶からも消去しておいて欲しいです。
急いで服を着て人型に戻った時のグダエラ様の残念顔は見てはいけないくらいしょげておりました。これが現在の魔界の魔王様……。
再びスライムになって欲しい要請がありましたが丁重にお断りしました。
残念としょげたグダエラ様はそれでもすぐにお仕事モードの顔に復帰しました。
「……ここはセキュリティが駄目なのか。ならばオレの分身体を置こう。住人以外が侵入しようとした場合ここで確認と追い出しが出来るように」
魔王セキュリティの完成でした。え、こんなサービスつけてしまって大丈夫なんでしょうか。最強のセキュリティには違いないですが……。
「ありがとうございます。ではこちらにサインを――」
「家だ。ついに家が!!」
「やりましたね! ホブ様」
記憶を消されたホブ様御一行はコーズさんのお家からずーっと遠くに強制契約……おっと、新規契約を結んでくださり一件落着です。催眠等は使っていないそうですが、目が笑ってない笑顔の魔王様本人を前に断るなんてマネをする下っ端はまずいないですよねぇ。
「上も下もない世界にしたいのだが」とかなんとか言っていましたが、なかなか難しい話ではあるかと思います。
「で、そろそろ帰れるのか?」
グダエラ様の横にグダエラ様が立っている。
グダエラ様は双子だったのでしょうか。いいえ、彼は変身が上手い部下さん。
魔王様の身代わりをしていた方です。彼を留守番に据えてグダエラ様は私のもとにやってきたのでした。あれ、じゃあお城のお留守番はいったい?
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