No.1スナイパー西郷の終活(KAC20242作品)

さんが(三可)

No.1スナイパー西郷の終活

 ビルの屋上から、ライフルのスコープを覗く男が居る。長年スナイパーをやって来た男の、引退の時は近い。


 幾ら研鑽を積んでも、寄る年波には勝てない。徐々に進む老眼。それでも、永年培ってきた感覚は、多少のことで狂わない。老眼が進んでも、体は覚えている。


 しかし、それも限界はある。それまでに安心して暮らせる、終の棲みかを探さなければならない。

 力の衰える隠せるうちが勝負。悟られてしまえば、男を命を奪いにくるヤツらがいる。男を倒せば、No.1の称号が得られるのだから。


 だから、男は内見に来ている。


 スナイパーにとっての内見とは、中の様子を知ることではない。外から中が、どのように見えるか。如何に狙撃されにくい立地にあるか、それだけが重要になる。


 めぼしい場所は幾つかリストアップしていたが、満足出来る場所は無かった。今回の場所が最後。ここがダメだったら、この街を出るつもりでいた。


「ふうっ、ここは大丈夫そうだな」


 独り言を呟き、笑みが漏れる。危険な街ではあるが、住み慣れた街でもあり、男にも愛着はあった。


 しかし、そこで異変が起きた。暗かった部屋には明かりが灯り、カーテンに人影が映る。


「マズい。俺以外に内見に来ているヤツがいるとは」


 長らく空き部屋だった一室。事故や事件が多く、いわく付きの場所。

 男が選んだ場所だけあって狙撃は難しい。しかし、このまま行けば、先に契約されてしまう可能性がある。それだけは避けなければならない。


 何の迷いもなく、引き金に手をかけた。そして、唯一狙えるポイントに来ることを待つ。内見に来ているのだから、部屋の隅々まで見るはず。


 そして、そのポイントにターゲットが入った。


 人影は1人じゃなかった。カーテンの人影は、子供を抱き抱える親子の姿。


 男は黙ってライフルを仕舞うと、何も言わずに、何の痕跡も残さずに街を出た。それから、この街のスナイパーは減って行く。



 人間辞めますか、それともスナイパー辞めますか?

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