第39話 キスもしたかった

「え?」


 星矢は前から歩いてきた春花と悠馬を見て驚いた。星矢は悠馬の事を知らないため、自分の彼女が知らない男と歩いている所を目撃したのだ。何かを察したのか、悠馬は「あ、俺、用事思い出したんで先帰りますね!」と言って走ってその場を去った。


「久しぶり。星矢さん。今のはね、後輩社員!私が面倒見てて仕事の相談でちょっとご飯行っててその帰り。安心して、何もないから」


春花と悠馬は本当にただ相談していただけなのだが、春花は何か悪い事してる気になってしまい、浮気を隠す彼女のような話し方になってしまった。


「わかってるよ。信じてる」


「じゃあね。本番最後まで頑張ってね。楽しみにしてる」


そう言うと二人はハイタッチして別れた。


………キスもしたかった………


別れた後の春花の本音はそれだった。


 

 一方の星矢は春花を信じてはいるものの、やはり一緒にいた後輩社員の存在が気になってしまい、探るように博に連絡した。


『春花最近どう?後輩社員と何かあったりしない?』



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〜中野春花の視点〜


 翌日。春花は博に「昨日星矢となんかあった?」と聞かれた。春花はたまたま青木悠馬と二人で帰ってる所に星矢と出くわしたと話す。


「それだけか。それだけなら大丈夫だと思うけど何で星矢、俺にあんなこと聞いてきたんだろう」


「会う頻度が減ると不安になるからですよ」


愛未が博と春花の会話に口を挟む。


「私も遠距離恋愛してるとき、そうだったよ。離れているからこそ、少しの行動やすれ違いも不安になっちゃって。きっと星矢さんも最近会えてない状況下で春花が男女二人でいるところを見ちゃっていつも以上に過敏に反応しちゃったんだと思う!」


「そっか。とりあえず誤解は解きたいな」


「まあ舞台終わってからゆっくり話せば良いんじゃないか?話せば分かるだろ、星矢だって」


博は必死に春花を慰めた。その会話を内間さんも近くで聞いていた。




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〜真鍋星矢の視点〜


 星矢はやはり昨日、春花が男と二人で歩いていた事を思い出してしまい、舞台袖で頭が真っ白になってしまった。さらに本番中も頭から離れず、セリフを何度か間違えてしまった。周りの皆がアドリブを入れて誤魔化してくれたため、なんとかなったが本番終了後、星矢はプロデューサーに呼び出された。


「何、今日の演技。セリフはトチるし心ここにあらずって感じだったし。やる気ないなら代役に変わってもらう事だってできるんだからな?」


怒られた。当然だ。お金払って観に来てくれるお客さんがいるのだから。星矢は分かってはいたが同時に春花の不安にさせる行為に苛立ちも覚えた。



………何だよ、せっかく久々に電話しようと思ったらできなくてその上、こっちが本番の時に男の後輩と食事とか。………


星矢はイライラを募らせてその日はホールを出た。ホールの出口の所でさやかさんが待っていた。


「随分疲弊してるね。私で良かったら話聞くよ?ラーメンでも食べに行く?」


「行きたいです!」


即答だった。多忙を極め、精神的余裕がない中、彼女の不安にさせる行為への苛立ちが募り誰かに話さずにはいられないと思ったからだ。星矢とさやかさんは二人でホール近くのラーメン屋に入って行った。



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〜中野春花の視点〜

 

 春花は博に舞台終わってからゆっくり話すように言われたが誤解をすぐにでも解きたいと思い、星矢の本番を行っているホールまで走った。スッキリした気持ちで最終日、星矢の本番を観たかったし星矢にもモヤモヤをずっと持ち続けたままパフォーマンスさせるわけにはいかないと思ったからだ。

しかし、その行動が仇となった。ホール近くまで来た春花は星矢とさやかさんが二人でラーメン屋に入って行くのを見てしまったのだ。


………何だ。そっちだって二人でご飯行ってるじゃん………


春花は何とも言えない気持ちになり、その場をすぐに立ち去った。









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ここまで読んでくださり、ありがとうございます!主人公が誰と結ばれるのか等、予想を応援コメントとかに書いてくれるととても嬉しいです。



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