第21話 記者会見

 一晩あけ、天音はいつもより早めに会社へ向かった。


 天音が会議室の中に入ると、重役たちはすでに全員集まっていた。


「おはようございます」


 重役たちは一斉に立ち上がり、天音にあいさつした。


「おはよう」


 天音は一言、重役たちに言葉を返すと、すぐさま一番奥のイスに腰掛けた。


 居並ぶ重役たちの顔を見ると、皆、一様に疲れが見えた。


 自分と同じように、昨晩はなかなか眠れなかったのだろう。


 全員席に座るのを見届けてから、天音はゆっくりと口を開いた。


「昨日、伝えた通り、成分を水増し表記していたことと、材料の調達先を偽っていたことがマスコミにばれた。今後の方針として、我が社はどうすべきか、皆の意見を聞きたい。挙手をして発言してくれ」


 重役の一人が手を挙げた。


「社長。全て正直に公表すべきです。成分を水増し表記しただけなら、現場が間違った配合をしたと言い逃れすることもできますが、材料の調達はそうはいきません。ここは記者会見を開き、マスコミに正直に全て話した方がダメージは少なくなると思います」


「うん。他に意見は?」


「社長。質問ですが、昨日社長に声をかけてきた記者は、情報にかなり自信を持っている様子でしたか?」


 別の重役が質問して来た。


「ああ。そんな感じで質問して来た」


「でしたら、正直に全て話した方がいいと思います。彼らが他にも情報を持っていた場合、それを小出しにして何週にも渡って書かれる可能性がありますから」


「なるほど。そうされるのが一番ダメージがでかいな」


「はい」


「分かった、他に意見はないか?」


 他の重役たちにも意見を求めたところ、全員正直に全て公表した方がいいという意見だった。


「分かった。早速、今日の午後に記者会見を開いて、そこで全て話す。総務部長」


「はい」


「すぐに記者会見の手配をしてくれ」


「分かりました」


「他の者たちは手分けして記者会見が開かれる前までに全ての取引先に謝罪してくれ。以上だ」


 天音の指示を受け、重役たちはいっせいに動き始めた。




 午後2時、天音はマスコミの前で謝罪会見を行った。


 会見の冒頭、天音はきちんと不正したことを公表し頭を下げた。


 そして一連の不正の説明を行った後、集まった記者たちからの質問に答えた。


「なぜ、不正を行ったんですか?」


 前列にいる記者が、天音に質問してきた。


「早く結果を出したかったからです。もっと地道に少しずつ会社を大きくしていくべきでした」


「その早く結果を出したかったという気落ちは、利益を早く出したかったからですか? それとも父親や世間から早く認められたかったからですか?」


 別の記者が聞いて来た。


「両方です。利益も早く出したかったですし、父からも世間からも早く認められたいという思いもありました。結果、多くの方にご迷惑をおかけすることになってしまい、本当申し訳なく思っております」


「今回の不正について、父親の今瞭征さんには、すでに伝えたのでしょうか?」


 今度は前列中央にいる記者が質問してきた。


「はい。先ほど電話で伝えました。大変、憤っておられました。後ほど直接謝罪に伺いたいと思います」



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