第22話 父との会話
記者会見が終わったその日の夜、天音は今瞭征がいる教団本部を訪れた。
建物の中に入り応接室のドアを開けると、そこには次男の来紀に三男の大世、それと長女の竹本莉凛がソファーに腰を下ろしていた。
「なかなかいい記者会見でしたよ、お兄様」
来紀が嫌味を言ってきた。
「今はお前と冗談を交わす気はない」
天音は切り捨てるように言葉を返した。
「いえいえ、純粋に褒めているんですよ。エベレストよりも高いプライドをお持ちのお兄様が、みんなの前で頭を下げたんですから」
「なあ、莉凛。こいつにも神のお告げは届いていないのか?」
「はい。実は届いています。来紀兄さんの周辺では、今、裏切りの種が芽吹こうとしています。誰かに裏切られることがあるかもしれませんので、お気をつけください」
莉凛は淡々とした様子で答えた。
「おっ、おう」
来紀は少し戸惑う様子を見せながら返事をした。
「そして、大世兄さんには、恋の嵐が吹き上がるかもしれません。異性関係だけは、十分にお気をつけください」
「ええ。女の子と解脱したらダメなの?」
大世が残念そうに言った。
「俺たちの場合、そこは昇天だろう?」
来紀が突っ込んだ。
「確かに」
大世が笑顔で言った。
「莉凛。こいつらのお告げは、何で俺と比べて緩いんだ?」
天音は莉凛にたずねた。
「お告げの内容が起きるかどうか、まだ未確定だからです」
「そうなのか?」
「はい。未確定であるがゆえ、天音兄さんの時と比べて緩いお告げになっているんです」
「へー。兄貴がそこまで気にするってことは、莉凛のお告げはよく当たるんだな。気をつけるよ」
来紀が砕けた表情を元に戻し言った。
「失礼します」
若い男が二人、応接室の中に入って来た。
そしてその後ろから父で教祖の今瞭征と、母で総裁の今櫻子(こん さくらこ)が続けて入ってきた。
四人は一度、ソファーから立ち上がり、二人を迎えた。
そして、二人が席に着き、瞭征が座れのジェスチャーを出してから再び腰を下ろした。
「夜分、よく来てくれた。急遽、集まってもらった理由は、皆分かっているな。天音」
「はい」
「お前、一体、何をやっているんだ」
瞭征の怒号が部屋中に響き渡った。
「申し訳ございません」
天音は床に座り、瞭征に向かって頭を下げた。
「お前は今まで我々が長年積み上げてきた信用を壊したのだぞ? 分かっているのか」
「はい。私が浅はかでした。もう二度とこのようなことは致しません」
「ここにいる全員に頭を下げて謝れ」
「はい。母さん、来紀、大世、莉凛。俺が悪かった。このようなことは二度としない。許してくれ」
天音はきちんと頭を下げて謝罪した。
「天音」
「はい」
「とりあえず、選挙が終わるまでお前は謹慎していろ。今、お前が動くことで選挙の風向きが変わる恐れがある。よいな」
「分かりました」
「他の者たちも、絶対に問題は起こすなよ」
「はい」
他の兄弟たちも、それぞれ瞭征に返事をした。
新しき学びの宿の信者である妹尾は、駐車場にて会議が終わるのを待っていた。
「ご苦労さん」
後部座席が開き、来紀が車に乗り込んできた。
「お疲れ様です、来紀さん」
妹尾は読んでいた本を助手席に置き、シートベルトをした。
「今日、面白いものが見れたぞ。兄貴が頭を下げて、俺に謝ったんだ」
「本当ですか?」
「ああ。今回のことは、兄貴も相当こたえたみたいだな」
「結構、大きな事件になりましたからね」
妹尾は車のエンジンをかけた。
「あの姿を見れただけで、俺は今日ここに来た甲斐があったよ」
「教主様はどんな様子でした?」
妹尾はゆっくりと車を動かしながら、来紀にたずねた。
「ブチギレてたよ。兄貴に選挙が終わるまで謹慎してろって」
「まあ、そうでしょうね」
「だけど問題はこれからだ。兄貴の会社とはいえ、教団の信用はガタ落ちしたからな。なんとか人気を取り戻さないとな」
「でも、来紀さんはすでに打開策を思いついてるんですよね?」
「そう見えるか?」
「ええ。悲壮感を全く感じませんから」
「相変わらず鋭いな秀明は」
「何をするんですか?」
「若者を惹きつけるためのイメージアップ動画を作成しようと思う。明日の午前中、勝敏(かつとし)と和香菜(わかな)さんをスタジオの会議室に呼んでくれ」
「分かりました」
「ああ。それと彼も呼んでみようかな」
来紀はポケットからスマートフォンを取り出した。
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