第3話「協力者」
朝のHR前に
「連絡事項としましては、ここ最近近辺で不可解な事件が立て続けになっていることもあり、教育委員会からの連絡で生徒たちの皆さんの安全のために体育系・文系問わず朝の部活動を含めた部活動の禁止、終業したらすぐに下校することを徹底することになりました」
「……組織が裏で手を回したのかもしれませんね。現場もそれなりに学校と近いから、犠牲者が出てしまわないようにした可能性があります」
環菜がそのように呟いた。
『組織の連中もパトロール増やしたりしているんだろ? それなのにこうやって色々なことに影響が出るのって、やっぱマズイんじゃねーの?』
『ハッキリ言ってマズイですね。基本的に『帰還者』関係だけじゃなくて、魔術関係の事柄が表に出ないようにすることも私たちの仕事ですので、こうやって影響が出始めたとなると、元凶を潰しておかないといけないです。最悪のケースも想定しないといけなくなりますね』
頼孝の質問に環菜はそう答える。周りの生徒に聞こえないように
ちなみに魔導器とは魔術師が使用する道具全般のことを指す。
『だから放課後に組織の協力者と合流して情報をもらってパトロールするんだろ。そうなった時点で最悪のケースはいつだって起きうる。他の『帰還者』のことは知らんが、見つけ次第殺すぐらいのことは考えておいた方がいいんじゃないのか?』
『それはダメ。ただ殺すだけじゃ問題の解決にならない。相手が組織として行動しているのか、個人として行動しているのか。その把握もしないといけないんだもの。そこら辺については、放課後のパトロールの時に協力者と一緒に改めて説明するから』
「……」
環菜の説明に釈然としない結人は机に肘を立て、眉間に皺を寄せる。
自分が
“コイツらが本当に草薙機関の連中なのか、それとも別に意図があるのか。その確証がないからな。どちらにしろ、多々見以外の『帰還者』連中がどんなヤツなのかもわからん。どのみち、その協力者というヤツも含めて探るしかないか……”
更に言えば結人は環菜たちを完全に信用したわけじゃない。
結人にとって「わからないもの」は基本的に信用できる要素などではなく、初対面の者に対しても立場関係なくすぐに信用しないことにしている。これも異世界での経験から来るものであり、共に戦った
一度根付いてしまったクセはどうしようもなく、無意識に行ってしまうものであり、自分を保護した草薙機関であっても「信用はする。だが信頼はしない」という認識で留まっているぐらいには徹底している。
それ以外にも頼孝以外の「帰還者」についての情報も少ないこともあり、万が一自分を裏切った時に備え、彼らを利用して少しでも多くの情報を掴もうと結人は考えている。
“ま、学業を疎かにすることは出来ないしな。適当にやって卒業できるだけの単位を取っておけばいい”
一度頭の中をリセットして、授業に少し集中する。
そこから放課後まで、特になにか起こるわけでもなく、1日の学業が終わるのだった。
◇◆◇
夕日が出始めた頃。窓から見える空の色が変わりだし、HRを終えて生徒たちは帰路につき始める。
学校の方針として、改めて放課後の部活動の一時的な禁止命令が出ていたのだが、「オカルト研究部」こと「特殊調査活動部」の面々は環菜が言っていた「協力者」がいるという、近くの公園に足を運んでいた。時間帯もあって道路には帰宅ラッシュの通行人や車の量が増え、人の通りが多くなり、街は喧騒に包まれている。
公園は都市部から少し離れた位置……。具体的に言うと、結人たちが普段生活する寮のある町の東部にある。かつては子供たちの遊び場だったのだが、近所に住まう住民たちの「子供の声がうるさい」という抗議によって制限されてしまい、今となっては人気の少ない老人たちの休憩所のようになっていて過去の憩いの声はない。
「葛城、今日は俺が奢るよ。飲み物なにいる? コーヒーとか色々あるけど」
公園のトイレの近くに設置されている自動販売機で頼孝は小銭入れを取り出し、結人に聞いた。
「悪い。コーヒーは飲めん。こっちの小さい麦茶をもらう」
「OK。……ん? コーヒー飲めないのか?」
「ああ。コーヒーは口に合わないんだ。酔う」
「そっかー。それじゃあしょうがないな。……いや、待て。酔う?」
なにかがおかしいと頼孝は一瞬真顔になって結人に言った。
「そういう体質なんだ。深入りしないでくれると助かる。今後、コーヒーを使った人付き合いは出来そうにないな」
「お、おう。じゃあ、麦茶でいいな」
聞きたいことがまた一つ増えたと思いながら、頼孝は自分が飲む用のコーヒー(無糖)と結人が飲む用の小さいペットボトルの麦茶、そして事前に頼まれていた環菜の分の緑茶を購入した。
「お、弦木のヤツ戻って来たな。どうやら隣の人が協力者らしいぞ」
「そうか。さて、どんな人やら―――――はっ?」
ペットボトルの蓋を開けようとした時、環菜が公園の入り口からスーツを着た中年男性と一緒に入ってきて、その男性の姿を見て結人は目を見開いて固まった。
「? どうした、葛城? なにかあったのか?」
頼孝が結人の様子を見て言った。
「多々見、葛城。お待たせ。この人が草薙機関の協力者のコードネーム・ガザミです」
「げっ。ま、マジかよ……!」
「はい?」
環菜が男性を紹介しようとしたが、男性の方が結人を見て動揺したことで環菜は少し困惑した。
「えっと……。葛城の知り合い?」
頼孝は結人と男性の反応にどういうことなのかわからないので聞いた。
「……俺の叔父だよ。
「……はっ!? 叔父さん!? マジかよ!?」
結人の言葉に頼孝はオーバーリアクションとも言えるほどの驚きを見せる。
「最っ悪……。いや、マジで冗談じゃねえ。よりによってなんでお前がいやがるんだよ」
結人の叔父と呼ばれた男性、葛城解斗は頭を抱えながら言った。
苦労という言葉が形となって刻まれたような強面に右の頬に切り傷があるというそっち系の筋を感じさせる白髪交じりのオールバックの強面で、スーツを着ていながらも鍛えられていることがわかる軸のブレのない体幹をしていた。
とにかく無駄がない。細身ながらそんな印象の体つきで結人から見ると、“その手”の仕事が良く似合うと思わせる人物だった。
「甥に対して随分な物言いだな、解斗。俺がいるって事前にわかっていたら面倒事避けるために来なかっただろうが」
「叔父に対する態度がそもそもなってねえお前に言われたくねえよ! この疫病神が! 相応の態度と礼儀を取れよ!」
「アンタなんかに払う礼儀や態度は万年品切れです。下の名前で呼んでいるだけありがたいと思えよ。……それで? コイツが草薙機関の協力者ってことか、弦木?」
結人は叔父である解斗にあからさまに嫌味な態度と物言いをしつつ、環菜に確認する。
「え、ええ。そうです。まさか貴方たちとは家族関係だとは思いませんでしたけど……」
「ああ、家族関係の所は気にしないでくれ。所詮は血の繋がった他人程度でしかないし重要じゃないからな」
「……そう、ですか。わかりました」
冷酷とも言える結人の言葉に環菜は複雑そうな表情を浮かべながらとりあえず納得した。
「マジで、どういう関係なんなんだ……? どう聞いても、家族同士でやる会話じゃねえぞ……」
その一連のやり取りを見た半ば置いてけぼりを食らった気分になった頼孝は顔を引きつらせるのだった。
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