第四章【青は藍より出でて藍より青し魔王】

第28話【何でいきなりそんな嘘吐くの?!】

 夢を見た。

 今の自分とよく似た顔をした少女が、下っ端の奴隷から犯罪組織の幹部になるまで過程を描いた夢。


「誰がここまで組織の力を強くしてやったと思ってんだい? 言っとくけど、私が死んだら、奪った異能の力は使えなくなるのよね? もう少し私の機嫌を取った方がいいんじゃないかしら?」


 傍若無人に振る舞い、組織の金を湯水の如く使い、贅沢三昧の日々を送る。気に入った者は甘やかし、気に入らない者はイビリ倒す。組織の長ですら無碍に出来ない存在になったことで、何をしても許されると思っているらしい。


「あら? 本当のことでしょ? 私のお陰で組織が大きくなれたんだから、その恩恵を得なきゃ損だわ。だというのに弁えろですって? 私を利用した分際で、偉そうなこと言わないで頂戴」


 ──夢はここで終わる。

 不思議な夢を見たと思いながら、ミウリアは起き上がる。


 頭が一杯だったので、夢のことはすぐ忘れた。


「冬休みになったらさ、帰省組は、すぐに帰省するの?」


「僕はうだな」


「私は……えっと、冬休みになって、次の日、を予定しています……」


「私もそれくらいかな〜」


「それならこの後皆で遊びに行かない? 帰省組は帰省したら、皆でどこかに出掛ける機会、冬休みが明けるまでないだろうし」


 ゼーレの提案により、全員でどこかに遊びに行くことになったのだが、その前にファミレスに寄り、昼食を済ませることにした。


「大丈夫? 出禁になってない?」


 ファミレスと聞き、ウテナが前世でファミレスから出禁を喰らったことを思い出し、ストラーナが今世では大丈夫なのか問うて来る。


「ファミレス出禁って……ウテナ様、一体何をなさったのですか?」


「サラダバーとドリンクバーを……一人で食べ尽くして飲み尽くしたら、ファミレス側から出禁になった感じだよ」


「店にとっては最悪な客だよな」


 アインツィヒがストレートな感想を口にする。


「念のため言っておくけど、ちゃんとドリンクバーもサラダバーも頼んだからね。頼んだら好きなだけ食べていいってルールだったから、満足出来るまで食べたら出禁だぞ? 私何も悪くないのにね。小学二年生がしたことなのに」


「客にとっては損失が大き過ぎるから、来て欲しくはないよな。てかお前、どんだけ食うんだよ。小学二年生でそれはヤバいだろ」


 己の妹の食欲の凄さに恐れ慄いた。


「今行く店ではやるなよ」


「やる訳ないでしょ、ゼーレ兄さん。私は沢山あり食べれるだけで、沢山食べないと駄目ってタイプじゃないし。普段は大人二人分くらいしか食べないよ」


「充分食ってるだろ。俺だってそんなに食わねぇよ」


 そんな会話をしている内に、最寄りのファミレスに辿り着く。店内に入るとすぐに案内され、待つことなく席に座ることが出来た。


「僕がまとめて注文するから、注文する奴これに書いといて」


 メモ用紙とペンと鞄から取り出すと、それを机に置く。各々注文したい物を書いていった。ウテナが多めに注文したせいで、メモ用紙は殆どが文字で埋まる。


 デミグラスハンバーグステーキ✕一、ビーフシチュー✕一、ミネストローネ✕二、コーンスープ✕一、シーザーサラダ✕一、ドリンクバー✕一。ウテナが注文した分だけで、これだけの量があるのだから、そこに他の人の注文が合わさったら、とんでもない量になる。これで良いのかと、店員に数度確認された。


「ここの会計なんだけどさ、じゃんけんで負けた奴が払うのはどう?」


「どっかの誰かさんのせいで、とんでもない金額になっているんですけど」


「じゃーんけーん」


「人の話聞けよ」


「ポンッ!」


 ファルシュが負けてしまう。


「そっか、ここの支払いファルシュか──お前、私の借金返していないよな?」


「あれは前世の話だろ」


「返していないのは事実だよな?」


「ああ、どうだったかなぁ」


「返してないよな?」


「そっすね」


「よし! 追加注文するか!」


「やめろ。お前が本気出したら流石に払い切れないだろ。財布が空どころかマイナスになるレベルだぞ!」


「じゃあ金返せ」


「ちょ、ちょっと待って下さい」


「実際に言われた通り待って、金を返って来たことがないんだけど」


「すんませんマジでやめて下さい今度こそ金融機関で金借りる羽目になるんです」


「お前の情けない面白い姿が見れてちょっと満足したから今回は許してやるよ。そのかわりに今日一日中私に敬語使えよ」


「はい分かりましたウテナ様」


「宜しい」


 ウテナの気紛れのお陰で、ファルシュの財布が素寒貧になることは避けられた。彼の財布から、お金がごっそりなくなったが。


 ファミレスで昼食を食べ終えた後、メーティス学園の最寄り駅にあるカラオケ店に移動した。


「ここの代金誰払う? またじゃんけんで負けた奴が払うの?」


「流石に俺はパスさせてくれ……俺の分はともかく、全員分払う金はないぞ」


「まあ、それでいいんじゃない?」


 ファルシュ抜きでじゃんけんした結果、負けたのはゼーレだった。


「兄さん払えるの?」


「カラオケ代とドリンクバー代くらいなら払えるよ」


 飲み物を取ってから、部屋に移動し、一人一曲ずつ好きな曲を歌っていく。どうしても喉が乾いて来る。自然と飲み物が進み、気が付けば、コップの中身がなくなってしまう。


「俺、飲み物を取って来る」


「私も……」


 ファルシュとミウリアはコップを持って退出する。その際、「私の分も宜しく」と、ストラーナとウテナにコップを渡された。


「なぁミウリア」


「はい……何ですか?」


「アイツに、飲み物を色々MIしたX暗黒物質ダークマターを渡してやろうぜ」


「いいですね……私、ストラーナ様のコップ、持っていますので……ストラーナ様の分、作りますね……」


「俺がウテナ分作るわ。けど、今俺が持って行ったら、借金返済求められるから、お前の飲み物を俺が持つから、ウテナの飲み物はお前に持っていってくれないか?」


「えぇ……いいですよ」


 ミウリアがストラーナにコーヒーのサイダー割りを作っている横で、ファルシュはコーヒーインコンポタージュを作っていた。ミルクを入れたようにしか見えない見た目をしていた。


 嫌がらせドリンクを作っていると、ユーベルがこちらに向かってやって来るのが見えた。途中で女性の声を掛けられる。どうやらナンパされているらしい。


(アイツをナンパする奴とかいるのか……どこにでも一定数物好きって存在するんだな。てか、あの人、勇気あんなぁ)


(ユーベル様、鬱陶しくなって相手のことを切らないといいんだけど……)


 二人が物陰から様子を窺いながら、そんなことを考えていると、女性がユーベルの名前を訊く。


「シャオ・ジンシです」


「えっ? 朔北仙さくほうせんの方ですか?」


「祖父母が朔北仙の人で、脱走して紅鏡こうきょうの国に来たんですよ。なので僕は生まれも育ちも紅鏡の国なんですけどね」


((何でいきなりそんな嘘吐くの?!))


「祖父母の時代と、少し上の世代の頃は、まだ警備が緩かったらしくて、ぐらいの時代は、脱走者が多かったらしいですね」


((何言ってんの!?))


「朔北仙ってやっぱヤバいとこなの?」


「僕の祖父母が脱走する程度にはやばいですよ」


「あ、うん」


 ナンパ女は逃げた。

 どうやら彼の経歴詐称を信じたらしい。


「何であんな嘘吐いたんだよ、お前」


「平和的に軟派なんぱかわそうとしただが?」


「平和的、でしょうか……斬り掛からないだけ、ユーベル様にしては、平和的ですよね……」


 経歴詐称するユーベルを置いて、激不味ドリンクと自分達のドリンクを持って行き、激不味ドリンクをストラーナとユーベルに渡す。


 コーヒーのサイダー割りを渡されたストラーナは、それを受け取り、口に含んだ瞬間──霧吹き状に吹き出した。


 ウテナは顔を顰めながら飲み干した。


「お前らふざけんなだよ」


 吹き出したストラーナは、咳き込みながら、飲み物を渡したミウリアを睥睨する。予想通り不味かったらしい。


「……ストラーナ様もそんな顔するのですね」


 睨まれた当の本人は、睨まれたことをあまり気にしておらず、のほほんとしているが。


「これ何? 何なの?」


「珈琲の、サイダー割りです……」


「マジかよ」

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