第27話【どうせ本命はこれからなのだから】
デリットはただただ逃げた。
このままでは死んでしまうからだ。
硫酸を掛けられ、電撃を浴びせられ、貰った装備を鹵獲され、逃げる以外の選択肢を奪われた彼は、ただひたすら遠くへ逃げようとした。
態勢を立て直す。
今は引かなければならない。
もう一回やり直そう。
今度こそ、上手くやる。
絶対に失敗するものか。
死に掛けの体の引き摺って、一歩でも彼女達から離れようと躍起になっていたとき──ガンッ!
頭に、何か固い物が、勢い良くぶつけられる。
頭が揺れ、視界が狂い、地面に倒れ、指先くらいしか動かせない。声を上げることも出来ず、追撃から逃れることも出来なかった。
「貴方が、壊そうとするから」
ガンッ!
「また奪おうとするなんて」
ガンッ!
「邪魔しないで下さい」
ガンッ!
「また、私から」
ガンッ!
ボソボソと喋っているため、断片的にしか聞き取れない。辛うじて男の声であることは分かる。彼はその後も、何度も何度もデリットの頭を石で殴り付け、彼が殴るのをやめる頃には原型がなくなっていた。
どんよりした
今彼が何を考えているのか、本当の意味で知ることは誰も出来ない。本人さえも、理解しているのかどうか怪しいくらいだ。
何喰わぬ顔で自宅へ戻り、いつも通り就寝した次の日。
「頑張って証拠を捏造したから、あの件、表に出ていないみたいだね」
「全員で捏造しましたもんね……」
今朝のニュースを眺めながら、車の事故として片付けられているあの件について話す。横でそれ聞いていたメランコリアは、わしゃわしゃとミウリアの頭を撫で回した。
「メ、メランコリアさん?」
「きっと彼も心配していたのだろうね」
「ご、ご心配お掛けしました……も、もう、大丈夫ですので……」
今度は抱え込むように、頭を撫で回される。悪化した気がしたが、学校に行く時間ギリギリまでされるがまま、頭を撫で回される。
メーティス学園に向かう二人を見送った後、メランコリアは無言でロケットペンダントを取り出し、中の写真を見た。
今より若いメランコリアと、メランコリアに似た幼い少女。見る者が見れば、写真が撮られた時期を割り出すことが出来るだろう。写真が撮られた時期と、外見なら察することが出来る幼い少女の年齢──これらを考慮することが出来る人間が見れば、その少女が現在、ミウリア達と殆ど変わらない年齢であることが分かるかもしれない。
学園に行ったミウリアは、「休んでいたみたいだけど、体調が良くなかったのかい?」と、リューゲに声を掛けられる。
「ええ……風邪を引いてしまいまして……」
「そうかい。こんな言い方をしてしまうのは良くないかもしれないが、テスト前で良かったね」
「そう、ですね……」
いつもの日常戻った彼女を遠目で見ていたベーゼは、「期待していなかったとはいえ、ここまで上手くいかないとは思わなかった」と、デリットに色々融通したことを軽く後悔した。
(まあ、上手いかなくても困ることではないし、彼女への嫌がらせ程度にはなったでしょう)
どうせ本命はこれからなのだから。
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