第15話【積極的過ぎるだろ貴様】
ユーベルの部屋でファルシュ達と合流し、死体が入ったキャリーケースを異能で創造した空間空間に放り込んだ後、アインツィヒが得たデータを全員で眺める。
「生徒は当然だけど、ストラーナを襲った奴を除けば、行方不明になっている職員も異能力者なんだ」
「俺様はそんなことよりも、バカラーナを襲った奴が本当に職員だったことに驚いたけどな。完全な外部の人間が夜中に寮に行くことは出来ねぇけど、研究棟の社員なら夜遅くまでいることとか怪しまれねぇし、生徒のところに社員が訪ねることも、ないかあるかで言えばない訳じゃねぇし、だから俺様、てっきり社員を装っているのかと思っていた」
「社員証が偽造出来ても、サーバーの情報までは弄れないだろうし。名前がある以上本当に社員なんだろうな。研究職に就いてるみたいだし、結構貰っていたんだろうな」
などとウテナとアインツイが話していると、ファルシュが容喙して来た。
「コイツが社員かどうか気にするべきところがあるだろ」
言っている意味が分からず、二人は頭上に疑問符を浮かべる。
「二日経過しているならまだしも、ストラーナを襲った奴が死んでから、まだ一日しか経過していないんだぞ。行方不明として扱われるのには早いだろ」
「「あー、確かに。そういやそうだ」」
「一人二人とかじゃなくて、ストラーナさんを襲った奴を抜きにしても、六人も行方不明者が出ているってのは妙だし、コンビニに帰る途中で襲われたし、何か事件が起きているんだろうな」
「今のところ手掛かりらしい手掛かりがないのよね、困ったことに」
時間も時間であるため、流石に眠気に襲われたらしく、皆寝ることにした。異能力のお陰で睡眠がいらないウテナだけは、眠気に襲われることはないため、寝る必要などなかったのだが、彼女も寝ること自体が出来ない訳ではないため、眠ることにした。
次の日、ミウリアはクラスメイトの男子に声を掛けられた。
「ミウリアちゃん、ちょっといいかな?」
赤朽葉色の髪と、吊り上がった目尻、緋色の瞳が特徴的な男子だ。殆ど話したことがないため、話し掛けられたことに驚きながらも、どうしたのだろうと顔を上げる。
「実は聞きたいことがあってさ〜。ちょっと着いて来て欲しいんだんだよねぇ」
「あ、え……」
ミウリアの返答を待つことなく、腕を振り解けないほど力強く掴み、彼女を教室から連れ出す。階段の踊り場まで彼女を連れて行くと、叩き付けるように投げられ、彼女の背中に痛みが走る。更にはその男子生徒の手が真横に叩き付けられる。
その男子生徒が言葉を発するより、ミウリアが小さく「あっ」と、声を上げる方が早かった。
「何をしている貴様」
それよりも──ユーベルが男子生徒の腕を切り落とす方が早かった。
ミウリアの真横に叩き付けた手は、地面にゴトッと落ちている。肘の上辺りから、綺麗に斬り落とされている。
ミウリアからある物を奪うと、ユーベルは男子生徒を蹴った。容赦なく蹴り飛ばされた彼が、片手だけで起き上がると、そこは階段の踊り場ではなく、普段は閉鎖されていて立ち入ることが出来ない屋上だった。
眼の前には腕を斬り落とした男が立っている。
彼は手をピストルの形にすると、指の先を彼に向けた──すると、彼の真横に銃が現れ、ユーベル目掛けて凄まじい速さで、銃口から銃弾が放たれる。
反射的に防御の異能力を使用することで事なきを得た。
「無駄な抵抗を……大人しく死ね」
首を斬り落とそうと、自身の異能力を発動させたとき──男子生徒は派手に転び、結果的に彼の斬撃を回避することになった。
「お前、やるなら情報取ってからにしろよ」
足を引っ掛け、男子生徒の首が飛ぶのを阻止したのは──ウテナ・ヴォルデコフツォだった。
「何故
そう言いながら、もう一度男子生徒に攻撃しようとするが、「ふざけんな私まで巻き込まれるだろうが!」と、ウテナが電撃銃を投げ付る。それはユベールの顔面にぶつかり、勢いが良かったせいで、彼は派手に転んだ。
「お前私を殺す気か‼」
「? 貴様を殺す気等微塵も無いが……何故其の様な事を言うのだ?」
「……………………お前はそういう奴だよ。まあいい。何でここにいるのかは、後で説明するよ。とりあえず攻撃はするなよ」
ウテナはそう言って、電撃銃を拾う。自分ごと斬り殺されそうになったことについて、軽く文句を言うだけで、それ以上何か言うつもりはない。例外であるミウリアを除けば、ユーベルの攻撃性に好意は絡まないことは前世の頃から知っているため、今更その件でどうこう言う気はなかったからだ。
袋に入れた男子生徒の腕を取り出すと、切断面をくっ付けた状態で、ウバロバイトが付いた腕輪は嵌めた指を近付ける。
「切断面が綺麗だし、斬られてからあまり時間が経過していないから、くっ付きそうだな」
斬られた服は直らなかったが、予想通り、切断された腕は治った。失血多量で男子生徒は意識を失ったが、寧ろ都合が良いため放置した。
「で、何故貴様が
「般若の顔したお前を偶然見掛けて、何があったのかと思って尾行したら、ミウリアに迫っている男がいるし、ソイツの腕をお前が斬り落とすし、いきなりお前がどっかにいっちまうしで、どうなっているんだと思ったけど、放置したら面倒なことになると思ったんだよ。ミウリアがお前が瞬間移動の異能力の指輪を奪ったって言うから、多分人に邪魔されない場所に行ったんだなと予想出来たし、お前なら屋上あたりに移動しているだろうなと思ったから、ビニール袋に腕突っ込んで、治癒の異能力ミウリアから借りて、急いで屋上に来たんだ」
「屋上の扉は鍵が掛かっているだろ。一回鍵を取りに行って間に合うのか?」
「絶対間に合わないと思ったら、三階の窓から壁伝いに屋上まで登ったんだよ」
「
「途中足を踏み外して死ぬかと思った」
「
「テメェが言うなよ。余裕があるんだから殺すにしてもちゃんと情報取ってからにしろよ。アバトワール病院送りにするぞ」
「幾ら何でも死刑宣告は
「そんぐらいやらかしてるってことを言いたいんだよ。やるなら情報を抜き取ってから、尚且つ完全犯罪だ。いいか? じゃないとミウリアの保護者やってるエンゲルにも迷惑が掛かるし、そうなるとミウリアにも迷惑が掛かるんだからな」
「
「本気で悪いと思っているなら私にも謝れよ。知り合いがここで働いているんだぞこっちは」
「済まなかった」
「次から気を付けろよ」
気絶している男子生徒に視線を向ける。
「とりあえずコイツのこと縛り上げないと。起きたとき暴れられたら面倒だし。こっちからなら鍵がなくても開けられたから、縛る物取って来るから、お前は見張ってて。起きたらこのスタンガンで気絶させて」
懐からスタンガンを取り出すと、それをユーベルに手渡す。
「踊り場の血液は、ミウリアが片付けているから大丈夫だと思うけど……念のためミウリアの様子も確認しないとな」
独り言を呟きながら、屋上を出ていく。十数分後、ビニール紐と結束バンドとアレキサンドライトが付いた指輪を持ったウテナが現れる。
異能力で創造した亜空間に男子生徒を連れ込むと、気絶した男子生徒を拘束した。縄と結束バンドでガチガチに拘束されているため、指先一つ満足に動かせないだろう。
「色々聞きたいから、起こしたいところだけど、授業が開始しちゃうし、授業終わってからにしようか」
「良いのか? 其れで」
「あの異空間の中なら、逃げられっこないし、ガチガチに拘束しているし、大丈夫でしょ」
「
「私に研究棟のサーバーのことを教えてくれた知り合いに、授業は真面目に受けなさいと言われているから、あんまり欠席したくないんだよ」
「其の知人の事を
「そりゃあ、まあ、それなりに、好いているけども、だからといって思っても口に出さなくていいじゃん。恥ずかしいだろ」
アイツィヒやラインハイトのことを好いていると言われても、恥ずかしいという感情を持たないのに、何故今回は恥ずかしいという感情を持っているのだろうか。ゼーレ相手だと一応恥ずかしいという感情を持つらしいが。他人の機微に疎いユーベルは、彼女の基準が良く分からなかった。
一方その頃。
踊り場の血液を片付け、亜空間にそれらを放り込み、ウテナに亜空間を創造する異能力の指輪を渡したミウリアは、今から昼ご飯を食べる時間がないことにしょんぼりしながら、教室に向かっていた。
「あ、ミウリアちゃん」
「シュヴァルツ様」
「さっきウテナちゃんが、窓から壁伝いに屋上まで登っていくというとんでもない光景を偶然目撃しちゃったんだけど、何かあったの?」
「…………」
どうやって屋上まで移動したのかと思ったが、まさかそんな方法で屋上に移動していたとは思わず、「ウテナ様、そんなことしていたんだ……」と、馬鹿正直に理由を離す訳にはいかないため、頭を抱えたくなかった。
「えっと、その……ユーベル様がトラブルを起こしまして、ユーベル様、腸が煮えくり返ると相手に何をするのか分からない人ですから……多分、それで、その……止めに行こうとしたのだと思います……」
「命綱なしにあんなことしちゃうくらい、シュレッケンくんってヤバイの?」
「……………………そうですね」
「それ、大丈夫?」
「私は大丈夫です……私以外がどうなのかは知りませんが……」
異能力者になった今世は衝動的に相手にを斬り殺し兼ねない危険人物だが、前世でも似たようなことをやらかしている。殺してはいないが、殺そうとはしたことは、数え切れないくらいあった。
前世で、ゼーレの車が盗まれそうになり、現場と顔を見られた犯人は、ミウリアを人質に取ったのだが、そのとき偶然ゼーレの家に居たユーベルが怒りのあまり、ゼーレとウテナの祖父の猟銃を持ち出し、相手を射殺しようとした。ゼーレとウテナが犯人とユーベルを必死で説得したお陰で、ゼーレとウテナの祖父の猟銃から弾丸が放たれることはなかった。もう一度繰り返すが、ゼーレとウテナが犯人とユーベルを説得した。
「……それ、ウテナちゃん大丈夫なの?」
「一応は何とかなったみたいですし……一応は、大丈夫、思います……ウテナ様は、そんな
そうでなければ、とっくの昔にユーベルに殺されているだろう。
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