第4話 練習にも(それなりに)力を入れる。

我らが「貧血バッファローズ」は「仲良し」チームであるとはいえ、やはり球技大会に出る以上はある程度まじめに練習が必要である。


キャンパスの合同グラウンドが空いているときには、みんなで集まってキャッチボールや守備練習である。


ポンコツの俺としては、この練習を大変申し訳なく感じていた。明らかにみんなの足を引っ張っているのが分かるからである。気の置けない友人たちであっても、迷惑をかけまくるのは申し訳ない。


運動神経のいい、解剖班のメンバーとキャッチボールをすると、自分のポンコツさが嫌でもわかる。


投げてこられたボールが速くて、怖くて真正面で受け止められないのだ。いつも厳しい試験を真正面から受け止めていたのに、ソフトボールは全然だめだ。


「ほーじーさん!ボールを受け止めるのは、身体の真正面!逃げちゃだめですよ」

「ごめーん。球が速くて、ついビビってしまうねん」


と指導される。受け止めたボールを相手に投げ返すときは、相手の胸に向けて投げ返すのだが、その通りにボールが向かっていったためしがない。まだ、ゴロになれば取り様があるのだが、相手の頭上を超えたり、とんでもなく斜めの方向にボールが飛んでいくと物理的にキャッチできない。


「ほーじーさん!投げ返すときは『胸!』胸に向かって投げるんですよ!」


と、何度も言われるが、なかなかうまくいかない。


小さなころから運動できなかった俺である。このようになるのは百も承知だ。キャッチボールの相手を、いくら年下とはいえ、走り回らせるのは大変に忍びない。


俺と同じように苦労しているのがしんちゃんだ。彼も、俺に負けないような運動神経をしている。にもかかわらず彼はハンドボール部の部員として4年間練習に参加し続けている。部活動は「好き」だからするのであって、「嫌」なら退部しても誰も文句を言わない。ということは、しんちゃんは、ハンドボール部員であることを好んでいる、ということである。彼の心の強さは立派だなぁ、と嫌味なく感心しながら、俺と同じように相手を走り回らせているしんちゃんのキャッチボールをしばし眺めていた。


バッティング練習は、近くのバッティングセンターで行なった。バイト終わりの深夜、バッティングセンターに、集まれるメンバーだけ集合。各々、好きな速度のブースでバッティングをするのである。うまい人は高速のブースで、それなりの人は中速のブースで、そして俺は一人、「小学生用」と書かれた70km/hのブースでバッティング練習である。


他のブースでは友人たちが快音を飛ばしている中、俺のブースでは、3球に1球は空振りして、後ろのゴムパッドに「バスッ!」とボールが当たる。あまりお金のない中、練習に来ているので、できれば空振りはしたくない。とはいえ、これも昔からのこと。それでも、手の空いたメンバーが気にして、俺のブースを覗いてアドバイスをしてくれる。


「ほーじーさん!今のはボールふたつ分くらいバットが上でしたよ。ボールを見ていきましょう」

「ほーじーさん、ナイスバッティング!」


そうして気にかけてくれるところが本当にありがたい。いい友人たちに囲まれているなぁ、とうれしくなった。


バッティングセンターでの練習を終えると、みんなで缶ジュースを飲みながら、少しばかり駄弁るのが楽しい。ただ、翌日は朝から授業が待っている。ほどほどに切り上げ、帰宅していた。


メンバーはちょうど18人だったので、一度、市営グラウンドを借りて練習試合をした。しかもナイトゲームである。授業とクラブ活動を終えてから、ということなので致し方ない、というよりも、一度はみんなでナイトゲームをしたかった、というのが本音である。


私たちの一番の問題は、「ピッチャー」がいないことだった。竜牙さんは、オーバースローでは名ピッチャーだが、ソフトボールを投げるのはそれほど得意ではない。運動神経のいいメンバーが投げれば、みんなそれなりの球を投げる。それなりの運動神経のメンバーも、それほど極端にレベルが変わるわけではない。少なくとも、しんちゃんと俺が投げなければ何とかなるのだ。ということでピッチャーは適当に交代制とした。


練習試合は両チームとも互角だった。練習試合、ということでねこさんもピッチャーをした。彼女の投げるボールもいいボールだった。


そんな感じで、ゆるーく、楽しく練習をして、球技大会を迎えた。

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