第39話 山荘に戻る

 もし、それが亮平りょうへい莉奈りなだとすると……。


「っ!」

 直樹なおきは居ても立ってもいられず、再び魔の道へと駆け出していた。

 あおいを一人にはしたくなかったのだ。


 ◇ ◇ ◇


 直樹が山荘に戻ると、三人はがっくりと肩を落とした。

 亮平が山荘に連れ戻されたように、直樹もまたあの子に連れ戻されたのだと思ったらしい。すなわち、山を下りる手立てはない、そう解釈したようだ。


「そうじゃないんだ」

 慌てて事情を説明する。一度はバス通りに出られたが、スマホを紛失し救助要請できなかったのだ、と。


「民家まで走ろうかと思ったが、その間にまたあの子が動き出したら……」

 山荘に葵を一人残して心細い思いをさせたくない、というのが直樹の本音なのだが、それを口にするわけにはいかない。


「この夜道を女の子に走らせるのは危険だと思ったんだ。俺が戻れば、またあの子が現れた時に」

 と言い訳をしているその間にも、再び山中にあの子の声が響き渡ったのだった。



『いぃぃぃち。フフッ』



 四人同時に肩を震わせた。

 だんだん呼び出しの間隔が短くなっている。

 しかも、今回は何の前触れもなしだ。

 この調子で行くと、日が昇るまでにあと二、三は往復させられそうだ、などと思いながら直樹は急いで飲料水を口に含んだ。

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