同居人は魔法使い 8 修正しました!

 自由登校に突入してから数日が経った頃。降魔さん宛の感謝の手紙は未だに白紙を続けている。


 現在俺は、降魔さんと一緒に買い物後の帰り道を歩いている。この前作ったカレーがきっかけで食品や野菜が少なくなってしまい、買いに行くことになったのだ。


「まさか、ヨミくんが料理だなんてねェ。何処からの風の吹き回しかなァ?」

「人聞き悪いことを言うな」


 降魔さんはこう言うときは絶対勘が鋭い。まぁ、普段滅多に料理をやらない奴がやるだなんて珍しいことかもしれないがな。


 って、俺くらい料理は出来るし!!

 降魔さんさてはバカにしてるなー?

 絶対、思い出作りの話なんか口が裂けてもしてやらねー!!


「ヨミくん、一人百面相なんかしちゃってどうしたの?」

「五月蝿い、降魔さんには関係ない」

「えェ? 最近のヨミくんは隠し事が多いなァ」

「人には誰にだって秘密の一つや二つはあるの!!」

「そうなの? へェ」

「ヘぇ……って何だよ。その目は」

「別に? ただ、ヨミくんはチョロいから忘れた頃にでも吐き出させようかなァって」

「なっ」


 ジト目で俺をガン見してくる降魔さん。思わず秘めていた事が口から漏れ出しそうだったが、喉の力を込めて堪えた。


「別に気にしなくて良いことだから。ほら、早く行こう」

「えェ? もォ、しょうがないなァ」


 降魔さんは呆れ気味に眉を下げて笑った。やっと会話が終わったことを俺は内心安心している。

 これ以上掘り下げられると困るからな。

 助かった。


 その時だ。


 ガサゴソと茂みが揺れ出す。俺は音に反応し立ち止まった。降魔さんも気がついたようで辺りを見回している。


 するとその数秒後に、真っ黒い何かが目の前に飛び出してきた。俺は肩を揺らすも地面で動き回るソイツから視線を外すことが出来なかった。


 全身真っ黒で炭でも食ったのかと思った。しかし、独特な形とスタイルの良い姿が露わになった。

 小さくも長い尻尾がくるりんと伸びている。

 真ん中には琥珀色の目が見えた。

 そして、そこから見える黒く細長い瞳孔と目が合った。


 俺はその光景に目を凝視していた。


「え、猫?」

「おや、可愛い猫ちゃん」


 降魔さんは嬉しそうな表情を浮かべると仔猫の所へ歩み寄る。黒色の毛並みがとても柔らかそうだ。琥珀色のクリクリとした瞳が降魔さんを捉えていた。


「キミ、どっからきたのかい? 首輪もないから野良猫かな?」


 降魔さんが色白の手を差し出すと、黒猫は吸い寄せられるように匂いを嗅ぐ。やがてそのまま、小さな舌で降魔さんの手を舐め始めた。


 俺は「降魔さん」と呼び止める。


「野良猫ならあまり触らない方がいいんじゃ……」

「別に平気だよ。自分の匂いを魔法で消せばなんとかなるから。餌を差し出す訳じゃないからね」

「いや、でも……」

「ヨミくん、この子人懐っこいね。フフ、ボクの事が気に入ったみたい。ヨミくんもこっち来なよ」


 黒猫を撫でる手とは反対側の手をひらりと俺を招く。渋々近寄り、黒猫を触る様促される。降魔さんとは違った黄味のある手の甲を差し出す。

 だがしかし、黒猫は俺の手の匂いを嗅ぐなり毛並みを逆立たせ、俺の手の甲を思いっきり引っ掻いた。


「痛っ!? は!?」


 叫んだと共に手を引っ込め、怪我が出来た箇所を見やる。傷一つない肌から綺麗な切り傷が斜めにそって二個三個と浮き出ていた。

 その内の一個は傷口から僅かな血液が滲み出す。徐々に神経も刺激され、痛みが走る。ちらりと見やると、黒猫は俺の様子なんかお構いなく降魔さんに戯れついている。


 俺は黒猫を見て沸々と怒りが込み上げてきた。


「こんのっ野郎っ……」

「こらこらヨミくん。この子が怖がっちゃうから、そんな厳つい顔しちゃダメだよ」

「はぁ!?」


 厳ついって何だよ!!

 確かに目つきは良くないことは自覚済みだけど、そんなに怖いですか俺の顔!!


 じいっと降魔さんを睨み付ける。

「ヨミくん」降魔さんは珍しく俺を制した。そしてすぐに、申し訳なさそうな表情を浮かべて視線を黒猫へと戻す。


 側から見れば完全に一人と1匹だけの世界に入ってる。蚊帳の外状態である俺は、ここにいる事が馬鹿らしくなり大きな声を張り上げた。

 

「あっそうですかー! そんな態度を取るんですねー! それなら俺だって、先に帰りますからー!!」 


 そう言って背を向けて歩こうとする。しかし、突然腕を掴まれて後ろに引き寄せられた。降魔さんが俺を止めていた。


「待っててヨミくん。今からその傷治すから」

「いいって! 離せよ」

「ほら、動かないで」


 ジタバタもがくも、降魔さんの力が強すぎてビクともしない。仕方なく大人しく様子を見ていると、降魔さんは俺の傷が出来た手を触る。血も垂れて、ヒリヒリと痛みが走った。

 その刺激で俺は顔を歪めた。


 降魔さんは俺の反応を見逃さなかった。「少し待ってて」そう言うと、傷口に向かって何かを呟く。

 その光景に不思議さを抱き、呼び止めようとするも降魔さんは集中しているようで俺は止めた。


 すると、痛々しい引っ掻き傷が徐々に消えて真っさらな肌が出来上がる。心なしか痛みも解けていくように消えていった。


 俺は一瞬、何が起きたのかよく分からなかった。降魔さんを見ると、俺の手を見て嬉しそうな表情を浮かべている。俺は自分の手の甲をまじまじと見つめた。


「すごい……」

「回復魔法だよ。それくらいの傷ならすぐに治せるからさ」


 降魔さんは優しげにウィンクを見せる。俺は深々とため息を吐き、肩を落とした。


 そう言えば魔法で思い出したことがある。


「黒猫って魔法使いの手下なんだっけ」

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