第47話 シェアする結論
「……ねえ、レオナはいい案思いついた?」
ギルドへの道中、イリーゼたんが私の方に来て進捗の確認をする。彼女がギャルだからかどうかは不明だが、いわゆる『ガチ恋距離』のポジションにまで接近するものだから、私は思わず目をつぶって顔を逸らしてしまう。
あーあ、今絶対に真っ赤になってるわ。だって耳まで熱いもん、これから命がけで戦うってのに、推しの力というのはどうして人間性を狂わせてくるのだろう。
この前人目をはばからずハグし合ったとはいえ、いやだからこそというべきか。とにかく、照れるもんは照れるんだよ!
「え、えーとですね……まだイマイチ考えがまとまってない、ですぅ……」
「もー、恥ずかしがらないでしっかりしてよ。いうて知り合ってから結構経つでしょー?」
いつも以上にたどたどしい口調の私を、イリーゼたんは軽くイジってくる。確かに初めて会った時からはもう二か月ほど経つけど、慣れるどころかますます耐性がなくなっていっているんだよな。今も消えかかりそうな理性を保つのに必死だ。
「――まあ、あーしも全然思い浮かばないんだけどね。いくら考えても勝てるイメージが湧かなくてさ……だけどそれでいいのかもしんないね。決めた! あーしはもうなんにも考えずにいく!」
「……えっ!? そんな軽いノリでいいんですか!?」
「いい!」
ああもう気持ちいいほどにきっぱり言うじゃん。完全にノープランで戦うつもりでいるイリーゼたんだが、確かに勢いで突っ走る部分は実に彼女らしい。これがギャルのマインドか……。
しかしある意味では、これからイリーゼたんの起こす行動全てが『想像の外からの攻撃』になり得る。攻撃に移るその瞬間まで一ミリも考えていないのだから、当然といえば当然なわけだが。
「レオナもそれでいこうよ! なんか分かんないけどさ、レオナと一緒ならそっちの方が絶対上手くいく気がするもん!」
「そんなもんですかねぇ……でも『所有者』であるあなたが言うなら間違いないですね!」
こうして、私は最推しと『結論』をシェアする。それが彼女のオーダーとあれば、私は従うまで。それが私にできることであり、私だけの
「――ついに全員ですね。これで心置きなくヤツを倒しにいけます。では皆さん、私たちのギルドに急ぎますよ!」
カトレアは一気にスピードを上げ、スコールでぬかるんだ地面を足でえぐりながら駆けていく。その驚異的な速さは、イエスマンで目的地に引き寄せられる時のアレに勝るとも劣らない。
しかも彼女の一現性能力は毒を使用する『ポイズン』なので、この速さは完全に地力ということになる。最弱といえども、やはりギルドを統べるだけの実力は持ち合わせているようだ。
「ほんと速すぎますよ……。一現性能力によるものじゃないから
カトレアのあまりの身体能力の高さに、毒を吐きながら肩をすくめるエロ女……もといケイプ。自身の欲に忠実すぎる点以外は、意外と常識的なヤツなのかもしれない。
「ですね。というか、この前と結構印象変わりましたね。姿勢が良くなったからですかね?」
フウカのスライムを使って悪さをしていた時は、元いた世界でも異常なレベルの猫背で負のオーラを漂わせていたケイプだが、今の彼女はそれを感じさせないほどに背筋が伸びている。たった一か月ほどでそんなに変わるか?
「確かに姿勢は矯正させ……させていただきましたね。ギルド長からのパワ……ありがたいご指導のもと、人並みに明るく振る舞えるようになりましたよ」
「あっ……よかった、のかな?」
完全に黒い匂いしかしないが、本人も『ありがたい』と言っているので結果オーライなのだろう。彼女もある意味でカトレアのイエスマンらしい。一気に仲良くなれそうな気がしてきたな。
「それはたいへんでしたわね……さて、そうこうしているうちにギルドがみえましたわ!」
ケイプとのイエスマントークもそこそこに、ついにその時がやってこようとしていた。
私とイリーゼたんは『ノープラン』。ケイプは『ブーストをコピー』し、カトレアはおそらく『クロエちゃのスコール』を利用して戦うだろう。私たちは各々の結論を携えて、壊れかけの木製の扉を叩く。
そこにはミレイユ様ともう一人、彼女を追う者ががっちりとキイを拘束していた。
「お前は……ファーランドか!」
「ええ、ミレイユさんあるところにワタシありですからね!」
どうしてこのギルドは明確な主従関係が構成されがちなんだろう。もう四組目だし、クロエちゃに至っては、冒険者になったのに『部下に部下ができた』状態になっている。
まあそれは置いておいて……ファーランドは自身の一現性能力と思われる『ロープ』でキイの自由を奪い、ミレイユ様のサポートに徹している。なるほど、パーティーを連行した時もアレを使ったのか……。
「二人とも上出来です。さあ、ここからは全員でいきますよ!」
「「「「「「はい!」」」」」」
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