第42話 敵はどこに?
しまった、なんの確認もせずに『行きます』と口走ってしまった……。
いくら
「すみません、皆さんの意見を聞かずに受けちゃって!」
とっさに振り返り、四人に謝罪をする。しかし、誰一人として私の行動を咎めようとしない。イリーゼたんに至っては、私の右肩に手を置いて『それでいい』と言わんばかりに、ゆっくりと頷いてみせた。
なんでだ? 独断で『緊急事態』に巻き込んでしまったというのに、普通なら怒りを露わにしてもおかしくないはずなのに。どうしてそんな涼しい顔をしていられるんだ?
――そんな四人が頼もしくもあり、同時に怖くも思えた。
「勢いで受けといてなんですが、皆さんは怖くないんですか……? 突然病気になってしまうかもしれないんですよ!?」
「うーん……いうほどかなー? モンスターによる被害じゃないってことは、相手もこっちと同じ人間のはずだからさ。だったら、ソイツが
どうやら我がパーティーのリーダーは『やられる前にやる』つもりらしい。そして私に対して、そのような旨の指示を出しさえすれば……無事にクエストクリアだ。依頼書を手に取り、私はイリーゼたんに視線を送る。
「――行こっか。『全員無事でクエストをやりきるよ』……どうレオナ? こんな感じでいいかなー?」
「うーん、どうなんでしょうね……」
イリーゼたんからの指示に抜け穴がないか確認しきる前に、私たちの体は戦場である町目がけて吹き飛んでいく。やはりイエスマンの効果は勢いがすごいな……とにかく、これにてイリーゼパーティー全員の無事は確定した。あとはいかに上手く立ち回って、よりよい結果を得られるかだな。
相手はP.R.I.S.M.の一員かもしれないし、あのコピー使いのような変態かもしれない。何人で町を襲撃したのかも不明だ。こちらが分かっているのは『突然原因不明の体調不良に襲われ、倒れてしまう』ことだけ。勝利が決まっているというのに、明確な不利を突きつけられている。
「そういえば……レオナ、クエストのないよーをくわしくおしえてくださる? どーすればわたくしたちはクエストをたっせーできるのかしら?」
体の主導権をイエスマンに奪われながらも、クロエちゃは冷静に戦況を分析しにかかる。
王女として人前に立つことが多かったからか、メンバー内では最年少でありながら、最も平常心を保てているように見える。とても七歳の落ち着きとは思えないんだよなぁ……。
移動での風圧でブレにブレる依頼書になんとか目を通し、クエスト内容を確認する。
「えっとですね……『町に甚大な被害を与えた原因不明の現象を解明し、食い止める』、らしいです!」
「要は一現性能力の持ち主を始末すればよいということですね。しかし、そう簡単に見つけられるものなのでしょうか?」
ミレイユ様の言う通り、私たちにはソイツの正体を暴く手段がない。それこそ病人のフリでもされたら、武力での解決は絶望的なものとなる。犠牲を出すわけにはいかないからな……。
「それに関しては、あーしにいい考えがあるから大丈夫! レオナ、クエストをやりきるために、今すぐ騒ぎを起こしたヤツのもとに走って行って!」
イリーゼたんは一度出した指示に『条件を付け加える』ことで、パーティー全体の軌道を変える。ひとまずこれで元凶のもとへたどり着けるわけだ。
「分かりました……ってあれ? 体が動かない!?」
なぜだ、なぜイエスマンの効果が発揮されない!? こんな状況は今まで一度もなかったのに……これも一現性能力によるものなのか? だとしたら具体的な効果は何だ?
「――皆さん、いつでも戦えるように構えてください。レオナさんがこの場から動かないということは、敵は既に自分たちのすぐ近くにいる……!」
フウカはスライムで私たちの周囲を囲み、未だ姿の見えない敵からの攻撃を防ぐための壁を構築する。半透明で柔らかなそれ越しに見える町の景色は、やはりひとっこ一人いない。
「ラチがあかないですわね。てきもわたくしたちをけーかいしているのかしら」
「まあそうでしょうね。ボクたちが倒れていないということは、敵はまだ一現性能力を使っていない。お互いに様子見の状態と考えていいでしょう。ですが、一応防具を」
その一言で、全身にずっしりとした重みを感じる。銀色の防具に身を包んだイリーゼパーティーは、背中合わせで周囲を見張る。さあ、どこからでもかかってこい……!
「――残念でしたね~。アナタたちが見張るべきだったのは、実はスライムの外側ではなかった。作戦成功ですね~!」
どこからか聞き覚えのある声がして、私たちは空中へと突き上げられる。
「「「「「ぐああああっ!」」」」」
私たちに最も接近できて、かつ絶対にバレない場所が一つだけある。イエスマンの効果をもってしても捕捉できず、仮に特定できても到達は難しい地点が、たった一つだけ。
「マジか、敵は地下にいたってことかー!」
吹き飛ばされながら状況を理解したイリーゼたんが、いち早く正解を言葉にする。
そういうことだったのか……ヤツに意表を突かれた分、確実に思考が鈍ってしまっている。幸い、ドーム状となったスライムのおかげで負傷はせずに済んだ。
「イリーゼパーティー、アナタ方は来ると思ってましたよ。よかったよかった、暴れ甲斐がありましたよ~」
黄色の髪に黄色の眼。弾けるような声色をした一人の女。P.R.I.S.M.の一員であり、王都に超巨大モンスターの群れをけしかけた張本人が、半笑いでドームの中心に仁王立ちしていた。
「騒ぎの元凶はお前だったのか、キイ……!」
まるでパーティー……いや、私を待ち構えていたのか。だったらソイツに乗ってやろうじゃないか。
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