チーム・レインボウ

第41話 P.R.I.S.M.おびき出し作戦

 ――いつもの日常が落ち着くようで、しかしなんとも落ち着かない。

 キッチンで食器を洗いながら、私は一点に定まらない自身の心について考えていた。


P.R.I.S.M.プリズムを全員倒せばいいのかな……?」


 ファーランドによる王都への連行、そして超巨大なバイソン型モンスターの群れによる襲撃事件から一週間ほどが経った。あれからキイやバイソン型を操る女は特に目立った行動は起こしていない。このままずっと大人しくしていればいいのに。


「いや、逆にアクションがないから落ち着かないのかもな」


 彼女らが動きを見せない限り、私はP.R.I.S.M.に風穴を開けられない。しかしこちらから叩こうにも、私はヤツらの本拠地を知らない。この体は確かにそこにいたらしいのに。

 グラクリのメインストーリーでは……ダメだ、覚えている限りだとまだ全然描写されていなかったわ。考察も『P.R.I.S.M.』って組織名についてのものばかりだったし。とにかく、現時点では手がかりなしだな。


「こっちからできることは……とにかくクエストをこなして、ヤツらに私の存在を知らせるしかないか。そのうち釣れるだろ」


 仮にもP.R.I.S.M.の一員である『獅子座ししざのレオナ・イザリドロワ』が冒険者として活動しているんだ。この事実を突きつけてやることによって、蹴落とす、または利用しにやってきたところを仕留める……もしも『レオナ』と同じチームのヤツだったとしても関係ない。私はもうお前の知っているレオナではないからな。


「――明日あたりに案出してみるか」


 使った食器を全て洗い終え、私は部屋で眠りにつく。だんだんとP.R.I.S.M.への意識がぼやけていくと、気づいた時には外は明るくなっていた。


「おはようございますイリーゼたん。そうだ、皆さんがよければですけど、そろそろクエストに行きませんか?」


「おはようレオナ、なんかずいぶんやる気だねー! あ、もしかしてもっとゴールドが欲しい感じ? それならめっちゃ受けないとだねー」


 さりげなくリーダーにクエストに行く案を伝え、私はテーブルに移動し朝ごはんを待つ。クロエちゃ特製のコーンスープの香りが、キッチンからここまで届いてくる。美味しそうな香りだ……。


「はいレオナのぶん。あなたはおいしそーにまってたから、ちょっとおーめについだわ」


「ありがとうございますー! 私、思いがけずアピールしてたみたいですね」


 偶然にも私のやろうとしている計画と近いシチュエーションに直面する。意図的でないのに、クロエちゃ的には私が多めに注いでほしそうに見えたらしい。それなら積極的にクエストに行きまくれば……レオナを潰すために、彼女とは違うチームのヤツらが襲いかかってくるだろう。私はそれらを返り討ちにしていけばいい。


「そうだ、アピールつながり……ってわけじゃないんだけど、レオナが結構クエストに行きたがってんだよね。みんなはどう?」


 できるだけ自然な流れになるようにしつつ、イリーゼたんがみんなにクエストについて振る。しかしイリーゼパーティーは既に二度もクエステットを受注し、どちらともクリアしているため、今のところ金銭的な問題は一切ない。わざわざムリしてクエストを受けなくても、しばらくは不自由なく生活できてしまうのだ。

 特にこれといった利点もないのに、一体誰がついてくるというのか……。


「レオナさんがそうしたいなら、自分はどこまでもついていきますよ~!」

 ――そうだった、この女は例外だったわ。

 フウカは全力の挙手で推しの期待に応えんとしてくれている。健気だなぁ……。


「あなたはレオナがいればなんでもいいんでしょうに。まあ、わたくしもいろんはありませんわ」


「おっけー。じゃあ準備してから行こっか!」


 イリーゼたんは『準備』という要素を加えることにより、イエスマンに急につき動かされるのを防ぐ。この一現性能力ワンオフを扱うのにも慣れてきたようだ。


 各々がギルドへ向かう準備を済ませた瞬間、いつものアレが私たちを目的地まで引き寄せていく。しかしこちらも跳ぶようにして移動することで、割と上手く乗りこなせた。


「カトレアさん、来たよー……あれ、誰もいない」


 いつもは騒がしいあのギルド内が、今日はひとっこ一人いない。別に今は早朝ということわけでもないので、何かあったことは確定だ。


「お久しぶりです……と言いたいところですが緊急事態でして、まずはこれらを見てください」


 奥から顔だけ出したカトレアが、カウンターの方に行くと同時に数枚の依頼書を机に置く。これが『緊急事態』の正体か……。


「実は、このクエストは不可解な点がありまして……。どうやら、モンスターによる被害ではないらしいんです」


 モンスターを討伐するクエストでないのなら、今回は一現性能力絡みのクエスト……P.R.I.S.M.の刺客という線もあるな。


「では、その被害というのは一体どういったものなのでしょうか?」


「そうですね……突然原因不明の体調不良に襲われ、ベッドから起き上がれない。こういった症状が多発しているようです。うちの冒険者たちも、これで倒れているのかもしれません……」


 ――なるほど、確かに緊急事態だな。この状態でモンスターが出没しても、思うように手が回らずに被害を生んでしまう恐れがある。


 でもこれ、単純に風邪のような感染症が流行っているだけじゃないのか?

 まあ、自分の周りでも体調不良のヤツが出たと考えると、クエストを依頼したくなる気持ちは分かる。グラクリ世界には『風邪』という概念がないのかもしれないしな。


「この病は町中でのみ起こっているようです。仮にクエストを受けると、あなた方まで体調を崩してしまうでしょう。しかし誰も解決しなければ、ずっとこのまま……」


 住民をとるか、自分をとるか……二つに一つだ。だけど私は不思議と、なんの迷いもなく選択できた。もう自分の体が、そこまで大事なものだと思わなくなってきたのかもしれない。


「……やります!」

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