第39話 レオナとして、私として

 こちらからも色々と聞きたくなる点もできたわけだが、ここは一旦我慢。まずはキイの一現性能力ワンオフの話について『嘘を吐いた』という判定になってしまわないように、慎重に供述しなければならない……。


 ――とでも、眼前の二人は思っているのだろう。私はあえてその逆をいく。あの黒服の一現性能力で供述の真偽が明らかになるのなら、二人の知らないようなグラクリゲーム由来の知識をガンガンに押し出して答えても、なんら問題ない!

 私は目をかっと見開き、あえて早口で説明を始める。転生者か、身内でしか知り得ないようなことを……。


「キイの一現性能力は、ものの倍率を操作する『ブースト』というものです。私がすぐに快復し戦線に復帰できたのは、彼女が私をよりさせ、立ち上がれるようにしたからです」


「嘘は……吐いていないようだな。貴様がその頭で考えた妄想ではなく、本当に彼女の一現性能力について知っていたわけか。我の存在を知ったからか、貴様なりの事実をすらすらと話してくれたな。そうだ、それでよいぞ」


 黒服はさりげなく自身の手柄を誇りつつ、首を縦に振り私の供述を聞く。いや、なんで第三王女でなくコイツが仕切っているんだ? 影の割には結構出しゃばるタイプなのか?


「その辺にしておけライル。進行は我が行うから、貴様はレオナが嘘をついた時にだけ銃を向ければいい。分かったな?」


「はい! 王女様の命であれば!」


 第三王女はたった一言で、ライルという名の黒服女を黙らせる。彼女が王族だからか、はたまた最高峰の冒険者ギルドに所属する『冒険王女』だからか。理由はなんにしろ、彼女から溢れ出るカリスマ性のおかげでいとも簡単にその場を収めてしまえるわけだ。さすがだな……。


「すまないレオナ。コイツは嘘を咎める分、逆に事実を述べたことに対する喜びを露わにするタチでな。まあ、気にしないでくれ」


 後ろでぺこぺこと礼だけするライル。コイツはコイツで掴みどころがないというか、とにかく何を考えているかを読みづらい性格だな。その辺りは主に似たのだろうか。なんとなくイリーゼたんと私の関係性のようにも思えてくる。傍から見たらあんな感じなのかな……?


「話を戻そう。キイはそのブーストを使い、レオナの免疫力を上げて傷を治した。それと同じ要領で、バイソン型の体長も自在に操っていたということだな。あくまでも一つの一現性能力で、そこまでの応用を見せてくるとは……かなり厄介だな」


 第三王女は敵意をキイに向けつつ、何度もペン先を紙に打ちつけている。黒い点たちがほぼ一点に集合していく様子は、ありし日のイリーゼパーティー結成の流れを思い出す。転生してから割と早い段階でサクサク決まっていったもんなぁ。

 なんてつい一か月ほど前の過去に浸っていると、第三王女は再びこちらを睨み、ある質問を投げかけてくる。


「――では、今回において最も重要な質問をするとしよう。レオナ・イザリドロワよ、貴様は我らの敵か? それとも味方か? 他でもない貴様の意思を聞かせてみせよ」


 ついに核心に迫ってきたな。この聞き方からして、第三王女は私が『キイに操られていた』と思っているのだろうか。確かにキイの言いなりではあったので、ある意味操られていたのかもしれない。仮にそうでなくとも、戦線にはすぐに復帰していたとは思うが。

 

 敵なのか、それとも味方なのか……確かにこの体は、P.R.I.S.M.プリズムの重要人物とされるレオナ・イザリドロワのものだ。

 しかしその体に転生した私に、過去の記憶など当然ない。レオナがどれほどの悪行を犯していたのか。それによりどれだけの人物が被害を受け、憎しみを持たれているのだろうか。


 ――私には関係ない、と責任を丸投げするのも一つの手だ。そりゃ、身に覚えがなさすぎることで敵意を向けられても、こちらとしてはどうしようもないからな。

 仮に過去を清算するために、各地を周るとする。そこで凄惨な結果だけを突きつけられても、私としてはその原因が全く分からない。そして容赦なく浴びせられる被害者側からの怒りは、この段階で理解を強いてくるパターンがほとんどだろう。


 私はその報いを耐え切れるのか? それだけでなく、何の関係もない四人まで巻き込んでしまうかもしれないのに。『獅子座ししざのレオナ・イザリドロワ』が起こした事件を、その責任を。もしかしたら、私がこの体に転生した理由もそこに眠っているのかもしれない。


「だけど……今はそれじゃない……」


 しかし今問われているのはレオナとして生きる覚悟ではなく、あくまでもの意思だ。そこには第三王女や、王都への敵対心など存在しない……。恐れることはない、私は私だ!


「私は……サマンサ第三王女様や王都の味方です。しかしこの体が引き起こしてしまったかもしれない凄惨なできごとは、もうどうあがいても取り返せません。それを踏まえて……私は、あなた方の味方であります」


「……そうか、貴様は本当に面白いヤツだな。質問すべきことが次々に増えていくよ。これではいつまで経っても終わらないじゃないか、それもまた貴様の面白さではあるのだが」


 やはりこの女はどこがツボなのか分からないな。何をしても許してくれそうな雰囲気も出してくるし、逆にどんな些細なことも地雷になり得る。なんならコイツこそが地雷といっていい。感情の起伏も激しいし。


「それと、さっきは脅すようなマネをしてすまなかった。こうでもしないと、レオナは口を開いてくれないからな……。いっそイリーゼに取り調べを任せた方が早かったかもしれんな。十中八九逃げられるから、絶対にやらんが」


 まあ、そのために先にイリーゼたんのことを拘束したわけだしね。合意アリですんなりと口封じされるイリーゼたん、シュールすぎるんだよな。彼女のためにも早めに質疑を切り上げなきゃなのに、私のせいでもっと続くらしい……。


「――では次の質問だ。レオナよ、貴様の記憶喪失はいつから起こったものだ?」


 私への容疑が、さっきの事件から過去のものに移った瞬間である。

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