第38話 形勢逆転

「――ほう? これはまた面白い言い分をするものだな。続けよ」


 案の定供述に食いついてきたな。そんな第三王女の興味を、私は逃がしまいと話を続ける。


「私はバイソン型モンスターに敗北した後、フウカに助けられ、ベッドに寝かされていました。そこに敵組織の『P.R.I.S.M.プリズム』に所属するキイという女が現れ、私のことを快復してくれたのです」


「よし、ひとまずそこで止まってくれ。正直に話すのはよいが、だからといってあまり飛ばしすぎるな。一つずつ噛み砕いていくぞ」


 第三王女は私の供述を面白がりつつも、意外と冷静に聞いてくれていたらしい。一体どっちなんだ、それによって話し方も色々と変わってくるんだからな。

 しかしこうして一要素ずつ深堀りしていくことで、その分時間稼ぎができるのは不幸中の幸いだ。いや、王女が意図的にのかもしれない。まだまだ底が見えないな……。


「では、まずは『P.R.I.S.M.』という組織についてだ。我はそのようなものは聞いたことがないので、冒険者の間でも知られていないのだろう。当然ソイツらの目的も分からん。とにかく、レオナから見て『敵』という存在ではあるのだな」


 第三王女はニヤつきながら私に対して釘を刺してくる。しかし今回ばかりは刺さらない。事実『P.R.I.S.M.は王都を潰すつもりである』という旨を彼女の口からしっかりと聞いているので、余計な嘘をつかずとも逃げ切れる。


「ええ。キイの口からそのような説明を受けました。といっても、ほんの少しだけですがね」


「なるほど、ソイツと会話を交わせたというのは大きいな。他にP.R.I.S.M.について、何か聞いたことはないか?」


「はい、他にはこんなことが……」


 私はP.R.I.S.M.が『いくつかのチームに分かれている』ということ、そしてチーム間の関係は悪く、互いに利用し、蹴落とし合っていることを慎重に説明した。ある意味、これ以上深堀りしても有益な情報は得られないことが確定した瞬間である。


「面倒な組織体系だな……さっきのような襲撃を目的とするチームもいれば、逆にそうでないチームも存在すると。となると『P.R.I.S.M.』というものさしで一括りにするのは危険だな」


 わかる、私もめっちゃ面倒だと思う。それこそ、今この瞬間に第三王女に詰められているんだもん。キイが私に接触して、ブーストをかけさえしなければ……。話がこじれないうちに、これについて先に触れておくか。


「――私の快復は、そんなチーム間の蹴落とし合いに利用されたんです。あの巨大なバイソン型の群れは違うチームの二人が共同で行っていて、キイが途中で裏切ったわけですね」


「だから急に体長がフツーのサイズに変化したわけだな。我らは終始、キイとやらの一現性能力ワンオフに翻弄されていたのか。それぬにしても、対象を『巨大化させる』ものと『快復させる』という二つの力を持っているなんてな。そんなヤツ、見たことも聞いたこともないぞ……」


 ブーストのその拡張性の高さに、手練れの冒険者であるはずの第三王女も、まるでキイに力が二つあるかのように錯覚してしまっている。

 リスクを承知で指摘すべきか? あくまでも質問形式で、決してキイのことを……。


「――どうしたのだレオナ。そんな顔をして……何か心当たりでもあるというのか?」


 突如、今までとは打って変わって、冷徹な声色をした質問が振り下ろされる。第三王女からのたった一手で一瞬で空気が凍りつき、私は握っていた主導権を全て掠め取られた。


「そ、それは……」


 冷や汗すら凍りつきそうな空気に包まれ、口も脳みそも上手く回らない。第三王女はいつから私のことを騙そうとしていた? ダメだ、それすらも全く分からない!

 とにかく、何か返答しないとだな。この際嘘でもいいから、これ以上王女のペースにさせないようにアクションを起こさなければ……。


「一つだけ忠告しておこう。どれだけ不都合な事実を隠したくとも、嘘だけはつくなよ? 後悔したくなかったら、な」


 さっきまでニヤついていた表情はもうそこにはなく、ただ私を圧し潰すように睨みつけるのみ。しかし嘘なんてものは、ただ言葉にするだけでは誰にも分からない。供述が真か偽を証明する術なんてあるわけがない。

 ここまで追い込まれてしまったら、もう嘘をつかずに立ち回るのはムリだ。彼女との信頼関係をも裏切って、もう一度出し抜くしかない!


「それは、まだ分かりませ」


「――


 瞬間、聞いたこともない声がして、額に拳銃を押しつけられる。まさか、王女とテレポートでこの部屋に来る前から、もう一人待機していたのか!?


「……あなたは、一体誰なんですか!?」


「我はサマンサ・ジェニスヴォード第三王女様の影となりて、真実を示す者。貴様の嘘など見え透いておるのだ……」


 全身を黒に包んだ少女は、右目を抑えながらぐいぐい銃を押しつけてくる。まさか、その目で私の嘘を見抜いたというのか!? 確かに一現性能力でなら可能かもしれないが……いやいや、部屋にもう一人いるなんて分かるわけないだろ! 気配も一切なかったし!


「まあ、そういうことだ。貴様の『嘘の証言』など、我が右腕にとってはお見通しということだ。逆に『P.R.I.S.M.なる組織やキイという人物が存在する』というのは事実のようだな。そしてレオナは、キイの一現性能力に対しての心当たりがある……さて、今度は嘘偽りない言葉で聞かせてもらおうか?」


 マジか……ペースを掴まれた上に、嘘では絶対に切り崩せないときたか。イリーゼたんは別室で口封じされているから、イエスマンも使えない……どうする私、ここから形勢を逆転させるには、一体どうすればいいんだ……!?

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