容疑者レオナ

第37話 死も反逆も恐れぬ覚悟

「まずは此度の戦闘、本当にご苦労だった。貴様らの尽力により王都は被害を免れ、負傷者もゼロ。ジェニスヴォード王国を代表し、感謝の意を表する」


「よかった……」


「しかぁし! レオナ・イザリドロワよ、貴様には一つ不可解な点があるのだ!」


 なるほど……あれだけの大怪我からすぐに快復し、戦線に復帰したのを怪しまれたってわけだな。しかしその辺りは承知の上。汚名を被ろうとも、私は王都を護りたかった。P.R.I.S.M.プリズムの好きにはさせたくなかったからだ。


「そこでだ。レオナには、我からの質問に正直に答えてもらう。もともと公平に裁かれるために王都ここまで来たのだ、覚悟はできておろう?」


 第三王女の言う通り、イリーゼパーティーは『クロエちゃを誘拐した』事件についての冤罪を証明するために王都までやって来た……といってもファーランドによる強制連行だったし、私に至っては途中で切り捨てられたんだけど。


「分かりました。私が答えられる質問であれば、なんでもお答えします。ですので、パーティーの皆さんには手を出さないでください」


「そうしたいのはやまやまであるが、貴様の一現性能力ワンオフは厄介だ。だから質疑応答の間だけ、イリーゼの口を封じ、手足を拘束させてもらうぞ」


「……そうするしかないようですね」


 ここでノーを突き出せば、それこそ第三王女に背いた犯罪人として扱われる。ごねずにさっさと質疑を終わらせた方が何倍も早く、何より安全な策だ。

 私は第三王女からの条件をのみ、イリーゼたんも兵士たちに抵抗せず拘束を受け入れる。これでもう、こちらからは一現性能力による攻撃はできない。


「イリーゼも受け入れてくれて助かるよ。ではレオナ、我の手を取れ。このまま我の部屋へと飛ぶぞ」


 第三王女の差し出したきめ細かなその手に、おもむろにこちらの手も重ねる。それと同時に眼前の景色が一瞬にして変化し、彼女の部屋へと移動が完了していた。さすが『テレポート』……。


「さて、テキトーにそこの椅子にでも座れ。貴様には、此度の事件の黒幕であるという疑惑がある。貴様自身も理解しているだろうがな」


「ええ。戦線の復帰について、ですね」


 どうやら期待通りの回答だったようで、第三王女は少しだけ口角を上げる。さっきの戦闘で、王女は上空から私の動きを確認していた。『負傷した』という事実がありながら、明らかにそれを感じさせないパフォーマンスをする私を。


「――第一の質問だ。貴様はバイソン型モンスターからの攻撃をモロに受け、脇腹を中心に重傷を負った。しかし戦線に戻った際は患部を抑える様子もなく、まるで何事もなかったかのように戦ってみせた……貴様を快復させたのは、一体誰だ?」


 やはりまずはそこを突いてくるよな。私にとって最も予測しやすい質問であり、ものだ。正直に『キイ』や『P.R.I.S.M.』といった存在を、口に出すことに対するリスクが大きすぎる。だからといって上手な嘘も思いつかない……。

 ひとまず『イエスマンによるものではないのか』とでも濁すか? いやダメだ、あの時イリーゼたんと第三王女は二人とも上空にいる。彼女が何か指示を出すとしたら、私が攻撃を食らった直後だと考えるのが自然だ。しかし私はフウカに助けられ、しばらく時間が経ってから復活した。


 つまり私の復活は、イエスマンの効果としてはであり、かといってなんの処置も受けていないのであれば、なんとも微妙な時間というわけだ。


「どうした、我には言えないような手段で快復したのか?」


 言葉に詰まる私を見て、第三王女はさらに圧をかけて詰めてくる。彼女には言えない手段……というよりは、言っても手段なんだよな。

 もしここで『全てキイというヤツの仕業です』という事実を述べたとする。こちらとしては質問に対して正直に答えているわけだが、それで納得してくれるかどうかはまた別の話だ。


「――そうか。そうまでして答えるのを渋るのであれば、このまま事実も戯言も言えぬようにしてやる。それでもよいのだな?」


 王女は右手にナイフを構え、目にも留まらぬ速さで私の首筋にそれを突き立ててくる。しっかりと動脈の辺りを狙うあたり、確実にこちらを殺す気でいるな。

 彼女の殺意を削ぎつつ、かつ嘘偽りのない事実だけを表するとなると……そうだ!


「第三王女様、今から私はこの身に起こった事実のみを述べていきます。しかしその前に一つだけ約束してください。どんな結果であっても、パーティーの四人だけには決して手を出さないと!」


 第三王女の手首を掴み、逆にこちらからナイフを近づけてみせる。

 王都を敵に回してでも、この命がなくなろうとも。それだけの覚悟を背負ったと見せつけるために。


「――やはり貴様は面白い女だな。あろうことか、我の手首を掴んで死ににいくようなマネをするとは。そして、貴様の話す『事実』とやらは、このような行動を起こせるほどのものでるというわけだな。是非とも聞かせてくれ」


 そうこなくっちゃ。曖昧な基準の面白さを重視する第三王女が、文字通りの『死ににいくようなマネ』に、食いつかないはずがない。

 同時に、先に自分から『死』や『反逆行為』をちらつかせることで『キイという敵からの助けを受けた』という事実のインパクトを軽減させられる。


 こうして、戯言にも似た事実を澱みなく言い放てる空気を作り上げたのだ。


「――私はあの時、敵に助けられたのです」


 完全にペースを掌握した私は、第三王女から手を離しながら本題に入る。

 さあ、どんな質疑も寄こしてこい第三王女。この難題を……私は嘘一つつかずに、容疑を晴らしてやる!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る