第33話 結果として最悪の未来
闇雲に探しても見つからないことくらい、私も分かっている。この前のクエステットのように、こちらから捕捉できない安全圏からバイソン型を投入しているだろうからな。巨大化させている
「さすがにいないか……」
ひとしきり探したところで、やはりこの辺りに元凶はいないのだと悟る。となると、まずは王都の住民へ被害が及ばないように、バイソン型を退けていかなきゃだ。
真っ向から倒しにかかるよりも、角を折ってヤツらの戦意を喪失させる。常にこれを意識することで、少しは効率的に戦えていると信じたい。
「こりゃキリがないねー……もういっそ、サンダーで全部バチバチさせちゃった方が早くなーい?」
「それ、本当に大丈夫なヤツですか!? こっちまでバチバチきたりしません?」
「あー……確かにバチバチくるかも。じゃあ電気を流すのはパンチの時だけにするね!」
右腕を回して準備運動するイリーゼたん。ガントレットには既に橙色の光が走っており、いつでもサンダーを発動できる状態と化している。
「――レオナ、今からは同時にじゃなくて、別のヤツを攻撃するってのを意識して。そうじゃないと、レオナの命まで危ないから」
イリーゼたんの声色は……いや、こちらに向けてくれた眼差しも、そして言葉にしたことの内容も。その全てがいつになく鋭くて、重たくて。良い意味で緊張感で刺された感覚がした。返事をする暇もなく、イリーゼたんはバイソン型へと引き寄せられていく。
どんどん小さくなっていく彼女の背中を見送り、私も別の個体のもとへ誘導される。おそらく『別のヤツを攻撃する』という指示に従ってのものだろう。
イエスマンは一度出した『指示A』が遂行されるまで、それに反する内容の『指示B』は出せない。しかし指示Aの補強となるような内容であれば、指示の重ねがけが可能だ。
例えば、最初の実験で行った『りんごを持ってくる』という指示の上に『一歩も動かない』という、条件の追加がそれにあたる。今も『バチバチに勝つ』指示に『一緒にバイソン型の角を落とす』という二つ目の指示が乗っかっている状態だ。
「引き寄せられる対象が被ることはない……それなら、こっちも思いっきり戦える!」
まあ、イリーゼたんほどは強くないんだけど……なぜか『レベル』は高いみたいなので、それなりに戦えはする、たぶん。
というか、
「――そんなこと考えても、意味なああああい!」
もやもやしてきた脳内をクリアにするべく、バイソン型の角へ八つ当たりする。私自身のことなんて、目の前の問題を全部片づけてからでいい。
既に決定した
「どりゃああああっ!」
決して彼女のもののように光輝くことのない、借り物のガントレット。それが壊れるまで……壊れてもなお、私は愚直に腕を振り抜いて角を破壊していった。
両腕の感覚は曖昧で、空気に撫でられてじんわりと痛みを感じるのがやっと。息も絶え絶えで、確実にイエスマンの力に置いてけぼりにされてしまっている。
「それでも、少なくなってってる……」
当初は数百体もいた巨大なバイソン型は、明らかにその頭数を減らしている。目算ではあと三体ほどか。みんなのおかげで、やっとここまでこぎつけた……。
「はぁ……はぁ……もうちょいだ……!」
引き寄せられる力だけは勢いが全く変わらず、続々に相手をお出ししてくる。いくら勝ちが決まっているとはいえ、この体の痛みはなんとかならないものなのだろうか。半ば自動的に左腕を振り抜き、上向いている角を破壊しにかかる。これで終わりだ……!
――しかし、寸前で動きが急に止まる。止められる。
「えっ、どういうこと!? なんで殴れな……くうっ!」
そのままバイソン型に頭で跳ね飛ばされ、私は空中を舞う。かろうじて視界に入ったのは、白目をむいて倒れていくヤツの姿だった。
そうか、イリーゼたんがトドメを刺したから、私はイエスマンに『同じ敵に攻撃するな』と、動きを止められたのか。どこにも引き寄せられないということは、アイツの他にバイソン型ももういない。それすなわち、空中で活動するための対象が消えたということ!
――ああそうか。
私、このまま地面に落ちて死ぬんだ……。
思えば、前世での死に方もこんな感じだったなぁ。俺の不注意でトラックに激突して、この世界に転生したんだっけ。運良く『最推し』のイリーゼたんに拾われて、なんだかんだで『準推し』のミレイユ様や『新推し』のクロエちゃと仲間になって。逆に私を推してくれたフウカとも出会ってさ。
五人でパーティーを組んで、クエステットにも行って。イエスマンのせいで大変な目にばかり遭ったけど、そのおかげで楽しい思い出もたくさん作れた……。
あーあ、走馬灯見ちゃってるじゃん。青空がだんだん遠くなっていって、やがてそれすらも黒で覆われていく。
恐れていたことが起きちゃったなぁ。どうやら『バチバチに勝つ』という未来には、イエスマンの私はいないみたいだ……。
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