第32話 うちの

「ふっ……また二人で盛り上がっているな。策でも思いついたのか?」


 第三王女が半笑いで私たちに問いかける。さっきまであんなにハグしていたというのによくやるなと、呆れられているだけかもしれない。私が第三王女の立場ならそう考えちゃうし。


「策ってほどじゃないんですけど、レオナはあーしの期待に絶対に応えてくれるんです。だから絶対勝てるというか」


 ねえちょっと待って、イリーゼたんが『うちのレオナ』って言ってくれたんだけど! あーヤバ、さっきまでの感触を思い出してまた顔が熱くなってくる……うちのだって……。


「根拠のない自信……というわけでもないのだろうな。それだけレオナの一現性能力ワンオフにはそれだけの力が秘められている。イリーゼが『勝て』と言えば絶対に勝つ、良くも悪くも分かりやすい一現性能力だな」


 その通り、さっきイリーゼたんに言われた『絶対に勝つよ』という言葉。アレは単に気合いを入れるための一言だけでなく、私の持つ一現性能力を発動させる『鍵』としての役割も兼ねている。ここからの戦いは、その決定した未来がのものだ。


「本当ですよ……ワタシもあの時、レオナとイリーゼをなんとかして離そうとしてましたもん。イエスマンを発動させないようにした結果、逆にイエスマンで離ればなれになりましたが」


 だからファーランドは馬車を引き返さずに、そのまま王城へと向かったのか。そりゃ、イリーゼたんが『みんな家に帰ろう』なんて言おうものなら、あっけなく逃げられるんだけども。だから私たち二人をバラした上で、口封じする必要があったわけだな。


「レオナさんが外に出た後、すぐさまボクたちを拘束したもんね。手つきも良くなっていたし、一現性能力もかなり使いこなしていた。後輩の成長をあんな形で感じたくはなかったけど……今度はちゃんとしたやり方で見せてくれるんだよね?」


「もちろんですよ、ミレイユ騎士団長!」


、だけどね。それでも騎士としての誇りまでは捨てていない、住民たちを護るぞ!」


 今度はミレイユ様とファーランドの二人が、眼前の脅威へ立ち向かうべく声を張り上げる。ファーランドはやり方を色々と間違えただけで、王都の住民を護るために尽力していた。なんだかんだ憎めないヤツではある、私たちを処刑しようとはしていたらしいけど。


「まったく、みんなしてもりあがってズルですの! ねーフウカ?」


「まあ落ち着いてくださいクロエさん。自分はあまりテンションを上げていけないタイプですので、別にあの雰囲気がズルいとは思いませんけど……でも、絶対に勝たなきゃいけませんね。モンスターを扱う者スライム使いとして、人様に迷惑をかけるというのは見過ごせません!」


 ついに全員の目つきが変わり、何百体もの巨大なバイソン型を倒さんと一斉に駆ける。

 先陣を切ったのは『テレポート』で一瞬で空中へと移動した第三王女であり、そのまま右手の盾でバイソン型の角を破壊していく。ナイフじゃなくて盾でいくんだ……。


「ひゃー! 第三王女様、まさか瞬間移動する一現性能力とはねー!」


「そーなの! これがわたくしのあこがれた『ぼーけんおーじょ』なんですわ! いつかこれくらいつよくなれるよーに……スコール!」


 第三王女の周りを囲みだしたバイソン型を牽制するように、局所的な暴風が吹き荒れる。姉妹で息が合うのか、上空の第三王女は風に巻き込まれることなく、むしろ追い風として無双っぷりに拍車をかけている。さすが最高峰のギルドの一員、もうなんでもアリだよあの人。


「私たちも続きましょう!」


 私とイリーゼたんは向かって正面、ミレイユ様とファーランドは右側、クロエちゃとフウカは左側の三手に分かれて、襲いかかってくるバイソン型へ相対する。

 進路を防いだはいいものの、コイツらをどう倒せばいい? 第三王女は上空でテレポートを駆使しながら、着々とバイソン型たちの戦意を削いで無力化しているけど、私たちにはそんな芸当はできない。せめて飛べれば話は別だけど……あっ。


「イリーゼたん、私たちも空を飛びましょう! !」


「いつもの、ねー……おっけ。じゃあ『一緒にバイソン型の角を落とそっか』!」


 彼女の言葉がトリガーとなり、私たちの体はゆっくりと浮き上がる。やがて第三王女が漂う地点と同じくらいの高度に達すると、今度は一気にバイソン型の角の目の前まで引き寄せられる。


「イエスマンの効果は重力をも超える、か……本当にあの二人が揃えば敵なしだな。我を凌駕する存在になり得るかもしれんな!」


「「――はああああっ!」」


 イエスマンの力で勢いが上乗せされたガントレットを振り下ろし、二人同時に両方の角を折っていく。すぐさま次のバイソン型の元へと体をもっていかれ、これまた同時に角を破壊。するとまた次の標的へ……これの繰り返しだ。


「くっ……!」


 しかしイエスマンに体がちゃんとついていけるわけではなく、だんだんと左腕の感覚がなくなっていく。たまらず右腕の方で殴っていくが、慣れていない分手応えがない。そのうち角を折れなくなってきそうだ……。


「大丈夫!? 腕が痛むならムリしないでいいから!」


「そうしたいのはやまやまですが、イエスマンがそうさせてくれないっぽいです……本当、なんでも聞けるってのも考えものですね」


 イエスマンの効果が切れるのは、おそらく目の前にいるバイソン型の角を全て折った後だ。ざっと三十体分は折ってきたが、頭数は減るどころかさらに増しているように見える。また例のヤツが安全圏からぽんぽんと呼び出して、P.R.I.S.M.プリズムのヤツが体長を大きくしているのだろうな。

 結局、その二人を直接叩かないことには、いつまで経っても一生牛の角を折るだけとなってしまう。上空にいることを利用し、隙を見て下側で誰かいないか探る。


 どこだ、ヤツらは一体どこにいるんだ……?

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