第28話 代わりの利かない役割
ナイフに触れないよう手を挙げて、とにかくこちらに敵意がないことをアピールする。これ以上罪を重ねると、いよいよ取り返しのつかないことになるからな。
「こ、これは大変失礼いたしました! まさかクロ……第六王女様のお姉様でいらっしゃるとは! 先ほどのご無礼、このレオナ・イザリドロワが土下座にてお詫び申し上げます!」
俺は手を挙げたそのままの流れで土下座に移る。未だ第三王女の姿を確認することがないまま、地面に顔を埋める勢いで、深々と……。
「別に謝罪などいらん、我が求めるは妹の安全のみだ。あの子には、我のように冒険者としての活動をのびのびとしてもらいたいからな」
自身が冒険者だからだろうか、サマンサ第三王女は意外とクロエちゃの活動について好意的に受け取っているようだ。最大のピンチが、一転して逆転の切り札になり得るかもしれない。
そうと決まれば、彼女の権力を借りるため、俺たちイリーゼパーティーの無実を証明するしかないな。コイツとクロエちゃの二人の後ろ盾があれば、さすがにこちらの意見を押し通せるだろう。
「あの、サマンサ第三王女様!」
長い長い土下座状態から顔を上げ、ついに彼女と対面する。
クロエちゃの黒とは違う緑色のポニーテールに、赤い縁のメガネ。全身を濃い緑の鎧で包んでいて、右手に小さな盾を、左手には俺を脅したナイフを構えている。姉妹の中でも、こんなに印象が変わるもんなんだな……。
――っていらない関心をしてる場合じゃない。図々しいマネだというのは分かっているが、
「――目つきが変わったな、この我を利用せんとする眼だ……。今の今まで謝り倒していたというのに、面白いヤツだな。貴様に何があったか詳しくは知らんが、とりあえず話を聞かせてみてくれ」
第三王女はまるで笑い話を聞くかのようなテンションで、こちらに耳を傾けてくる。あくまでも『話を聞くだけ』といった感じだ。口ぶりからして、今イリーゼパーティーが置かれている状況を知らないのだろうな……。
俺は彼女に、今朝起こったことを全て話した。最初はにこやかに相槌を打っていた王女の表情が、みるみるうちに鬼の形相に変化していったのが良くも悪くも印象的だった。
「要は、貴様だけ自身の
「分かりません、ですが引っかかりますよね。メンバーを一人だけ隔離させることに、一体何の狙いが……?」
「確実に言えるのは、貴様の一現性能力が使用できない状態にあるということだな。『イエスマン』の効果でここに取り残されたなら、逆に馬車へ戻れもするはずだ。それが数時間経っても待ちぼうけ、と」
その点は俺も引っかかっていた。なぜ王城まで引き寄せられないのだろうか。イリーゼたんが俺を来ないようにしているのか、それとも……。
「原因は分からないが、とにかく我らも王城へと向かおう。いくら騎士団長とはいえ、クロエの自由を奪うようなマネはさせん! 行くぞ!」
そう言いつつ第三王女は俺の腕をがっしりと掴み、こんこんと、かかとで地面を二回叩く。
すると一瞬で、俺たちは見覚えのある部屋に移動していた。
「ここって……第六王女の部屋!?」
「ああ。我の一現性能力は『テレポート』といってな、一度訪れたことのある場所になら一瞬で来られるといったものだ。貴様とは、移動範囲を増やしている途中に偶然出くわしたわけだな」
マジか、それがなかったら俺はずっと待ちぼうけだったのかよ。
だからこそ、第三王女の存在は最大のチャンスだってことだ。絶対にクロエちゃを取り戻して、また五人で楽しく過ごすんだ……!
「クロエは護衛されているだろうから、まずは貴様のリーダーを探すぞ。酷なことを言うが、一応最悪の場合も頭に入れておけ」
「――はい」
イエスマンが発動する『指示』が来ないということは、イリーゼたんは言葉を出せる状態ではない可能性がある。あの騎士団長に口封じをされたか、あるいはそれよりも……あまり考えすぎるのもやめよう。そうならないように探索するのだから。
俺たちは第一に騎士団長の部屋へと向かう。『アイツ専用の場所』だということで、どんな仕打ちを行おうとも、秘匿しやすい空間だからな。
ミレイユ様のキャラストーリーでうっすらと見た殺風景な廊下を進んでいき、最奥にある茶色の扉に聞き耳を立ててみる。
「……特に声はしませんね。みんな口封じされているのかも、このまま突入しましょうか?」
「我が先陣を切ろう。貴様はひとまず、扉の裏に隠れるよう立っておけ」
俺と第三王女による、パーティーメンバー救出作戦の開始だ。王女は扉の正面に立ち、軽く三回ノックする。
「――失礼する、ファーランド・カイニス騎士団長はいるか? いるなら返事をしてくれ!」
「ワタシならいますが、第三王女様がなぜここにっ……!?」
王女は俺を脅した時のように、すぐさま騎士団長の首筋にナイフを突き立てる。間近で見ていたのに、速すぎて全然見えなかった……!
「クロエとパーティーを組んでいる、イリーゼ・リルファバレルとその一行はどこだ? 貴様なら知っているはずだよな!?」
一応相手は国を守る軍人で味方だというのに、王女はお構いなくナイフの先端を動脈へと近づけていく。妹のためならそこまでしてくれるとなると、かなり心強いな。
「王女様、そのナイフをしまってください。ワタシはただ、犯罪人を王城まで送り届けただけです!」
「だからといって、クロエの話もろくに聞かないまま決めつけるのは早計だろう。あの子はずっと、冒険者として活動する我に憧れを抱いていた……。
そうか、だから初めて会った時も『代わりが五人もいる』というフレーズを発していたのか。
生まれ持った一現性能力がありながら、それを思うように扱えない。扱わせてくれない。クロエちゃは『第六王女』という所詮六番目でしかない役割で、この先の人生を縛りつけられていたんだ。
確かに、王城から勝手に逃げ出したのは許されることではない。しかし彼女の人生を、彼女自身の判断と行動で歩ませない方が、よっぽど許されないことだと俺は思う。
王女がなんだ、国がなんだ、クロエちゃはクロエちゃだろうが!
「レオナ、今のうちに中に入れ!」
「はい! ありがとうございます!」
俺は扉の裏から飛び出し、二人の隙間をくぐり抜けて騎士団長室の中へ突入する。待っててみんな、今助けるからね……!
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