第22話 同意を得た上でやってください
「相手は『私たち自身』……なるほど、あなたの
その言葉を聞いて、女の口角が少しだけ上がる。あくまでも一現性能力の正体がバレることは想定済みであり、事実に気づいた者から戦意を削ごうとでもしているのだろう。
少なくとも、この状態では絶対に勝てないからな。さっきのイリーゼたんの言葉で勝利が決定づいたとはいえ、その瞬間は今ではないだろう。
「銀髪のお嬢さんは比較的察しが良いですね。そして、私を下せないことにもお気づきになられたようで。あなた方が束になっても、私には勝てませんよ~」
――なんて絶妙な言葉選びだこと。
コイツ相手に束になるのはむしろ逆効果だ。だからといって、ここで女を逃がすわけにもいかない。ひとまず対話による解決を狙うしかないな。
「勝てないだって!? ボクたち五人で力を合わせれば、きっとお前なんてすぐに……」
「ダメですミレイユ様! 今の私たちではヤツを下すのは絶対にムリです。ここは私に任せてください」
身を乗り出すミレイユ様を銀色の左腕で制止し、俺はゆっくりと女との距離を詰める。こちらに敵意はないことを証明するべく『ナイト』で装備されたガントレットを投げ捨てながら。
「戦う気はない……賢明な判断ですね。こうして近づいてくるのも、あなたなりの賢明な作戦に基づいてのものなのでしょうね~」
圧倒的な一現性能力を持っているからか、女は余裕のある立ち振る舞いを崩さない。そりゃそうだよな、お前はその身一つで、実質四人分の一現性能力を抱えているのだから。
「しかし、そうやって素直に近づくと……」
「フウカ! 今すぐスライムで私を取り囲んで!」
「はっ、はいぃ!」
女の言葉を遮り、俺はフウカに『スライム』の使用を命じる。直後、女の後ろから緑色のスライムの大群が襲いかかり、取り囲んだ水色とで相殺される。
――やっぱりな。理由こそ分からないが、コイツはなぜか『スライムで襲撃する』という点にこだわっている。だから今この瞬間も、俺のことをスライムで倒そうとした。
この女はスライムを扱うことで、フウカとはまた別の意味でハイになっている!?
「なにっ、まだいたんですのね!」
「いえ、あの女が新たに呼び出したのでしょう。本来であれば自分にしか使えない『スライム』を、完璧に再現している……まさか、あの女は『他人の一現性能力を扱える』ということ!?」
「は~い正解、私の一現性能力は『コピー』ですよ~。そこの青髪の方にタダ乗りして、スライムで遊んでいたわけですね~」
その気にさえなれば『鎧を纏いながら雷も暴風もスライムも発生させられる』という芸当ができるという事実に、四人の表情が一気に強張る。だから勝てないんだ、と……。
「あらあら、読まれていましたか~。しかしそこまで予想を立てておきながら、私への接近をやめないのですね。なんのつもりですか~?」
いちいち神経を逆撫でするような口調だな。声質がセクシーなお姉さん系なだけに、一方的に『もてあそばれている感』が強い。たとえ対話に持ち込んでも軽くあしらわれそうだが……現時点での手段はこれしかない。
「この場を穏便に済ませるために、対話による解決を望んでいるだけです。あなたも何か理由があって、フウカの『スライム』を利用したのでしょう? まずはその理由を教えてください」
「なるほど。そんなの、服が溶けて恥ずかしがる姿が見たいからに決まっているじゃないですか~!」
「「「「「……は?」」」」」
ちょっと待って、いきなり何言ってんのコイツ!?
確かに海で遭遇したヤツらに、イリーゼたんはビキニを溶かされて恥ずかしい思いをした。倒されそうになったから対抗手段として服を溶かしたわけじゃなくて、最初からそれが目的だったの!? じゃあ、コイツただのド変態じゃん!
「だからそこかしこにスライムで襲撃して、住民を辱めようとしたってこと!?」
「大正解です! 私、かわいらしい女性が顔を真っ赤にして、身をよじる光景を見るのが大好きでして……うふふっ……」
結局、フウカがヤバめな趣味を持ったヤツに、自身の一現性能力を悪用されたというのが話の全容なわけか。
……いやいや、なんだこの女! 日頃から推したちに囲まれて内心ニマニマしてる俺からしてもキショいぞ!
「スライム使いとして、あなたは到底許せないことをしでかしました。自分だってレオナさんの服を溶かしたり、耳元や首筋に這わせたいと、幾度となく頭によぎりましたよ……しかし! それを行動に移してはなりません! きちんと相手の同意を得た上でやってください!」
こっちもヤバかったー! なんでフウカも一旦その選択肢がちらつくわけ!?
俺って、服を溶かされそうな状況でフウカと暮らしてたんだ……俺が勧誘したとはいえ、急にこの先一緒にパーティーをやっていけるか不安になってきたんだけど。貞操とか大丈夫?
「しかし元はと言えば、自分の一現性能力が招いた事件です。責任はこのフウカ・ムウカがとるべきでしょう……お覚悟を!」
「ダメだってフウカ! 認めたくないけど、アイツの一現性能力は強力なコピーなんだよ。せめて一対一の状況に持ち込んでからじゃないと!」
グラクリ世界の人間は、誰しもが特別な力に目覚めているという設定だ。
仮にコピーが『自分との距離が近い人間の一現性能力を扱える』場合、ヤツを倒すには周りに誰もいない状況を作る必要がある。フウカとヤツだけの空間をスライムで作ろうにも、すぐに打ち消されるのが目に見えている。
一体どうすればあのエロ女を、誰もいない場所へ隔離させられるんだ……!
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