第18話 桃色のレベルアップ演出

 たった五人の俺たちを、バイソン型モンスターの群れは左右から挟み撃ちにしてくる。チームワークの賜物か、あるいはただ獲物に向かおうとするだけなのか……しかし相手が悪かったな。

 こちらには『バッチバチに勝つ』という指示に忠実に従うイエスマンがいる。イリーゼたんが発した言葉が、何らかの形で現実となる。だからコイツらに負ける可能性は一切ない。


 つまり俺たちはただ勝つために戦うのではなく、が重要となる。

 さっきフウカが突進されたように、勝利とは関係なく普通に負傷はする。じゃあイリーゼたんから『負傷をしないように』指示されれば……いや、それだと俺だけが怪我しなくなるだけで、他の四人には何の影響もない。ああ、いかにも一現性能力ワンオフらしい弱点だな……。


「結局、ひたすら倒しまくるしかないか!」


 両腕のガントレットで、バイソン型の角をとにかく折りまくる。フウカによるスライムでのサポートも味方して、着実に討伐数を増やしていく。

 だけど、妙だな……ざっと十体ほど倒したところで、俺はある異変に気づく。


「――いくらなんでも、急に頭数が増えすぎじゃないですか? しかも最初に突進してきた方向とは、全く関係のない横から! この短時間で回り込めるとは思えません!」


 まず俺たちは、突進してきた後に『敵意を抱いて振り返ってきたヤツら』と対峙した。その状況から挟まれるとすれば、もともとやってきた時と同じパターンで第二陣が攻め入るくらいしかありえない。

 しかし今挟まれているのは、前後ではなく。激突する寸前まで、第二陣が音もなく俺たちを取り囲めるなんてのは、いくらなんでもムリがある話だ。


「確かに……だとすれば『モンスターが自然に発生した』としか考えられませんね。しかし、そんなことがありえるのでしょうか?」


 ミレイユ様の立てた仮説は、もともとこの世界が『グラマラスクリア』というゲームである点を踏まえると、絶対にないとも言い切れない。

 バイソン型が勝手に現れる湧くというのがゲームの仕様だとしたら、もう『そういうもの』と捉えるしかない。


 だけど、スマホゲームのグラクリでそんな仕様になるとは思えないし、それこそモンスターが自然に湧くことなんて、冒険者や騎士団は知っておくべき常識じゃないのか……まさか!


「モンスターを呼び出す一現性能力……!?」


 ――その結論に至った瞬間、誰にも聞こえない音量で漏れ出ていく。

 フウカの『スライム』と同じ要領で、俺たちにバイソン型を仕向けているヤツがいるんだ!


「どこだ!? 姿を現せっ!」


「ちょ、どうしたのレオナ!? 何か分かったの!?」


 急に横で動揺した俺を見て心配になったのか、イリーゼたんが声をかけてくれる。いつもは興奮してしまうところだが、既に別の意味で興奮状態だったので、逆に冷静さを取り戻す。


「はい、あくまでも私の仮説なんですが……裏でバイソン型を操っているヤツがいるんじゃないかと! だから急にフウカが突き飛ばされたり、左右から挟み撃ちにされたんだと思います……!」


「「「ええええーっ!?」」」


「な、なるほど……自分の『スライム』のように、バイソン型を生み出す一現性能力を持った人がいるというわけですね。だとしたら、なぜ自分たちに敵意を向けるのでしょう? 冒険者が嫌いなのでしょうか?」


 問題はそこだ。フウカの言う通り、敵が俺たちを襲う理由がまるで分からない。

 ソイツを直接倒すか、和解するか。あとは戦意を喪失させでもしなければ、このクエステットが終わることはないというのか……?


「――気づかれたか。あーあ、やめだやめだ」


 どこからともなく聞こえた声とともに、あれほどいたバイソン型が消えていく……一現性能力を解除したのだろう。残った一頭を討伐しにかかるが、そのバイソン型から再び謎の声が発せられる。


「そのバイソン型モンスターを叩いたってムダだ。オレはお前らの視界にも、この湿原地帯にもいないんだからな。安全圏からバイソン型を放っている……といった具合だ」


「……なんのためにこんなことを?」


 ダメ元で真意を聞いてみる。そうでもしないと、コイツに関しての手がかりがなさすぎる。


「その素直さに免じて、特別に答えてやるか。理由はただ一つ……


 その言葉がトリガーとなったのか、突如バイソン型が悶え苦しみ、やがてぐったりと倒れ込んでしまう。これもヤツの一現性能力によるものか……。


「聞けば、お前らは腹が減ってるらしいからな。オレの一現性能力を看破した褒美だ。それでも持ち帰って食べてくれや。それじゃ、そのうち会おうなぁ……!」


 ついにバイソン型から声がしなくなり、俺たちも次第にギルドへと引き寄せられていく。どうやらクエステットをクリアした扱いになったようだな。

 色々と謎は残るが、俺たちは湿原地帯を後にする。上空に舞い上がりながらも、イリーゼたんはしっかりとバイソン型を持ち帰っており、ひとまず今日のごはんだけは確保できた。


「――なるほど、ライバルを減らすために……となれば、クエステットを依頼したのはその人自身なのかもしれませんね。とにかく、まずは全員無事でなによりですよ~」


 イリーゼパーティーはギルドに戻り……というより、今はカトレアに謎の女についての情報を共有しているところだ。

 結局分かったことは『バイソン型モンスターを操る一現性能力を持つ』ことと『俺たちのことをライバル視している』ことくらいであり、それ以外の情報は女性であることのみだ。グラクリには女の子しかいないからな……。


「な……なんですの、このひかりはー!?」


 叫び声の方へと振り返ってみると、クロエちゃの左腰から、何やら桃色の光が輝いている。


「おおっ、ボクもです! ここには確か……やっぱり、レベルカード!」


 すぐさま二人のカードに注目すると、レベルの欄に記載された数字が『1』から『17』へと変化していく。そうか、クエストをクリアしたことによって、レベルが上がったのか!


 クロエちゃとミレイユ様は初クエストだった分、数値が一気に跳ね上がっている。

 逆に俺やイリーゼたんはもともとのレベルがそこそこ高いから、レベルアップには至らなかったわけだな。フウカも特に変化なしだ。


「いきなりクエステットに行くと、ここまでレベルアップするんですね。透命石クリアストーンの輝きがすごいことになってます~……」


 これ以上は目がチカチカするので、光が漏れ出ないようにしまってもらう。しかし、最低レベルでもあれほどの身体能力と一現性能力の威力だとは……仮にゲームで実装したらSSRどころの騒ぎじゃないぞ。周年のガチャで出て、そのまま環境をぶっ壊す勢いすら感じる。


 そう考えると、俺はともかく、このパーティーってかなり強いのかもしれないな……!


「はい、これが報酬金です。まさか生き残るとは思わなかったのでしょうね、かなりの大金ですよ~。というか……モンスターを持って帰ってきたのですか~!?」

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