第17話 装備、急襲、第二ラウンド

 バイソン型モンスターの群れが、俺たちを倒すべく一斉に襲いかかる。いくらこの戦闘の勝利が決定されているとしても、あんなヤツらを相手に正面でやり合える自信はない。何か策を立てなければ……。


「皆さん、ボクの『ナイト』で装備を整えますね! 鎧で体は重くなりますが、その分吹き飛ばされにくくなりますので!」


 ミレイユ様のかけ声通り、直後に急激に体が重くなる。少しだけ狭まった視野と可動域が、兜や鎧を纏った証明となっている。胸をしっかりと覆うチェストプレートに、イリーゼたんを思わせる両腕のガントレット。

 ヘルメットのせいで首筋に追いやられた毛先を外に出してやる。ふわりと揺れた銀髪と、銀色に輝く鎧の統一感に、思わず笑みがこぼれてしまう。


「みんな同じ鎧なのに、なんだか『専用装備』って感じがする……いいじゃん!」


「似合ってんねレオナー! あーしは右腕だけ白なの、なんか特別感あってよくない?」


 もともとガントレットを装備しているイリーゼたんは、右腕は据え置きで、それ以外の箇所にはナイトによる装備が施されている。こっちも『専用装備』感がすごいな!

 ――というか、さすがイリーゼたん! 何を着けてもかわいすぎるうううう!


「で、では……自分は『スライム』でバイソン型の足止めをしますね!」


 あれほどまでに猛スピードで突進していたバイソン型の動きが一瞬にして止まる。見ると、ヤツらの足元に大量のスライムがまとわりついていた。

 フウカは杖を扱う都合上、唯一ガントレットの装備が省かれている。その代わりかは分からないが、今度は手から杖を離すまいと、腕一帯をスライムでしっかりと包んで固定していた。これもある意味彼女の『専用装備』だな。


「ミレイユ! わたくしにぶきはないんですの!?」


「ええ、クロエ様に武器を扱うのはまだ困難であると判断しまして……ですので、ボクの後ろで『スコール』を放ちまくってください!」


 ミレイユ様は盾を装備した左手でクロエちゃを守るように構え、そして右手にはナイト製の剣を、バイソン型へ向けて突き立てている。従者の気遣いに応えるかのように、クロエちゃはミレイユ様の真後ろに隠れ、空に向けて右手を掲げる。これで全員の準備が整ったな……!


「それでは、私とイリーゼたんが前衛で戦いますので、皆さんは取りこぼしの討伐をお願いします! 行きましょう、イリーゼたん!」


「そっか、あーしが指示を出したら、みんなの体が勝手に動いちゃうもんね! じゃあレオナはこれから、イリーゼパーティーの『作戦担当』だねー!」


 最推しはそう言って、俺だけに向けてにこっと笑ってみせる。そうそう、前世の俺はこの屈託のない笑顔にやられたんだよ。そして今世レオナでも……。

 だからもう『パーティー脱退』なんて考えるのはやめだ! 俺はイリーゼたんのために、そして俺自身のために、地の果てまでも彼女についていく。


 ――最推しのためにヤツの覚悟ってのは、生半可なもんじゃないからな?


「「……よっしゃ、バチバチに行こう!」」


 イリーゼたんの出撃ボイスを叫ぶと、思いがけず彼女とシンクロしてしまう。ふふっ……それだけ推しているってことだな!

 そのまま足並みを揃えてバイソン型の群れへと突っ込んでいく。フウカのおかげでがら空きの胴体に、ガントレットのアッパーを突き立てる。


「「食らええええっ!」」


「モオオ、モオオオオーッ!?」


 一体ずつではあるが、確実にバイソン型を討伐していく。『サンダー』による追撃が可能なイリーゼたんとは違い、俺には直接戦闘で有用な一現性能力ワンオフを持っていない。単純に『レベル』と、存在しているかも不明な『レアリティ』の概念だけでなんとか追いつけているといった状況だ……。


「レオナのヤツ、イリーゼにくらべてくせんしてますわね……それっ!」


 そういった理由で俺がバイソン型の処理に手こずっていると、突風が吹き荒れる。

 どうやら、未だ決定打を生み出せないでいる状況を見かねたクロエちゃが、スコールを発動してくれたようだ。地面にぬかるんでいるおかげで逆にこちらは吹き飛ばされずに済み、怯んでいるバイソン型の隙を突いて、俺もパンチの雨も浴びせていく。


「イエスマンのレオナには、わたくしのサポートがひつよーみたいですわね!」


「ありがとうございます、クロエちゃ!」


「れいはともかく、そのよびかたはどーにかならないんですの……?」


 ――その後も、俺たちは俺以外の一現性能力をフル活用し、湿原地帯に現れたバイソン型を着実に片づけていく。見える範囲にいるヤツは全て討伐完了だ。しかし俺は、ここにきてクエスト内容の『全て』という点に引っかかっていた。

 フツーに考えれば弱小ギルドに寄せられた、ただの『無茶ぶりなクエステット』のように見えるが……勘繰りすぎか? それにしては、


 つまり、まだクエステットは終わっていない! それすなわち、この後も突進してくるバイソン型がいるということだけど、それは一体どこから……?


「このおとって……わたくしたちのみぎがわからですわー!」


「し、しかも急に左側からも!? スライムも間に合わない……ひゃああああっ!」


 フウカは突如現れたバイソン型の群れに弾き飛ばされ、腕を固定していたスライムも全て弾けてしまう。


「「「「フウカー!」」」」


 しかしおちおち人の心配もしていられない。俺とイリーゼたんはガントレットでなんとか正面の数体を対応するのがやっとで、後方の二人のもとへの進攻を許してしまう。


「クロエ様、ボクの真後ろへ……! どりゃああああっ!」


 ミレイユ様は左腕の盾で攻撃をいなしつつ、剣でバイソン型の角を切り落としていく。ヤツらにとって武器となる箇所を取り除くことで、戦意を喪失させる。自身が『狩られる側』だということを、本能で理解したようだ。


「ヤツらの弱点は『角』です! リーダーとレオナさんは、角を重点的に狙ってください!」


「「おっけー!」」


 ガントレットを二本角に打ちつけて、全力でへし折りにかかる。さっきよりは幾分か楽になったような、そうでないような……。しかし効果自体は大きいようで、後続の一部は慌てて引き返している。このまま湿原地帯に来させないようにすれば、晴れてクエステットはクリアだ……!


「弱点は……角、なんですね……」


「フウカ! 大丈夫だったの!?」


「なんとか……落ちる直前に杖を握り直せて、スライムでクッションを作ったので怪我はないです。ちょっと立ち上がるのに時間がかかっただけで……」


「だとしても休んだ方が……そっか。じゃあさっきみたいに足止めをお願い!」


 しばらく休ませようとしたものの、彼女は『そうしてくれるな』と目で訴えてきた。杖をぬかるんだ地面に突き立て、フウカも戦線に復帰する。これで再び全員で相手できるな……!


 ――五人専用クエストクエステット、第二ラウンドの開幕だ!

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