第15話 弱小ギルドはムリを強いられるらしい

「ひっ……ひゃああああ! なんで体が勝手にいいいいっ!?」


「ごめんフウカ! 私のイエスマンが、イリーゼたんの言葉に反応してるの!」


 俺の一現性能力ワンオフは、もしかしたら本人以上にイリーゼたんの発言に敏感なのかもしれない。彼女は確かに『クエステットに向かう』旨の発言をした……だからこそ、メンバー全員が冒険者ギルドに引き寄せられているわけだ。


「ああ、みんな本当にごめんー! 次からはマジで発言に気をつけるからああああ!」


 イリーゼたんは止まれないながらも腰をひねり、俺たちに謝罪の意を表する。イエスマンの影響下では険しい表情と手を合わせるのがやっとだったようで、またすぐにギルドの方へと向き直されていまう。


「レオナったら、なんてワンオフですのー! もーパーティーからぬいたほーがよろしくて!?」


「ちょ、いきなりクビですかー!?」


 ミレイユ様に抱えられたクロエちゃに、なんとも辛辣な一言を浴びせられる。確かに直接戦闘では使えない一現性能力だし、今みたいに他のメンバーにまで迷惑がかかってしまう。

 推したちや、逆に推してくれている子と別れてしまうのはつらいけど……後々の効率を考えれば、脱退がベストな選択だろう。


「ちょいちょーい、それはダメだって! せっかく五人揃ったんだから、レオナをクビにしちゃまずいよー!」


 さすが俺の最推しイリーゼたん! 誰にでも優しく接してくれるギャルってのは、やっぱり天使なんだよな……!


「では新たな人材が見つかり次第、入れ替わりでパーティーに加入してもらいましょう! リーダーはクエステットに行けさえすれば、それでいいのでしょう?」


 ミレイユ様ああああ! この人、俺の残留するルートを丁寧に潰してきた……アイデアに穴がなさすぎるよ。脱退の線がさらに濃くなったよ!


「ま、ままま待ってください! ひとまずレオナさんがパーティーから脱退するとして……わがままかもしれませんが、自分はレオナさんの方についていきたいです、推しなので!」


 肩を持ってくれるかと思ったら、肩パンされた気分! いや、フウカの気持ちも分かるし、それによるパーティーの空中分解を危惧するのも分かるよ?

 だけど、なんで俺が脱退することを前提で話が進んでるんだよ!? 俺も推しと離れたくないのにー!


「――もう! 私のイエスマンで迷惑がかかってるのは分かりましたから、今はクエステットについて集中しましょう! ……というか、このままじゃ壁に激突するんだけどおおおおっ!」


 奇しくも扉を昨日ぶち破ったおかげで、ギルドに突入するまでに俺たちを阻むものは一切なかった……その分、猛スピードで壁にぶつかるということだ!


「だ、大丈夫ですよレオナさん! 自分に任せてください……『スライム』!」


 フウカが杖を振り下ろすと、激突する対象は木製の堅い壁から、スライム製の柔らかなものへと変更される。これで怪我の心配はだいじょう……。


「「「「「わぶっ……」」」」」


 ほんの一瞬だけ、俺たちは五感の全てが支配される。全身をスライムに抱かれて、そのぬるぬるとした感触に安心感と嫌悪感を抱く。

 俺とミレイユ様がやっとの思いで抜け出すと、あまりにも意味不明な光景にドン引きするギルド長の姿があった。


「まったく、静かにギルドに入ることすらできないのですね~……おや? 五人いるというととは……?」


「んんー! ふへふへっほクエステットはひはふやりますー!」


「いやイリーゼさん、スライムに埋まった状態で返事しないでくださいよ。とにかく、この五人でクエステットをやるんですね?」


 カトレアは呆れた様子で、クエステットの依頼が来ているか確認しに奥の部屋へ向かう。その間にイリーゼたんとクロエちゃ、地獄絵図の張本人であるフウカをスライムから引き抜く。

 フウカに至ってはスライム内で気絶してしまっており、そのせいでスライムがすぐに消滅しなかったのだと悟る。コイツもコイツで、自身の一現性能力に振り回されてるな……。


「――うちのギルドは弱小もいいところなので、クエステットもこの一件しかありませんでしが……これでもよろしいですか~?」


 そんな不穏すぎる前置きとともに、カトレアはクエストの詳細が書かれた紙を机に置く。

 イリーゼたんが先んじて音読しようとするも、イエスマンを発動してしまうことを危惧し、あと一歩のところで踏みとどまる。


「ああそっか、では代わりに私が読みますね。どれどれ……『湿原地帯に突進してくるバイソン型モンスターを、全て討伐』……はぁぁぁぁっ!?」


 ――本文を読み上げたと同時に、ギルドの外に引っ張られる感覚がするが、こんな事実をみすみす認めたくはない。机の縁を力いっぱい握り、なんとかして他のクエストがないか抗う。どうやら四人もそのつもりのようだ。


 いやいや、バイソン型をって! そもそも、どれだけやって来るのかも分からないんだから、いつクリアできるかも不明なんだけど。もしかしたら一生かかってもムリかもしれないって、そんなの嫌すぎるでしょ!


「あの……これ以外のクエステットって、本当に一件もないんでしょうか? いや、薄々分かってはいるんですけど……」


「うちは所詮弱小ギルドです。このような明らかな無茶ぶり以外のクエステットは、そうそう来ないでしょうね~」


 頬杖をつきながら、弱小の長は全てを諦めて遠くを眺めている。クロエちゃの件といい、明らかに怪しいクエストも管理しなければならないのだと、否が応でも理解させられる。


「それでは、張り切ってどうぞ~……」


「「「「「――いやいや、そんなクエステットなんてムリ……ぎゃああああっ!」」」」」


 張り切りもクソもないかけ声がとどめとなったのか、イエスマンの効力がさらに強まり、俺たちは湿原地帯へと吹き飛ばされていく。これで宙を舞うのは何度目だろう……。


 グラクリ世界に転生してまだ三日目だってのに、どうしてこうなるんだよー……!

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