第14話 一気に四人も増えたからね

 俺を含めた四人が一現性能力ワンオフを見せ合ったところで、最後にリーダーであるイリーゼたんの番となる。


「じゃあトリはあーし! でもあーしの『サンダー』って、敵がいないとイマイチ分かんないんだよねー……」


 サンダーの効果は『体から雷を発生させる』ものであり、その雷を浴びせる対象がいないと、何が起こったかすら目に見えづらい。イリーゼたんの言う通り、近くに敵がいればいいのだが……。


「それなら、自分の『スライム』で的を作りますね……」


「いいね! ありがとー!」


 フウカは杖を振り下ろし、水色のスライムを作り出す。

 まさか討伐対象であるモンスターを発生させる一現性能力が、ここまでの活躍を見せるとは……俺のイエスマン同様、結局は使いようの問題ってわけだ。


「それじゃ、みんな見ててね……サンダー!」


 橙色に輝く右腕のガントレットを、スライムの中心点目がけて振り抜く。柔らかな身体に一瞬で電撃が回り、やがて四方八方に弾け飛ぶ。


「まあ、あーしのサンダーはこんな感じ! あんまり強そうに見えない……スライム相手じゃ効きが悪いのかな? でもライノ型とかバイソン型には、ちゃんと効くからね!?」


 見ると、分裂したスライムたちは地面に溶けかけながらもまだ生きている。どうやらサンダーの効果では、倒すには至れないようだ。

 しかし電撃自体は全ての個体にかかったままであり、麻痺して身動きがとれていない。決め手とはならないが、確実に弱体化できているといった塩梅である。


「スライムの弱点は熱と乾燥ですので、電撃を食らった程度では倒し切れません……。だからこそスライムは『スライム型』と呼称されないわけです」


 フウカはスライム使いらしく詳細な説明をしつつ、弾けたスライムたちを集合させていく。確かにゲームでも、現実の動物にそっくりなモンスターには『型』の字がついていたが、スライムやドラゴンなどのいわゆる『モンスター』なヤツらは、そのまま呼ばれていた。


 つまり、この世界におけるスライムは、昨日倒したライノ型よりも全然強いわけか……。

 画面をタップしていただけでは絶対に知り得なかった情報に、俺はグラクリ知識のアップデートを余儀なくされる。


「なるほど……冒険者ギルドではそういった『呼び方』で、モンスターの強さを明確にしているのですね。王都にもその情報を共有すべきですね……」


「ちょっとミレイユ。あなたはもー、きしだんちょーじゃないんだから。そこまでかんがえなくていーでしょーに。きもちはわかるけどね」


「そういえばそうでしたー!」


 クロエちゃから指摘を食らうと、ミレイユ様は額に手を当ててのけ反る。もともと仕事に対してかなり真摯に向き合う性格なので、まだまだ騎士団長としてのクセが抜けていないようだ。


「――よし、これで全員の一現性能力を理解し合えたねー。それじゃあーしは、めっちゃ疲れたから休むね……」


 さっきまでの元気が嘘のように、イリーゼたんは今度こそ二階の自室へ休憩に向かう。俺やみんなも疲れが溜まっているだろうし、ちょっと遅めの二度寝にしよう……。


「――あの、あの~! 起きてください!」


 フウカが俺の体を激しく揺らして起こす。そうか、一現性能力を披露し合った後、疲れたからリビングのソファーで寝たんだっけ。寝起きで上手く働かない脳みそを回転させつつ、起こしてきた張本人と目を合わせる。


「……なに? なにかあったの?」


「何かあった……というより、何もしなさすぎです。休んでいた間に、もう朝になっちゃいましたよ。このままじゃ眠ったまま餓死します!」


「わお、まじかぁ……」


 窓から外を見てみると、確かに太陽の位置はさっきより低い位置にいる。色味的にも方角的にも夕焼けではないことを考えるに、フウカの言う通り本当に日付が変わっているようだ。


「ええと、イリーゼたんやみんなは起こした!?」


「ええ……今、クロエさんとミレイユさんが、リーダーを起こしています。あと、念のため貯蔵庫を確認しましたが……」


 見るからに肩を落として説明をしようとするフウカを手のひらで制止させる。大丈夫、それは昨日の時点で分かりきっていることだ。


「――うん、何も入ってなかったよね。ライノ型のステーキも結局食べ切っちゃったし、ごはんを買うためのゴールドお金もあったかどうか……」


 考えれば考えるほど、パーティーがカツカツである実情を突きつけられる。

 もともとイリーゼたんが一人で生活していたところに、一気に四人も増えてしまったんだ。単純計算で支出が五倍に膨れ上がったわけで、その時点で余裕がある方がおかしいのだ。


「うう、マジでごめーん……。あーしはめっちゃ寝たから元気なんだけど、みんなはお腹ペコペコだよね……」


「まさか、おーぞくのありがたみをこのよーなかくどでしらされるとは、おもいませんでしたわ……」


「最悪ボクの分はなくて結構ですから、クロエ様に何か恵んでくださらないでしょうか!?」


 ミレイユ様の必死な訴えがむなしく響き渡る。この家には今、食糧と呼べるものが一切存在しない。そして、それを購入する十分なゴールドも……。

 こうなったら冒険者としてとれる選択肢は一つしかない。昨日の今日で、またも空腹状態でクエストを受注するしかないのだ……!


「――行くしかないんだね。でも、あーしたちはもう。ちょっとキツいけど、みんな少しの間だけ耐えてくれる?」


「まさか、この状態で『クエステット』を受けるのですか!? いくらなんでも無茶ですよ!」


 ……はい? くえすてっと? 生憎、俺のグラクリにはそんな単語は存在しない。

 この世界で新たに生み出された概念であれば、記憶喪失のテイである俺が事実確認をしない手はない。イリーゼたんとフウカの間に割って入って、俺はソイツについて質問する。


「ちょっと待ってください。そのクエステットというものは、一体なんですか? 実は私、記憶喪失でして……」


「あーそっか、レオナやクロエちゃんたちは分かんないのか。クエステットってのはね……簡単に言えば『五人でしか受けられないクエスト』のことだよ」


「五人で受ける都合上、普段のクエストの数倍の数、モンスターの討伐を要求されます。その分報酬も貰えますが……」


 ――なるほどな。俺たち五人分のまとまったゴールドは、過酷なクエステットを受けでもしないとまかなえないレベルらしい……。

 だったら、ペコペコの腹を括って受けてやるしかない。しかしそんな覚悟を決めるまでもなく、俺たちの身体は冒険者ギルドに引き寄せられていくのだった。

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