クエステット

第13話 どんな一現性能力を持ってるの?

 クロエちゃとミレイユ様がパーティーに加わったかと思えば、まさかレオナ推しのフウカまで仲間になるとは。何があるか分からないもんだなぁ……。


「それでは! パーティー結成を記念して……って言いたいとこなんだけど、ちょい休ませて……」


 壁に手をつきながら、イリーゼたんは二階にある自室へと向かう。早朝から二度も上空を飛んだんだ、肉体的にも精神的にも疲れが溜まっているだろう。かくいう俺も体が少し重い。


「そういえば皆様、どこからかギルドまで突っ込んで来ていましたもんね……。もし、大怪我ものでしたよ……」


「それはありがとう……でも、どういうこと!?」


 フウカが俺たちを助けてくれた? ということは、あの時ぶつかった柔らかい壁は、彼女の一現性能力ワンオフによるものだったのか……。


「えーじゃあフウカってさ、どんな一現性能力を持ってるの?」


 休憩しに行ったはずのイリーゼたんが目をキラキラさせてリビングに戻ってくる。心なしか足取りも軽くなっているように見え、いかに新メンバーの一現性能力を知りたいかがうかがえる。


「イリーゼたん、休まなくていいんですか?」


「だいじょーぶ! せっかくメンバーが五人集まったんだよ? もうテンション上がっちゃって、疲れなんてどっかに吹っ飛んだー!」


 ――イリーゼたんは俺が来るまでの間、ほとんど一人でクエストをこなしていたんだ。

 グラクリゲーム内において、彼女はキャラストーリーで『固定のパーティーを組んだ』描写が一切されていない。ギャルキャラらしく誰にでも仲良く接し、助っ人として共闘するシーンこそたくさんあるが……今のように五人の固定メンバーでのパーティーは、初めての経験なんだ……。


「そういうことでしたら、このタイミングでボクを含め、全員の一現性能力を一度見せ合っておきましょう!」


「それは……クエストのさいちゅーでも、さくせんをたてやすいってことですの? きしだんちょー」


「はい! さすがクロエ様にございますね!」


 ふふん、とドヤ顔で胸を張るクロエちゃと、満面の笑みと拍手でそれに応えるミレイユ様。俺とイリーゼたんとはまた違う主従関係……それ含めてこのペア、推せるな……。


「では、最初は言い出しっぺのボクから。いきますよー!」


 そう言って、ミレイユ様はラジオ体操の深呼吸のように、両腕を上へと伸ばす。全員の視線が案の定そこに向いたところで、彼女は一現性能力を発動。両手のひらの間に、そのまますぽっと被るのだった。


「「「「……おおー!」」」」


「これがボクの一現性能力、騎士としての装備を作り出せる『ナイト』でございます!」


 彼女の一現性能力自体はゲームで知っていたものの、実際に目の当たりにすると、やはり驚きの声は漏れ出てしまうようだ。だって、なんでもないような顔して兜を出しているんだもん。いつの間にか槍まで構えているし。さすが王国の騎士団長をやっていただけのことはあるな……。


「つぎはわたくしがいきますわー! ぜんいん、いちどそとにでてくださいまし!」


 この流れでお次はクロエちゃの番。外に出されたってことは、家の中では使えないような一現性能力なのか?


「いっしゅんだけつかいますわ、まばたきげんきんですの!」


 クロエちゃは空に向けて右手を掲げると、手首を利かせてくるっと円を描く。すると、向けた手の方角で。森の木々が激しく揺れて、晴れているのに冷たい雨が打ちつけられている。


「――あぶないので、こんくらいにしときますわね。これがわたくしの『スコール』ですわ」


「「「「こわ……」」」」


 その一現性能力を確認して、真っ先に思い至ったのは『恐怖』だった。クロエちゃは思いのままに、まるで台風のような威力のスコールを放てる……王女だったからとか関係なく、単純に怒らせたら怖い人だったようだ。


「え、ええと……さっさと自分の番消化したいので、次いきますね……」


 フウカはおずおずと手を挙げて、家から自身の杖を持ってくる。果たして、俺たちを救ったという彼女の一現性能力は、どういったものなのだろうか……?


「み、皆様のようなすごいものじゃないですけど……えいっ!」


 フウカは杖を地面に振り下ろすと、彼女の髪色と同じ水色の小さな。といっても、スライムに自我は芽生えていないようで、ただその場で規則的に跳ねているのみである。まさか、これがギルドで激突した柔らかな壁の正体……!?


「なるほど、フウカはこれで私たちを助けてくれたんだね。改めてありがとね!」


「は、はひっ……! レオナさんに、レオナさんに『スライム』を褒められたああああ……」


 フウカはあまりの嬉しさに杖を保持した手を揺らしてしまい、そこかしこにスライムを発生させてしまう。興奮状態の彼女は、どうやら目の前の大惨事に気づいていないようだ。


「ちょいちょい! フウカちゃん、スライムばっかになってるってー!」


「え……わああああっ! すみませんすみません、すみませええええん!」


 イリーゼたんの呼びかけでやっと現実に戻ってきたフウカは、慌ててスライム同士を合成させて、一気に消滅させる。しかし、モンスターを作り出してある程度操作もできるなんて……一現性能力にも色々あるもんなんだなぁ。

 よし、この流れで俺のイエスマンも見せとくか。トリに見せるようなものでもないしな。


「それでは私のもさらっとお見せしますね。イリーゼたん、いくつか簡単な指示をお願いします」


「おっけ! そうだなー……じゃあ、まずは右手を挙げて!」


 彼女の指示を受けて、右腕が勝手に持ち上がる。三人にはイマイチ伝わりづらいだろうが、確実にイエスマンはその効果を発揮している。


「そしたら右手を左右に振りながら、一曲歌ってみてよ! レオナの好きなヤツでいいから!」


「歌ですか!? 私、そういうの全然知らないんですけど……んぐぐっ!?」


 とにかく『何か歌え』と言わんばかりに、口内がもごもごとうごめく。三人も俺の異変に気づいたようで、それが一現性能力によるものだと察する。


「私の一現性能力は、イリーゼたんの指示をなんでも聞く『イエスマン』で……歌、歌ああああーっ!?」


 突然フリを入れられて、俺は何を歌えばいいんだ!? 前世ではヒトカラしかしてこなかった俺にとって、万人受けするような曲は……いや、そもそもグラクリ世界での歌なんて……そうだ、

 俺は四人の目を極力見ずに、イリーゼたんのキャラソンを熱唱した。彼女の指示とはいえ、最推しの歌を本人に聴かせるのは、恥ずかしすぎるってー……!

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