第9話 別ルート
ライノ型モンスターのステーキを食べたことでイエスマンの効力が解け、やっと体の自由が利く。
元はと言えば、俺が『イエスマンを使えば、問題なく調理ができる』と思い込んだのが悪いんだけど……。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでしたー! そしたら、またお風呂に入らなきゃだねー。レオナからでいいよー!」
イリーゼたんに本日二回目の入浴を促される。確かに、先のクエストでかなり汗をかいているわけで。そんな汗臭い状態で寝るのは、イリーゼたんに迷惑をかけるだろうし、髪で蒸れるもの単純に嫌だ。
「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて、お先にシャワーを浴びてきますね。あ、着替えはどうします?」
「着替えなら、あーしのをテキトーに着とけば大丈夫だー。いつかレオナ用の服も買いに行かなきゃだねー……明日のクエストで服代をいっぱいもらわなきゃだね!」
「はい!」
カトレアが『俺たち用に見繕った』というクエストをしっかりとクリアし、今後の生活に弾みをつけたいな。完全にイリーゼたんと共同生活する流れになってるけど、本当にいいのだろうか……?
――いっか! 俺、イリーゼたんの所有物だし!
そう割り切ると、心がぐっと楽になった気がした。淡々とシャワーを浴び、リビングのソファーで眠りにつく。懸念材料が一つ消えただけで、まさかここまで影響が出るとは……。
「おはようー! 今日は約束のクエストをクリアするぞー!」
一夜が明け、俺はイリーゼたんの元気すぎる挨拶で目を覚ます。ああ、なんてシチュエーションなんだ……最推しが起こしてくれるなんて、ちょっと最高すぎやしないか?
「お、おはようございましゅっ……クエスト、頑張りましょうね!」
「あはは! 噛んでるー!」
イリーゼたんはその一瞬の隙を見逃してはくれない。彼女は俺が噛んだことしっかりとを指摘すると、その勢いのまま俺の背中をぱしーんと叩く。
「いったぁぁぁぁっ! なんで叩くんですか!?」
「気合いだよー! 今のレオナ、あーしのことばっかり考えてたと思うから、痛みで現実に引き戻してみた!」
「なるほど、ありがとうございます!」
叩かれたのにお礼を言うというのも、何かおかしい気がするけど……まあ、イリーゼたんからなら全部ご褒美みたいなものか。やっぱり何もおかしくないな!
「レオナも気合い入ったところだし、ギルドに行こっか! あーしたち用のクエストをさくっとクリアしちゃおー!」
「おー……うおおおおっ!?」
イリーゼたんの『呼びかけ』にも俺の
「おはようございます~。確かに日付は変わりましたが、それでもお早いんですね~」
朝早くということもあり、ギルドにはカトレア以外まだ誰もいなかった。彼女は苦笑交じりに俺たちのことを煽るが、まさかイエスマンの効果でここまで来させられたとは思わないだろう。こっちだって、もっと遅い時間に来たかったんだけどなぁ……。
「ごめんごめん! それで、あーしたち用に見繕ったクエストってどんなの?」
「ああそれですか、それならもうないですよ?」
――あまりにもさらっと言うもんだから、俺たちはすぐに反応できなかった。カトレアの言葉を一字ずつ脳内で反復し、やがてその意味を理解する。
「「ええええ!? クエストがないー!?」」
「なんでそんなに驚いてるんですか。あなたたちは昨日、クエストを受けたいと突然駆け込んできたじゃないですか。私はアレで、貰ったりんご一個分の斡旋をしたつもりでしたが……それじゃダメなのでしょうか~?」
確かに! 昨日強引にライノ型を討伐するクエストを受注したんだったな……。でも、あの時の俺はただステーキを作ろうとしただけなのに! そしたらここに引き寄せられただけなの!
――ってことは、今はなんでギルドに引っ張られた? 『俺たち用のクエスト』がもうないとしたら、ここに来た意味なんて……。
もしかして、ギルドに来ること自体がイエスマンの効果の範囲なのか!?
試しにギルドの外へ向くよう体を動かしてみる。しかし予想は外れ、強制的にカトレアの方に向き直されてしまう。つまりクエストはまだ残っているわけだ。
「カトレアさん。私たちに見繕ったクエストは、本当にないんでしょうか?」
「――鋭いですね。りんごもなしに、特定の冒険者に肩入れはしたくないのですが……緊急で入った『ライノ型の討伐』をこなしてくれたわけですので、特別ですよ?」
呆れ顔のカトレアから、クエストの詳細が書かれた紙を受け取る。どれどれ……?
「ねえここって、ギルドから結構離れてない? あーしたち、王都の方に行くってこと!?」
「王都って、あの王都ですか!?」
――あまりの行き先に、グラクリの知識が中途半端にある俺も驚きを隠せない。
王都といえば、俺がイリーゼたんの次に推している『準推し』のあのキャラがいるってことじゃん! しかもイリーゼたんとあの子は、メインストーリーでもイベントでも一切関わっていない……俺、最推しと準推しがいる場面に立ち会えるってのかよー!
こみ上げてきた嬉しさと同時に、もうこの世界は、俺の知っている『グラクリ』ではないことを痛感する。
しかし、関わりのないキャラが邂逅するとなると話が変わってくる。もう俺の知識は通用しないとなると、ここからは本当に未知の世界だ……!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます