第8話 気になるお味は……?
俺たちはギルドを飛び出し……というより、草原の方へと引っ張られる。どうやら生身で戦うことは避けられないようだ。
「しかし、草原にライノ型なんて珍しいですね。だからクエストを出されているわけですけど……」
――ライノ型モンスター。その名の通り猪のような見た目のモンスターであり、ひとたび怒ると猛スピードで突っ込んでくる。
ライノ型の習性が
「だねー……町の近くで縄張りを張られる前に、あーしたちで倒さなきゃだ!」
そう言うとイリーゼたんは地面をぎゅっと踏み込み、引っ張られる力をも巻き込んでさらにスピードを上げる。着地する度に跳ぶように前進し、さらに勢いをつけていく……。
「イリーゼたん、一体何をするつもりなんですか!? そんなに勢いをつけたら危ないですって!」
「このまま一撃でライノ型を倒す! レオナの言う通り、この作戦は危ないかもしれないけど、クエストを受けた時点で覚悟はできてるよー!」
イリーゼたんの覚悟に感心しつつも、その作戦に対しては引っかかるものがある。
『近づいて倒す』なんてマネをしなくても、イリーゼたんには強力な
「作戦は分かりましたけど、サンダーは使わないんですか? 近づくよりも確実な一手だと思うのですが……」
「サンダーはねー……ちょっと強すぎるっていうか……。草原で使っちゃうと、確実に町の方まで被害が出ちゃうんだよね」
さすが
そう考えると『ガントレットで殴って一撃で倒す』という作戦は、このクエストにおいては理にかなっているのかもしれないな……。
「もっとスピード上げるよ、着いてきてー!」
イリーゼたんはさらに足を踏み込み、今まで以上のペースで前進する。俺もイリーゼたん同様地面を蹴って追いつき、ライノ型と戦う覚悟を固める。
冷静に考えると、SSRの彼女についていけているということは、
「……では、その作戦でいきましょう!」
やがて草原地帯へと到着し、今回の討伐対象であるライノ型を視認する。体長は大体二メートルほどで、グラクリでのイメージよりかなり大きい。
「デカいですね……」
「だねー。
目にしたライノ型の体長から、ヤツらの性質を冷静に分析するイリーゼたん。口調はいつものギャルな分、ギャップがすごいことになっている。
「じゃあこのままいくよー!」
「はい!」
俺たち二人はイエスマンの効果で引っ張られた勢いのまま、ライノ型に拳を向けて……。
「「――はああああっ!」」
俺は左腕を、イリーゼたんは右腕のガントレットによる一撃をお見舞いする。力の衝突で俺たちとライノ型は大きく反発し合うも、すぐさまイエスマンにより接近を余儀なくされる。
「これ、ヤツを倒すまで引き寄せられるっぽいねー!」
「どうやらそうみたいですね、つまり……」
「「今の攻撃をずっと浴びせられる!」」
再び地面を踏み込み、ライノ型へ向かってかっ飛んでいく。今度は一人ずつ、タイミングをずらして反撃の突進をされないように……!
「どりゃあああっ! 次はレオナ!」
「はい、はあああっ! 最後はイリーゼたんが決めちゃってください!」
「おっけ、これで終わりだよー! 殴ってからの……サンダー!」
イリーゼたんはガントレットを突き出し、ライノ型の腹部を完全に捉える。直後、白のガントレットはオレンジがかった色に光り出し、ライノ型の身体へ電撃を流していく。至近距離で使えば、町に被害が出ることもない。
「ブモオオオオッ!?」
苦突如襲いかかってきた打撃以外の苦しみに、ライノ型はなす術がなく、その場で火花を散らしながら倒れるしかなかった。
しかし、イエスマンはなおもライノ型へと引き寄せてくる。まだ倒しきれていないのか……?
「イリーゼたん! ソイツ、本当に倒せてますか? まだ引っ張られてます!」
「息もしてないし、ちゃんも倒せてるはずだけど……もしかして、コイツをステーキにするってことなのー!?」
――そうか。イエスマン的には、ステーキにできるのであればどんなお肉でも構わないので、今倒したライノ型モンスターを調理しなければならないのか。
「えっと……コレを家まで運ばなきゃなの?」
「そうでしょうね。ではイリーゼたんはそちらをお願いします、私はこちらを……」
ライノ型の前足を肩にかけ、二人がかりで持ち帰ろうとした、その時だった。イエスマンが次なる行き先に俺たちを導いていくのだった。
「それじゃあ行きましょおおおおっ!?」
「やっぱり引っ張られるうううう! 次は……ギルドの方かー!?」
ライノ型の重さで倒れそうになりながらも、地面を踏み込んでなんとか耐えていく。
行きとは違い、今度はイエスマンによって生まれる勢いに抗わなければならない。主に膝にかかる負担に顔を歪ませながら、ギルドへと到着する。
「ライノ型……なんとか倒してきたよ……」
「おお、早かったですね〜……でも、なんでここまで持ってきたのですか?」
「そんなのいいから! とにかくクエストは成功! それでいいよねー!?」
カトレアの至極真っ当な質問を無視し、イリーゼたんはクエストクリアの報告をするやいなや、すぐさま家の方まで引きずられる。
そしてそのままの勢いで俺はライノ型に包丁を立てていき、体が勝手に調理しだす。結局、何も分からないままステーキが完成した。
「「いただきます!」」
ここまで苦労してやってたどりついたんだ、その気になるお味は……?
「うーん……」
「微妙、ですね……」
――どうやらモンスターは、食用には適さないらしい。
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