第3話 石の重みは同じ
いくらイリーゼたんの勧誘だからって、パーティーに入るのはちょっとなぁ……。
本当は二つ返事で加入したい。しかし俺には中途半端にグラクリの知識がある分、パーティーの過酷さを知ってしまっているのだ。
この世界における『パーティー』というのは、モンスターを倒して素材を手に入れる『クエスト』を攻略する、最大五人までで編成されるチームのことだ。
要は、今まで基本的に画面をタップしていただけでクリアできたあのクエストを、今度はこの体で、実際にモンスターと対峙しなきゃいけない……そんなの怖すぎるって!
「勧誘してくださる気持ちは嬉しいですけど……記憶すら曖昧な私がいたところで、足手まといにしかならないですよ。推しに迷惑はかけられないんで」
ついさっき『どこまでもついていきます』なんて宣言したばかりなのに、いきなり断るハメになろうとは。前言撤回のスピードが早すぎる気もするけど、俺にもイリーゼたんにとってもそれが最良の選択だ。
「そっかー……でも待って、レオナの
――そう。グラクリの世界にいる人には、その人だけが持つ特殊な力である『一現性能力』というものが存在する。
例えばイリーゼたんは、触れたものに電気を流せる『サンダー』を持っている。このサンダーが、基本的にどのクエストでも高火力を出せて、強いのなんの……。
……ってそうじゃない! この世界に転生した時に、俺にも一現性能力が備わったかもしれないというのか!? でもそれって、どうやって確認すればいいんだ?
「うーん、一現性能力についてもなんともいえないっぽいね。見た感じレベルカードも持ってなさそうだし、今はまだ完全に分かんない……と」
イリーゼたんの言う『レベルカード』というのは、ガチャでキャラを当てた際にもらえるものだ。キャライラストの横に、現在のレベルや一現性能力の効果説明、誕生日や好きな食べ物なんてのも記されている。
ただのゲームの仕様だと思っていたけど、実は名刺みたいな役割を果たしていたらしい。ということは、逆に考えればこの世界にはレベルの概念があるのか。そこはやっぱり、グラクリがゲームだからなのかな?
「それじゃあ、レオナのレベルカードを作りに行こっか! どうせパーティーに入るなら持ってなきゃだし、ちょうどいいもんねー。そうと決まれば……いっそげー!」
「えっ、急ぐって一体どうしたんですかああああー!?」
イリーゼたんはガントレット越しに俺の腕をがっしりと握り、すぐそこに見えていた『冒険者ギルド』へ向かって、全力疾走するのだった……。
「ねーねー、この子のレベルカード作ってくんない? 記憶喪失らしくてさー、どんな人なのか知りたいの!」
ギルドに入るやいなや、イリーゼたんは大声で要件を伝えながら、奥の方へとどんどん進んでいく。同時に、周囲の冒険者パーティーからは期待や不安の目が向けられる。
「もう、そんな大きな声じゃなくたって、私にはちゃんと聞こえてますよ〜?」
最奥のカウンターから現れたのは、ガチャを引く際に出てくるギルド長、カトレアだった。
そうそう、グラクリのガチャはこの人がレベルカードを持ってくるって設定なんだよな。スマホだとほんの一瞬のできごとだけど、実際はこういった手順を踏んでいるらしい。
「では彼女のレベルカードを作りますので、作成料として
「うぅ……でもこれはレオナのためっ……!」
ゲームと同じで、作るのにはちゃんと透命石が必要なんだ……。イリーゼたんは震える手でポーチから透命石を五個取り出すと、葛藤しながら一つ一つカウンターに並べていく。どうやらプレイヤーだけでなくキャラにとっても、透命石の重みは相当なものらしい。
「はい、確かに五個いただきました~。完成したらお呼びしますので、ギルドから外には出ないようお願いします~!」
イリーゼたんが泣きながら俺のために払ってくれた透命石を、カトレアは一瞬で、しかも満面の笑みでかっさらっていく。こんなところまでグラクリの世界そのままじゃなくていいのに。
「……よし、それじゃあカードができるまで大人しく待ってよっか。透命石ならまたクエストで稼げばいいんだし、全然気にしないでいいから!」
イリーゼたんは涙をふいて、空いている席に腰かける。俺もその正面側に座り、レベルカードができるまでの時間を潰す。
「これでレオナのことがなんとなく分かるね。そういえば本名はなんていうんだろうねー? 無難にジェシカとか、こんぶとか?」
『ジェシカ』はまだしも、なんで無難な名前で『こんぶ』が出てきたんだろう? 確かにイリーゼたんの大好物におにぎりはあるけど、だとしても人名に具をチョイスするものなのかな? もしかしたら、死んだせいで読めていないキャラストーリーで描写されているのかもしれない。
「あはは……どうなんでしょうね。でも変わらず『レオナ』って読んでくれた方が嬉しいです、せっかく最推しがつけてくれた名前ですから」
「そーだよね、レオナはレオナだもんねー! にしても本当に楽しみだよー、レオナがどんな一現性能力を持ってるか……十分も待ってらんないね!」
仮にレベルや一現性能力が強ければ、ありがたくパーティーに仲間入りさせてもらおう。そうじゃなかったら……引き続き彼女を推すだけの人生を送ればいい。バチバチに強くてかわいい『超ド級イナズマ鉄拳ギャル』の勇姿を……。
「イリーゼさ~ん、イリーゼ・リルファバレルさ~ん! 相方さんのレベルカードができましたよ!」
そうこうしているうちに、俺のレベルカードができたみたいだ。またもイリーゼたんに腕を引かれ、俺たちはカウンターまですっ飛んでいく。
「はい、こちらがレオナ・イザリドロワさんのレベルカードになります~。予想よりレベルが高くて驚きましたが、ミスはありませんので気にしないでくださいね~!」
カトレアから桃色のレベルカードを受け取り、すぐさまそれを確認。
レオナ・イザリドロワ、十五歳。誕生日は六月七日で、好きな食べ物はグラタンやっぱりこんなことまで載ってるんだ……。
レベルの欄には『70』とあり、グラクリの最大レベル『99』と比べるとかなり高めだな。
そして肝心の一現性能力は……『イエスマン』? すぐ下に記載されている詳細には、これまた衝撃的なことが書かれていた。
だっ……『誰か一人の言うことをなんでも聞く』~!?
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