第20話[攻撃隊の指揮者]

 運び屋のバイトと、以前ゴールドミニドラからかっぱらった『マント』を売り払い、ボロ儲けした分で所持金はすでに現状存在する最強武器を一本入手できるほどになっていた。

 とはいえ、俺の装備は相変わらず初期装備の[エクセレント][ダメージ反射]装備で、最強装備をつけるステータスは果てしなく足りていないままだ。

 そもそも防御力をあげると反射するダメージが下がってしまうので、防御力は10レベルのナイトよりも低い状態を維持しており、今はひたすらにHPだけが上がる細かいオプションをつけたりすることに金を使っている。


 そうこうしているうちに、発表されていたアップデートの時間が迫っていた。ゲームのアップデートと言えば一度ログアウトしてデータを更新するといったイメージだが、MYOは目の前で世界が更新される。

 公開更新される指定地域からは一時的に強制転送で外に追い出されてしまうが、世界がその場で組み変わるのを目にしようと、ギリギリの範囲にプレイヤーが集まってくるのが独特の文化となっていて面白い。


「今回のアップデートは大人数同時参加型ダンジョンね!」

 

 そう隣でテンションを上げているのは自称ソロ、敏捷激振り美女ウィザードのスウだ。しばらくどこかへ旅に出ていたが、特に変わった様子も無くまた俺とパーティーを組んでいる。一体何をしていたんだろうね?

 俺たちはアップデート指定の地域から数百メートル離れたところで、この世界がアップデートにより変形する瞬間をあたかも花火大会の花火打ち上げを待つように構えている。


「大人数ダンジョンは合計50人まで入れるらしい。1パーティーが5人だから10パーティってところか」

「甘いわねササガワ」

 スウがそれは違うと指を振る。

「新システムで『攻撃隊』が組めるようになるわ。パーティーを結合するシステムで、合計50人まで組めるそうよ」

「ほう、じゃあパーティー単体の人数が2人の場合はどうなるんだ?」


「2人パーティーでも5人パーティーでも、最終的に入場合計人数が50人になるように計算して結合されるらしいからパーティー数の制限はないみたい」


 ドロップ報酬などはどのような配分になるのだろう。俺、気になります。



「アップデートが始まったわよ! 見てあそこ!」

「おお……」


 今回の大型ダンジョンが実装されると発表されていた、フラリムの町の西側。3つ目の街『トイノニア』との間あたりに広がる草原に、どデカい神殿が下から生成されていく。

 派手な魔王城のような神殿だ。草原のど真ん中に建つ姿は明らかに異質だな……。これは常設のアップデートではなく、期間限定だという話もあるがそれは詳細には載っていなかった。

「ねえササガワ、第一攻撃隊が組まれるみたいよ! 私たちも参加しましょう」

「50人しか入れないなら乗り遅れるわけにはいかないな」


 そう言いながらも入り口へ向かって走る。所持品は普段の狩りで使うポーションと、一時的にHPなどを増幅させるバフアイテム程度だが1回目は大体視察みたいなものだから大丈夫だろう。それより人数制限のほうが恐ろしい。なにせプレイヤーの数が凄まじいからな。

「遅いわよササガワ! 走るのよ」

「スウが敏捷高すぎるんだって」

「あ、そっか」


 スウは閃いたのか、俺の甲冑を掴むと一時的に速度があがるスキル『スウィフト』を発動する。

 俺の体が甲冑ごと宙に浮かび、そのまま神殿の入り口に吸い込まれるように進んでいく。否、飛んでいく。

「うわああ」

 MYO開始以来、最速で動いた感覚だった。スウはこんな速さで普段移動しているのか……何も見えん。


 神殿の中に転がり込むと、すでにダンジョン入りを成功した人々がそれぞれ集まっていた。50人に達したのか、入り口が『ドドン』と大きな音を建てて閉じる。


「これ、絶対全員入れなかったパーティーいるわよね」

「だな」


 バランスをとった5人パーティーを組んでいた者たちは予定が狂うだろうな。俺たちはどっちもはぐれステータスだからバランスという概念が無いが……。

 そうしていると1人のナイトが叫びチャットで声を上げた。


「皆さんそれぞれ大変なところすまないが聞いてくれ。このバラバラな環境ではあるが、攻略のために攻撃隊を結成したいと思う」


 そこにはアイツがいた。


「私はギルド[御伽集落おとぎしゅうらく]のエルラドです。現在の装備ポイントランキング3位だ。他のダンジョンの攻略もほぼ網羅している、問題なければ今回のダンジョンの指揮をさせてもらいたい」


・エルラド[御伽集落]


 青黒く光るアーマーを装備したナイト、エルラドだ。過去に別のゲームで俺のギルド……思い出を潰した張本人。


「アイツ装備ポイントランク3位だって、めっちゃ強そうね」

 スウがひそひそ耳打ちしてくる。

 装備ポイントランキングというのは、全身の装備の評価価値が数字になったものの合計値でランキングが表示されるものだ。装備の評価には、ベースの装備、オプション、強化値などが総合的に評価される。

 レベルが皆55で止まっている今は、この装備の評価値がプレイヤーの優劣をつけている。俺は防御力を上げることができない為、当然装備ランキングはランク外だ。


「それじゃあ攻撃隊を結成する! 承諾後、自分のステータスに合わせて役割を選択してくれ」


 攻撃隊の申請を承諾すると、目の前のインターフェースに大量の名前が圧縮して表示される。役割設定は『攻撃型』『魔法攻撃型』『遠距離攻撃型』『防御型』の4つだ。俺は『防御型』を選択する。

 選択すると自分の頭上に盾のようなマークが表示された。これで全体のバランスを目視し易くするシステムなのだろう。よく出来ているな。


 エルラドが続ける。

「今回はテレアの分配は均等配分、細かいアイテムは自由獲得とする。ボスドロップに関しては、一旦私が預かってあとでオークションとします」

「意義なーし」

「それでおっけー」


 さすがデカいギルドのマスターだ。こういった采配にはもの凄く慣れているな。


「自由獲得って、早い者勝ちってことよね? 奪い取ればいいってこと?」

 スウが無邪気な顔で聞いてくる。セコいことには本当に目がないな。

「まあ、そう言うことになるが、目つけられると面倒だから程々にしとけよ……」


「では攻略開始! 防御型をタンク、前衛として慎重に探索! お互いをカバーして死なないように!」

「おー!」


 全体の士気が上がる。俺も、エルラドがリーダーじゃなければ拳を振り上げるくらいはやったんだが……謎のプライドを張ってクールを装うことにする。


「おー! ほらあんたもやりなさいよ!」


 隣でスウが煽ってくるが華麗に無視して、俺たちはダンジョンの奥へと吸い込まれて行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る