第18話[不毛な決闘とロードマップ]

 オンラインゲームにはしばしば、ロードマップと呼ばれるものが発表されることがある。

 ロードマップはざっくりした長期的アップデートの予定を先に発表するもので、細かい仕様などは実際にアップデートされる時に出る事がほとんどだ。


 MYOにも今後のロードマップが、ゲーム内の情報インフォメーションに発表されていた。

 インターフェースを開いて更新情報のタブへ進むと、公式が出している情報を見る事ができる。先ほど更新されたという噂が、周りの一般チャットで聞こえてきたのですぐに俺も情報を確認しているところだ。


「何よこれぇ!? 『期間限定イベント』ですって! 限定アイテムがドロップするみたいよ!」

「そうみたいだな。あと声がでかいな」

 

 ルーレンサの街の中央、噴水広場に腰掛けて情報を見ている俺だが、隣では『自称ソロ』のスウが騒いでいる。俺たちはあれからずっとパーティーを組みっぱなしだ。ログアウトしても解散しなければ解除されないシステムなので、お互いが近くにいなくてもなんとなく組んだままになっている。連絡も取りやすくなるしな。


「俺はこの『攻城戦』の実装が気になるな。城なんてどこのマップにできるんだろう?」

「攻城戦って?」


 攻城戦があるゲームは珍しくはないが、スウはMYOが初めてのオンラインゲームだと言っていたな。知らなくて当然か。


「攻城戦ってのは決められた城や領地を取り合うイベント戦みたいなものだな。大抵はギルド単位で取り合って、勝利するとそのギルドが一定期間城を所持できる」

「ふーん。大規模同士のPVPって事ね」


 しかし俺たちは二人ともギルドに所属していないからな、これを機会にどこかギルドを探すのもありか……。このゲームのギルドシステムもほとんど知らない状態だし調べておかないとな。


 ロードマップに書かれていたことを簡単にまとめるとこうだ。


・期間限定イベント開幕

・大型ネームドモンスター追加

・多人数同時参加ダンジョン追加

・レベル上限解放

・攻城戦

・その他装備品随時追加


「スウは他に興味ある物はあったか?」

 スウはこう言った先行情報から良い意味での悪い事をよく思いつくからな。アップデートの内容に先駆けて用意しておくと得する事が多々ある。


「他にっていうより、これは上から順番にアップデートされるのかしら?」

「いいや、おそらく順番は関係ないだろうな」


 スウは何か考え込んでいる様子で黙り込んだ。

 俺が運営側にいるとしたら、今の状況からすればまず期間限定イベントからアップデートするだろうな。レベルの上限解放はよほど後だろう。現在の最高水準装備が煮詰まってきた頃に上の装備と共に解放してくるに違いない。


「プレイヤー対プレイヤーが決闘モードしかないのに攻城戦がアップデートされるのはおかしいわよね? もっとPVP関連のアップデートが先に来るんじゃないの?」

「確かに……」


 現在の仕様では、以前エルフのむちょが言っていた決闘モードしかPVPが存在していない。普通ならPVPエリアだとか、PVPアリーナのような競うモードが実装されていてもおかしくない。


「ねえササガワ、私とあんたで決闘してみない?」


 一度も使ったことのない決闘モードだが、時折街の入り口あたりで決闘モードを楽しんでいる人たちを見かける。血を求めている者が多いもんだ。スウもPVPが好きな性格に思えるが……。


「ま、物は試しで一度くらいやってみるか」

「よっしゃーっ」


 テンションが上がったのか、スウは叫びながら俺の鎧を掴んでルーレンサの東側入り口に向かって走り出した。


 インターフェースを開き周辺のプレイヤーを表示してからスウの名前をタップする。決闘申し込みをすると相手側に承認と拒否の選択肢が開かれる。


「せっかくだし、本気でいくぞ。ポーションは勿体無いから無しでいこう」

「おっけー、望むところよ!」


【決闘開始まで3秒】


 カウントダウンが始まる。その間俺はどうやってスウを倒すか考えていた。


 相手はとにかく素早いウィザードで攻撃を当てるのは困難だろう。

 だが俺の装備はダメージを反射する。

 相手からダメージを受ける分には俺のHPの多さは有利なはずだが、スウは一撃の火力ではなく毒などの持続ダメージを付与して相手を倒すタイプだからややこしい。


【決闘開始】


 開始した瞬間、スウの姿が消える。『テレポート』のスキルだと思うが、発動が凄まじく早く目視できなかった。

 俺の周りを連続テレポートで駆け回るスウ。その動き、他のところでも使えよと思う。

 俺は盾を構え、攻撃に備える。


「構えても無駄なんだから!」


 その声と同時に、テレポートの残像から光の玉がこちらへ飛んでくる。

 初期魔法の『エナジー』。一撃の威力はさほどではないものだ。


 スウの攻撃が当たった瞬間、ダメージ反射の判定で互いのHPゲージが微弱に削れるのを目視できた。


 俺のインターフェースに状態異常、『感電』のデバフが表示される。

「なんだ? 今のは雷系のスキルではないはず……」

「初期スキルの低威力『エナジー』に雷属性を乗せたのよ、あんたにデカいダメージ与えたら反射で死んじゃうかもしれないからね!」


 テレポートを連発して瞬間的にしか姿が見えないスウ。

 なんてこった。このまま俺が『感電』で倒れるまでほったらかすつもりかよ。ちなみに持続ダメージはただのデバフなので相手にダメージは反射しない。


 その後も『感電』がとぎれては付与を繰り返してくるスウ。

 俺のHPはアクセサリー装備についているオートヒールでそれなりに回復していくので、物凄く微弱にしかHPが減っていかない。

 呆れて試しにこちらからダガーを振って攻撃を当てる試みをしたが、スウは素早さの限り回避してくるので全く攻撃が当たる気配はない。

 

 お互いに膠着した不毛な時間がそこからどれだけ流れただろうか。


【決闘時間切れ】


「あーやっと終わった。やるんじゃなかった」

「そう? 作戦ミスだったわね……オートヒールがあるのを計算してなかったわ。次はササガワを葬るわよ!」


 ほーら、PVP好きだと思ったんだよこいつは。火をつけてしまったようだ。

 しかし耐久型同士が決闘するとこれほどまでに不毛な戦いになる事は今後の参考になるだろう。一撃大火力型と一度決闘してみたくなったな。


「ねえササガワ」

「なんだ?」


 スウがいつもの悪い顔を見せている。こういう時はろくな事を言い出さないんだよな。


「お城が欲しいと思わない?」

「まさか、攻城戦で城を取るって事か……?」


 悪い笑顔を見せるスウに、俺は返答せず手をひらひらさせながら街の門をくぐった。

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