第17話[再来、金色のアイツ]
◆
レベルランキング1位から100位までの数字が、全て『55』になった。
つまりレベリングを進めていたユーザーの多くが現存仕様のレベルを
レベル55が増えた頃に出回るようになったのが『マント』装備である。
装備枠の、背中に装備できる箇所にあたる。『マント』は、防御をあげたりはもちろんだが、[EX]のオプションも付くので、1部位分の特殊武器か防具を足してつけている程度の効果がある。現在の市場ではこれが一番皆の欲しいものとして需要が高い。
しかし入手経路の情報がはっきりせず、ドロップ場所や条件もはっきりとしていない。たまたまドロップした人もあまり多くを語っていないのだろう。
当然俺もまだ入手できていなかったが。何度も今までのダンジョンを周回してみたり、フィールドにいるネームドモンスターを倒してみたりとそれらしい場所でドロップを望んでみたが、結果は芳しくなかった。
「ねーササガワ! 聞いてんの? ルーレンサの露店市場がさ!」
「はいはい、なんだって」
俺は現在最初の街、ルーレンサにいる。レベルをカンストするまで拠点にしていたフラリムの街近郊から徒歩で30分はかかるが、ルーレンサにもアップデートがかかっており、周辺に追加されたものを探索に来たってワケだ。
その追加要素の話を世間話程度に出したらスウが強引についてきた。スウはソロを謳っているわりにパーティーを組みたがるんだよな……。
俺と同じく55レベルになっているスウは、紺色の美しいローブを着ている。相変わらずビジュアルは良いので、ルーレンサで屯ってるうちはイカしたプレイヤーで、初心者からの羨望の眼差しが熱い。その横に、全身甲冑の俺よ。
「アップデートで露店を出店してアクセスして売買できるシステムが増えてたのよ!」
「それは随分前から実装されてたぞ」
そう返すとスウは顔を赤くして、俺の鎧を掴んで振り回してくる。
「知ってるなら早く教えなさいよ!!」
教えろったって、今までその話題は一切出ていないだろ。話題が出てたら特に情報を隠したりしないぞ。
「それで、どこから回る?」
要塞の街ルーレンサの中央、新規プレイヤーがログインしてくる噴水が見える大きな広場の近くにあるオープンな酒場で作戦会議という名のカフェ休憩をしている。
「東側に深い森のエリアが増えてるみたいね。初心者向きのエリアじゃないらしいから、私たちみたいに一旦こっち側に戻ってきたプレイヤー向けでしょうね」
「様子を見に行ってみるか。死に戻り前提で、倉庫に金品を預けてから行こう」
コトン、とスウが飲んでいた樽型のジョッキを机に置いて立ち上がる。飲んでいるのは柑橘系のジュースのようだ。良い香りが漂ってくる。
「っしゃー! いくわよ!」
スウは、俺のジョッキに飲み物が残っている事など気にせずに酒場から飛び出して行った。
◆
ルーレンサの街から東側の跳ね橋を通り、森のようなフィールドに出る。
【ルーレンサ東地区】
レベル帯で言うと、10レベル程度が推奨とされているモンスターが湧いているフィールドだ。今も人が絶えず目に入ってくるので、新規ユーザーの多さが窺えるな。
55レベルになった今でも、俺のステータスと武器では10レベルのモンスターも一撃では落とせない。それほどにMYOはステータスと、それによって装備できる武器が影響してくるということだ。体力にほとんどを振った俺は、一般的に見れば「事故ったキャラステータス」に入るだろう。
「そういやスウは見た事無い装備シリーズをつけてるよな? 少しステータスを力に振って装備できるようにしたのか?」
スウの敬称を略する事にしたのはどのタイミングだっただろう。なんとなく『スウさん』って感じじゃあないんだ。
「ほとんど振り足して無いわよ。これは55レベルドロップ素材で作ってもらった、『必要ステータス低め』を極めた制作品よ!」
なるほど。特注のユニーク装備か……。さぞ素材に金がかかったのだろうが、ソロに特化しているスウならば一人で大型モンスターを倒して集めることも可能だしな。
雑談をしながら東へ向かっていると、スウが突然停止して声を上げた。
「逃げるわよ!」
「は?」
スウに引っ張られて距離を取る。
対象から距離にして35m先。大型モンスターの感知距離よりも遠い位置。
異質な黄金の光を放つ、奴がそこにいた。
「ゴールドミニドラよ」
金色のミニドラか……懐かしい奴だ。MYOを初めて初日に一撃でアイツに葬られ、街に戻された思い出がある。
「そんな躍起になって逃げる必要があるのか? 確かに初期の頃やられたけど……」
「今でも倒すのは無理ね。初期マップにいるべき存在じゃあないわよあれ。動きがミニドラと同じなのに一撃で即死させられる、こっちが何をして殴ってもダメージは1しか通らない、毒とかにも耐久って……」
すでに試したのかよ。
そこまで言った時点でスウはハッと顔をあげた。
「火力が化け物、ダメージが1しか通らない、じゃあダメージ反射の演算は……?」
スウが物凄く悪い笑顔でニヤけている。
「ああいうメタルっぽいモンスターって、最大HPが低かったりするわよね」
「ああ、するな」
つまり一撃でも耐えることができれば、自滅させることができる可能性がある。
「あんた今最大HPいくつよ?」
「8228だね」
背中を叩いて、行けとばかりに金色のミニドラを指さすスウ。
わかったよ、行きますよ。死んでも減らないように倉庫に大抵のものは預けてきたしな。
その間は体感で5秒も無かった。
・ゴールドミニドラ
名前を認識した瞬間、ミニドラ特有の地味な攻撃モーションが繰り出されて俺に攻撃がヒットする。
ヒットした攻撃は、俺のHPのほとんどを一撃でかっさらっていき、20%を切った時に出る赤い視界の演出が目の前を襲った。
そしてそのダメージの反射により、ゴールドミニドラは一撃で消滅した。
スウが近づいてきて俺を蹴り飛ばす。興奮しているようだが、蹴らないで欲しい。
「すごいわササガワ! ドロップ品見て!」
言われてゴールドミニドラのドロップ品にアクセスする俺。
・[統率のマント][+1][HP最大値上昇5%][防御無視372]
「なるほどね」
俺とスウは顔を見合わせて悪い顔でニヤけまくっていた。
おそらくこれはズルだ。普通に倒せるように作られている設定ではないのだろうから。
「東の森なんて今度でいいわよね」
「当然だ」
それから『マント』……もとい『ゴールドミニドラ』を探して、ルーレンサを隅から隅まで走り回った。
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