第15話[思い出の攻略情報]
◆
【ダンジョン:フラリム大廃坑】
二度目のチャレンジにやってきた。今回はパーティーも入場最大人数の3人。攻略の為にバフアイテムも用意してきた。スキルツリーによってバフアイテムを製作できる料理人や、錬金術師が増えたおかげで安定してバフを購入、入手する事ができるようになったからな。
料理バフは同時には1種類しか使えないが、HP最大値を%であげるものや、攻撃力をあげるもの、高級なものだと、HP1で一度だけ耐え生きるなんてものもある。
これによってパーティーの能力はかなり底上げされると見た。安い額とは言えないが、ダンジョンクリアのための投資としては納得のものだ。
廃坑入り口の冷たい空気が甲冑を抜けて顔にあたってくる。
「さて、いくか。まずは入り口からしばらく歩いたところに崩れる岩が……」
と、発言している間にスウが目の先で岩の床を踏み抜いていた。
「ぎゃーっ」
バシャーンと音が鳴り、また水に落ちたのが見なくても想像できる。
例の如く崩れた岩の上から、そままちと二人で様子を見て声をかけた。
「大丈夫かー?」
空いた穴に声が反響する。
「びしょ濡れよ! ちょっと忘れてたのよ、ほんのちょっと!」
忘れてたのかよ……。
その先の敵が沢山いる部屋は、外の草原で練習した通りヘイトを一人に引いてそままちの大砲でまるごと潰す作戦が大成功して秒速でクリアできた。
問題はこの先のホールスタジアム状になっている部屋だ。真ん中には相変わらず魔法使いが構えている。感知されなければ攻撃してこないので、俺たちは堂々と部屋の入り口前で作戦の話を始めた。
「あれから昔の攻略情報全部思い出したの?」
そうだ。このダンジョンの内容は知っている。
ロストエイジオンラインという上からの見下ろし視点で、敵をザクザクと倒せる爽快感が売りのオンラインゲームにあったダンジョンだ。
入り口のギミックや雰囲気もほぼ一致している。
「俺の思い出話だと思って聞いてくれ。ここの敵は攻撃を初めて数秒すると3つの岩を召喚してくる。そこに雷を撃ってくるが、3人でそれぞれの岩にアクセスすることで威力を分散できるギミックだ」
腕組みをしているスウが答える。
「つまりダメージを無効にできるわけじゃあないのね。受けたらすぐポーションを割るイメージかしら」
「そうなるな。おそらく適正レベルが3人いれば一撃で落とされることはないように設定されてるハズだ。その後は20%まで同じギミックの繰り返しだ。挙動を見ながら分散を繰り返す」
不思議と、全部覚えている。同じダンジョンを何百周とした思い出が今も昨日のように感じてくる。
「20%切ったら?」
「そこからはDPSチェックってやつだ。時間制限内にひたすらに火力を叩き込む事になる。そままちさん以外の俺たちが非力だから、ここが厳しくなると思ってる。バフを全開で使って、なるべくダメージが入るスキルを叩き込みまくるしかないね」
そままちがグッドマークを出す。
「私が3倍火力出す、任せて」
「頼りにしてるわよ!」
合わせてグッドマークを出すスウ。
なんだろう。すげえ楽しいな、この空気。空気美味しい。
「いくぞ、せーの!」
作戦通りに敵へ飛び込み、陣形を組む。俺以外は遠距離攻撃ができるので、ギミックの岩が出現する位置から動かなくて済む位置取りだ。
敵にアタックしてから数秒後、予測通り的は詠唱のモーションに入り岩が出現。3箇所それぞれの岩に一人づつ近寄ると、自動でギミックへのアクセスがオンになり岩の色が変化した。
『ズシャーン!!』
激しい音と共に落雷技が落ちる。3人のHPが一斉に削られた。
HP最大値の%固定で減るのか、30%程度まで落とされた。
「ポーション割るわよ!」
【使用:[上級ポーション]】
5秒間毎秒20%ずつのHPを回復するポーション。1本あたりの値段がバカ高いが、こういった時の為の秘密兵器だ。ネームドモンスターを倒してお金を稼いでなければ持っていなかった物だな。
その後、ボスを主にそままちの火力で削っていく。その間落雷技を受ける事3回、「岩で回避」により無事に生存できた。
「残り20%よ!」
スウが叫ぶ。それと共に敵の魔法使いが今までより大きな光を纏いながら詠唱ゲージがゆっくりと上がっていく。
「DPSチェックだ! 殴りまくろう!」
俺もなけなしではあるが、手に入れた片手剣スキル、[スキル:六連斬]で敵を6回ずつ斬っていく。このスキルは自分の意思を超えて、1回振ってる感覚で6回残像が出て斬る事ができるカッコいいスキルだ。しかし一撃のダメージが軽いのが難点だが……。
「あと9%!」
スウが冷静にカウントを叫ぶ。近接で近づいているとゲージが目視し辛い。
スウは初期魔法の『エナジー』を高速連射しながら敵のHPの%をカウントし続けてくれていた。
「あと5!」
「いける!」
俺がつい叫んだその時、そままちが口を開いた。
「……エクスレイルシュート」
そままちの大砲から目に見えない数の砲撃が飛んでくる。それは見事に魔法使いを連続爆撃し、大量のダメージ数字表示が見えた後、見事にボスのHPを削りきった。
「やった! 倒したわよ!」
「やったな」
「いえい」
3人で拳を軽くぶつけ合う。
「それにしてもそままちさんの最後のスキル、すごい威力だったな」
「あれはHPとMPを両方犠牲にして連射するスキル。いざって時しか使えない」
なるほど……HPも削るのか。そりゃいざ時スキル。
「ねえ、このダンジョンってここで終わりなわけないわよね……この先に2ボス目がいるとか?」
「いいや、この先は鍵を開けたりちょっとした雑魚敵を倒して出口についたハズだ。どうにも本当に昔のゲームの再構築らしい、まあ当時は渋いグラフィックだったけどな……」
それを聞いてそままちが嬉々として開いた奥の部屋へ走っていく。
「お宝、素材、回収して帰ろ」
「そうだな」
その後、俺の『思い出攻略情報』通りに青い渦のような出口と、その横に設置してあったダンジョン報酬の宝箱を見つけた。もうこれはチートのレベルだと我ながら複雑な気持ちではあったが、それ以上に体感的な懐かしさと当時の思い出が強く蘇っていた。
「こんな細かい道まで案内できるなんて、本当に全部知ってるわけね。元ネタはいつのゲームなのよ? 記憶力すごいわね」
記憶力がすごいんじゃあない。
俺は人生でろくに勉強こそしなかったが、代わりこういったことを覚えていただけだ。
「たまたま知ってただけさ。ま、他にも知ってる仕様のものがあれば、今度からは遠慮も容赦もなく言うよ」
そう言ってから出口の青い光にアクセスした。
【ダンジョン:フラリム大廃坑をクリアしました】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます