第13話[少女とブラックベリーエール]

 エリアの外に出される俺とスウ。ちょうど30分も前、青いもやもやした渦にアクセスして入った入り口に戻されていた。


「死亡一回復帰なしで追い出されるのか……ダンジョンを生成するのに少しテレアを持っていかれてるみたいだから、何度もアタックすると金が吹き飛びそうだな」

「ぐぬぬぬ……」

 スウは悔しそうにしている。

「あの雷攻撃、一体どんな威力なのよ! 一撃で消し飛ばされたし回避もできなかったわよ!」


 まあ、おそらくギミックをどうにかしないといけない即死魔法なのだろう。ダンジョン攻略に即死ギミックはつきものだ。3つ出ていた岩をどうにかするのか、範囲内に入るのか、出るのか……そんなところだろう。

「一旦フラリムに戻って補給と作戦組み、できればもう一人PTを探そうか」

 そう言った瞬間、俺の視界に入ってきたのは例の勝手に恨み対象、[御伽集落]のエルラドだった。青黒い鎧を纏っており、おそらく現状ドロップが確認されてる中でも上位の装備だろう。彼はかなり近い距離におり、こちらを見て近づいてきた。


「おや? ササガワさんって昔ブルーストーンオンラインってゲームにいませんでした? 職は確かロードナイト……じゃなかったかな?」


 まじかよ、俺のことを覚えてるのか。

 こりゃ間違いなく本人だ……。よくPVPで殴り合ったからな。

 それにしても話し方が昔と全く違う。以前は「てめーぶっころす!」と言った発言の多いヤンキー系だったのに……時は人を変えてしまうのか。それとは別に、ギルドを潰された事は許せないが。

「どうでしたかね? たしかにそのゲームはやってましたけど、随分昔ですからねえ」

 適当に知らないふりをしておく俺。


「そうですか、人違いかもですね。ここのダンジョン今から行くんですよ、どうでした?」

 情報収集してるのか、あんまり教えたくないね。


「まだちょっと入って偵察した程度くらいだから」

 手をひらひらさせながら喋る態度の悪い俺。


 エルラドは入り口を発動させてダンジョンに入りつつ言う。

「うちもギルドで攻略することになってて、良かったら情報交換とかしましょうね」

 

 その時、奴が一瞬だけ俺を凝視したのを俺は見逃さなかった。あいつは確信を持って表を演じている。中身はやはり変わっちゃいないんだ。

 いずれ、絶対に何かで倒してやろうと再度誓った。


「安いポーションやだー! 一気に回復しないとヒヤヒヤするでしょ!」

「今あるポーションは持続で20%ずつ回復するやつが最大だ! 一瞬じゃあ回復しないんだよ」

 ポーションをメインで売っている人の前でギャーギャー騒いでいる俺とスウ。


 現在フラリムの街に戻ってきて二度目のチャレンジのために作戦を立て買い出しをしているところだ。

 近頃はスキルツリーをそれぞれ特化させてきた人が多く、ポーションを生み出せる人がNPCより安く生成したポーションを露店のようにして売っている。前回のアップデートで追加されたのか、相手が露天モードで売っているものをアクセスして閲覧する事ができる。今まで叫んでいるチャットを目視して取引していたので随分楽になった。

「解放されてきたスキルツリーを見ましたけど一瞬で回復するポーションも作れるようになるみたいですよ。素材が鬼ですが……」

 今話しかけているのは錬金術特化のプレイヤー。彼にはまた素材を集めてお願いしたいところだ。

 しばらく消費アイテムを買い集めたあと、死亡時の金銭の減少を恐れて倉庫に金を預け、フラリムの人の溜まり場である酒場へと向かった。

 酒場のテーブルにスウと対面で座る。NPCが注文を取りにきてくれるのだが、これがまた現実で居酒屋にいるような気分で、物凄く楽しい。おじさんの天国さ。

「またブラックベリーエール頼むの? それそんなに美味しい?」

「うまい」

 便乗してスウがブラックベリーエールを注文していると一人の少女が声を掛けてきた。

「ブラックベリーエール、美味しいよね」

 薄いピンクよりの赤髪をしたちびっこアバターだ。すげー眠そうな目をしている。

「ああ、うまいね」

「おごってほしい」


 ん? 今なんて言った?「おごってほしい?」初対面だよな俺たち……。

「何でだ?」 

「ダンジョンで死んでお金がない」

 真顔で答えられる。ゲームで飯をたかるやつは初めてだったが、なんとなく面白いので払う事にした。


「私はそままち」

 そままち……ね。ユニークな名前だな。

「そままちさんは防具から見ると弓? みたいだけど武器は不思議な形状だね」

「ボウガン」

 端的に答えてくれるのはありがたいが、ボウガンというには形状が大砲のような形をしている。これはギリギリボウガンと呼んでいいのか。それにしても珍しい武器だ。おそらくレアドロップ品の類か、作成した武器だろう。

「あんたギルド入ってるじゃない。どうしてダンジョンをソロで潜ってたのよ?」

 確かによく見ると『・そままち[ヤブヘビ]』とプレイヤー名の横にギルド名が表記されている。


「……」


 そままちの顔が突然暗くなり凍りつく。

 あ……これ、ギルドにはぶられてる奴だ。触れちゃいけないネタだと察した。

 彼女はしばらく、運ばれてきたブラックベリーエールを口にしながら黙っていたが、話す気になったのか口を開く。

「ギルドは入ってるだけ。PTを探してる。フラリム北のダンジョン報酬にある素材がどうしても欲しい」

 報酬素材の情報がもう出てるのか。他のPTに先を越されたな……。


「あなた達は見るに俊敏そうなナイトと、範囲攻撃に長けてるウィズに見える、ダンジョン攻略には最高の人材だと思う」


 真面目に分析するそままちだが、残念ながらどちらも大外れ。俺は鈍足、スウは範囲攻撃のはの字も無い単発連射ウィズだ。


「任せてよ! 是非PTを組みましょ!」

 おーい待てスウ。今の聞いてたか?


「ありがとう! これでダンジョン素材を手に入れられるよ」

 スウとそままちは既に熱い握手を交わしている。

「まあ……こっちも人探してたしな。ナイト、ウィズ、弓? でバランスもいいか」

 スウは今すぐにでもダンジョンに乗り込もうと、インベントリを確認し始めている。

「そうだ……あと一つだけ……」

 そままちは真剣な面持ちでこちらを向き、人差し指を立てた。

「何だ?」


「ブラックベリーエール、もう一杯おごってほしい」

「……」


 こうして3人でダンジョンへ再挑戦する事となった。

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