第12話[初ダンジョンの攻略]
◆
生成されたダンジョンに入ると、案外中は暗かった。大廃鉱と書いてあっただけのことはある。回りは岩だらけで、水気がすごい。足元にも水溜りがよく見える。
「おーこんな感じか……もっとクラシックなものかと思ってたが、割と新しいゲームからきてるシステムみたいだな」
「ふうん? クラシックなダンジョンってどんなの?」
「生成ダンジョンによくあったのは、時間制限内に純粋な一本道を敵を倒しつつ進んでいくようなものが多かったな。探索やギミックというより、ちょっとしたオマケみたいなモンだった」
ついつい昔のことを語ると楽しくなってしまう俺。
「あんたってさー……歳いくつよ?」
……どう答えるか。歳はまだ言っていないが、できれば若く見られていたいというのが本心である。おじさんだというだけで美女が離れていくのも悲しいしな。
「現実のプライベートを無理やり探るのはマナー違反だぞ」
「もう仲良しだからいいじゃん」
笑顔でそう言われると大変弱い。
「……多分君より随分上だよ」
そう言ってから岩だらけのダンジョンを進んでいく。スウはこちらの空気を察したのかそれ以上聞くこともなく、「ふーん」とだけ返答していた。
◆
ダンジョンを進んで30秒ほど。先行してスタスタと歩いていたスウが、突然目の前から消えた。ドドドという音と共に岩が崩れ、下のフロアへ真っ逆さまに落ちていったのだ。
焦った俺は走って開いた穴の下を覗く。
「おーい、生きてるか!」
崩れた岩壁の下には足場がいくつかあったので、それを飛びつたって降りる。
「いててて……」
どうやら下の水場に落ちたらしい。マンションの3〜4階から落ちたくらいの高さだろうか。しかしゲーム内はHPが減るだけで、痛みは現実ほど感じないようにできているのでその辺りは安心だ。
「もう! こんなギミックがあるなんて聞いてないわよ、びしょ濡れになったじゃない!」
「俺に怒られても困る。あと突っ走ってったのは君だろ……」
水に濡れたりすると体が一時的に重くなるが、乾いた場所を少し歩けば元に戻るようになっている。スウは水で重いのが嫌なのかご自慢の敏捷で現在目の前を動き回って乾かそうとしている。
「次は絶対移動スキルで避けてみせるわ!」
「移動スキルなんて持ってるのか?」
おそらく俺が持ってないだけだろうけどな。
「ウィザードはテレポートね、レベル20くらいで普通は習得してるはずよ、私は少し遅かったけど。ナイトもテレポートほどの距離じゃないけれど『縮地』することができるスキルがあるわね。まあ敏捷の低いあんたじゃ覚えられないかもしれないけど」
「敏捷ね……わかってたけど最低限振るべきか悩むな」
ダンジョン内の天井は手が届かないほどの岩壁で、すごく湿気ている。現実にありそうなものだと、鍾乳洞の中にいるような空気感だ。
狭い洞窟のような通路を進んでいくと、先に敵の気配を感じた。
「どうだ?」
スウが落ち着いた様子で影から通路の先の開けている場所を見る。
「6体いるわね、人間型の敵よ。ビジュアルからして、近接型と遠距離型の2つの型かしら」
こういった場合は基本、タンクがヘイトスキルを炊いて全敵の注視を寄せてからデカい範囲攻撃を初手に打ち込むのが定番ではある。しかしこちらは2人とも耐久向けであるのと、何せ俺にはヘイトを稼ぐスキルがまだ未実装だ。
「最初に奥の遠距離攻撃してきそうな敵を凍らせるってのはどうだ? その間に俺が近接の敵を斬ってヘイトを稼ぐ」
「いい案ね、それでいきましょう」
そのあとは地味な反射と毒のオンパレードが始まることになるが。俺たちの攻撃は相変わらず地味な見えない攻撃なのだ。
「せーの!」
掛け声でスウが岩の広場の奥側にいる、弓を持った遠距離攻撃型の敵に飛び込む。
同時に俺は剣と盾を持った近接型の敵に向かってダガーを振った。
「来たれ氷結! アイスバースト!」
スウの氷結魔法が連続で放たれる。見事命中し、2体が凍結される。
その間近接の敵を引きつけた俺はダメージを反射させながら、スウの攻撃範囲まで敵を引きずる。
「ポイズンバレット!」
毒攻撃が命中する。その後繰り返して遠距離の敵も同じ所作で1体ずつ処理した。
「連携は完璧ね、ただ相手の数が多い場合の対策も今後しておかないといけないわね……」
「そうだな」
俺は頷いてこそいたが、今後も一緒にPTを組んでくれる発言に対して、なんだか喜びを覚えていた。
敵を全滅させると、奥の岩壁が崩落して次の部屋に進めるようになっていた。これぞダンジョンといったところだ。
進むとすぐ先にはホール状になった岩壁のスタジアムが現れ、ローブを深く纏った魔法使いのような敵が中央に立っている。
見た目からしてボスモンスターだろう。こいつを倒せばクリアとなるのか、もう少し長いダンジョンなのかはわからないが、まずは攻撃パターンとギミックを把握する事が攻略においては何よりも大事だ。
「ササガワいい? まずはさっきと同じ手でいくわよ。毒とか氷の耐性がどんなものか知る必要があるわ……あとダメージを反射できるか……とか単純な火力もね」
「何が通じるか試すってわけだな。了解だ。まずは俺がポーション構えて突っ込む」
ここまでフィールドのモンスター全てに何のダメージが有効かを地味に調べてきた俺たちにとっては、この行動は当たり前の手順になっていた。スウはそのあたりが几帳面で大変攻略向きの性格だ。
タイミングを合わせてボスへ突っ込む。感知範囲に入ってすぐ、敵が何か詠唱を始めた。
ダガーを振ってダメージが入り、ヘイトが俺のほうに向く。しかしその瞬間、岩の円型スタジアムのフィールドに三箇所、大きな三角形を描くような位置の頂点にそれぞれ岩の槍が地面から突き出した。
「なんだ?」
スウはすぐに敵の後ろに周り魔法を詠唱する。
「来たれ氷結……アイスバースト!」
凍らない。ボスの詠唱ゲージが上がっていく。
「一旦離れろ! 何か来るぞ!」
叫んだ瞬間が最後だった。
とてつもない雷鳴がスタジアムの中に響き渡り、俺たちはなす術なく即死した。
【ダンジョン攻略に失敗しました】
【3秒後、外のエリアに出ます】
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