ダンジョンとおじさん
第11話[アップデートされる世界]
◆
オープンβテスト中ではあるが、ゲームは常にアップデートされていく。
アップデートにより更新され、ゲーム内の需要やバランスが変化し続けるのがオンラインゲームの醍醐味の一つでもある。
MYOは現在、大型のアップデートの日はすでにコンテンツ内容と更新日が自動で公開されている。これはゲーム内の情報掲示板で閲覧する事ができるが、ロードマップに合わせて動けば有利が取れる事もあるだろうから、情報収集は重要だ。
オープンβ開始から数日。一回目の大型アップデートが入った。
「パッチノート、公開されてたわよ!」
そう言ってスウが街の情報掲示板から戻ってきた。パッチノートとは、アップデートの詳細内訳の事である。
あれから数日、スウと組んで狩りやフィールドネームドモンスターの討伐を行なってきた。もちろん毒と反射装備でズルしながらだ。
おかげで十分な資産が貯まり、レベルも現在32。スウは34まで上がっている。経験値のゲージの上がり具合から見ると、フラリムの街周辺のマップで上げられる上限あたりまではきたようだ。
俺が勝手に目の敵にしている、ギルド[御伽集落]のエルラドは相変わらずランキングの上位におり、41レベルのようだ。以前よりは差が詰まってきたか? はたまた向こうのレベルが上がりづらい環境にきたのか……。
何となく気が合って、スウと行動を共にしていたが段々と彼女の特徴が解ってきた。
彼女はまず超絶美女。これは間違いない。
次に、ろくに人の言う事を聞かない。自分の正しいと思った事は強引に突っ走る。
煩雑に作戦を立てるわりにモンスターに対しては自分の毒などの攻撃が効くかを真面目に実験したり、研究に努力は惜しまないタイプだ。
このしばらくの間でも、レベルが随分上のネームドモンスターを2人だけで倒す方法をスウはいくらも閃いて提案してきた。その勘所はもはや才能と言えるだろう。
しかし何だか必死な感じが不安だ。裏に野望か何かを隠しているような……そんな素振りを見せる時が時折ある。
「ササガワ聞いてんの? フラリム北側のマップにダンジョンが実装されてたって! 早速攻略に行くわよ!」
胸ぐら、性格には鉄の装備を掴まれながらぐいぐいと振られる俺。
「わかったわかった、わかったからもう少し情報をくれよ」
スウは腕を組みながら話す。
「確認されてるダンジョンは最大PT3人まで入れる生成型のインスタンスダンジョンね。クリアすれば次回はリセットされてて再挑戦できるってやつよ。」
「ふむ。じゃあフィールドみたいに複数のPTが同時に参戦できるタイプじゃないってことか……」
生成型のダンジョンは大抵、一度クリアできてしまえば周回して報酬を稼ぎやすい。入れる回数制限はあるだろうけど、経験値がよければ周回する価値もあるな。
「そんでどうする? 様子を見に行くのはいいが、あと一人誰か誘うか?」
「私フレンドいないわよ」
「悲しいな」
眉を歪めて目が棒になっているスウを横目にフレンド欄を開く。始めた頃PTを組んだウィザードの三等星と、アーチャーのむちょが目に入る。
二人に連絡を取ってみるか……?
悩んだ挙句「最近どうだ?」とだけメッセージを飛ばしておいた。
「とりあえず二人で中の様子を見に行くか」
「問題無いわ、報酬は多いに越したことはないものね」
どーしてこいつは3人推奨のダンジョンを2人クリアできる気なんだ。どこからその自信が来るんだか……。
「あれから色々ネームドモンスターを倒したじゃない?」
「ああ」
フラリムで倒したフィールドのネームドモンスターは5種類だった。その全てを俺の反射装備と、スウの毒魔法、傷魔法で見えない持続ダメージのオンパレード狩りだった。周りから見ると、めちゃくちゃ走り回っている変なパーティーに見えていただろう。
「そのドロップ品にあった氷結の魔法書、あれをようやく使用できたのよね〜レベル上げて知能にステータスを結構割り振る必要があったけどね」
「おお、氷結魔法!」
「これで相手の足止めと攻撃速度を妨害できるわ。もーちょっとこちらから仕掛ける大ワザがあると良いけど……」
「それにはもう一人別の人が欲しいな」
スウは俺との出会いでは、突然蹴飛ばしたりしてきたが、他では基本的にネットコミュ障なのだ。
美女なのでよく声をかけられていたが、何故かもごもごと喋って結局一度も他の人と組むことはなかった。
「まあ、誰かいい奴がいたらその時だな」
スウは手をひらひらさせながら「どっちでもいいわ」と言わんばかりだった。
ダンジョンの攻略方法を探りに行くときに重要なのは、ギミックや敵の位置や行動を把握する事だ。最初は時間をかけてでも一つずつ理解していくのが何よりも攻略の近道である。
その為には長期戦を考慮して、ポーションやバフアイテムを多めに抱えていくのが有利となる。一度生成されたダンジョンから出てしまうとリセットされる仕様だというからな。
フラリムの北平原フィールドの山の麓。そこにダンジョンの入り口が発生していた。既に相当な人数が入り口前でダンジョンに入る準備やミーティングをしている。俺は見知った奴がいないかを見回していたが[御伽集落]のギルドは見かけなかった。
ダンジョンの入り口は近づいてみると、青色の渦のようなエフェクトが出ている。触れてみると、ダンジョンに進入する為のインターフェイスが浮かび上がる。
【ダンジョン:フラリム大廃坑】進みますか?
・はい ・いいえ
スウの方を向くとワクワクした顔でグッドマークを出した。その笑顔で一瞬くらっときたおじさんだったが、それは隠してグッドマークを返した。
俺も、ワクワクしてしょうがなかった。
『はい』を選択すると、俺たち二人は青い光に包まれていった。
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