第10話[見えない攻撃]

 [セイントゴーレム]とはどうやら、20レベル前後のプレイヤー5人でフルパーティーを組み、倒す事が推奨されている。フィールドに一般湧きするミニ・ネームドモンスターらしい。

 こちらパーティー2人。

 18のナイト、ササガワとレベル19のウィズ、スウの2人である。

 今俺たちは[セイントゴーレム]から距離を取り、最後の作戦を立てている。

 「いい? まずあんたはヘイトを引いて他のモンスターが少なくて走り回っても大丈夫な方向に[セイントゴーレム]を惹きつける。

「ああ」


 地面に絵を描きながらいつにもなく真面目に説明してくれるスウ。

「敵の挙動が安定したら私が魔法で削っていく。あんたもスキルを何か当てていって少しでも削るのに貢献してくれるとありがたいわ」


「すまないが、俺は初期に拾った本で覚えた[飛翔斬り]というスキル技しか使えない、あとは盾を構えるスキルくらいだ」

 他は力や敏捷が足りなくて覚えられなかったんだ。


「十分よ、最悪通常の攻撃でもいいわ」

「途中で私にヘイトが向いた場合は、容赦なくへばりついて、わざとダメージを受けてヘイトを稼いでちょうだい」

 このゲームはダメージを受ける事でもヘイト値を稼げるのか……勉強になるな。

「そんでポーションが切れた時はポーション!!! って叫びなさい、ありったけポーションをあんたに投げつけるから」

「つまり、ポーションの在庫が切れるまでに倒せるかの勝負ということか……」



 フラリム南平原にいくと、HP満タンの[セイントゴーレム]が目視できる。感知範囲は接敵28mで感知するモンスターらしい。俺たちはいま40mほど離れている。


 38枠になったインベントリのほとんどを、HPポーションでうめてきた。

 MYOの初期ポーションは割ると、5秒間、10%づつ回復する。

 つまりHP200なら、5秒で100回復する程度だ。ただしクールタイムは被らず、5秒づつに叩き続ければずっと10%回復することができる仕様だ。

「スウさんの火力に期待してますよ」

 何か返事が返ってくると思っていたが、彼女は何か隠しているのかわざとスルーしたようだった。


 [セイントゴーレム]へ突っ込むとこちらに向かってドシドシと歩いてきた。攻撃の範囲に入り、一瞬俺は盾スキルを構えて一打目を受ける。


 その隙をついてスウが反対側に回り込む。敏捷特化のせいか忍者のようにものすごく素早い動きだ。

 

>>182ダメージ

 防ぐと182のダメージを受けた。普通ナイトなら、あと三発も持たないが、HPで持ち堪える事ができている。

 逃げ走りながらポーションを割る。5秒で10%ずつ回復していくポーションだ。

 これを数分繰り返してまずヘイトを安定させた。


「相手のライフが……削れてる!!」

 見えない攻撃が飛び交っている。ゴーレムが俺にダメージを与えるたびに反射で70程度ずつダメージが入っているのだ。


 俺の最大HPは2860、オートヒールとポーションのおかげで逃げ回っていれば死ぬ事は現状無い。あとはモンスターのHPを反射とスウの魔法で削り切れるかだ。タイムリミットは、俺のポーションが切れるまでだ!


「スウ! ヘイトはとった! 火力をぶつけろ!!」


 ちらっとこちらを見てニヤリをするスウ。待ってましたとばかりにゴーレムへと近づいていき何かを、詠唱している。


 彼女は氷のような目で魔法を放った。 

「ポイズンバレット」

 毒の玉のようなエフェクトがゴーレムを襲う。ただし毒状態にはならなかったようだ。

「ポイズンバレット」

 連続詠唱するスウ。コレが敏捷ウィザードの戦い方なのだろう。魔法の連射速度が早く、通常よりも多段で魔法がHITする。

 見事にゴーレムが毒状態になった。状態異常はエフェクトで緑のエフェクトが見えるのと、敵のゲージ下にデバフアイコンが出てるのでわかりやすい。


 ゴーレムのHPゲージが見てわかる程ぐんぐんと減少していく。


 スウが言う。

「どう!? 毒と反射の耐久削り合戦! 地味だけど通る相手にはプレイヤーの技量のリスク無しで戦えてるわ!」


 確かに地味だ。見えない攻撃にもほどがある。

 そして、これは勝ちだ。


 こちらはダメージを受けるとその分自分が削れる「罠」を持つタンク。もう一人は、毒で削っていく渋いやつだ。毒はHPの最大値の%で削っていくので、敵の防御力をある意味無視している。きっとその辺もスキル調整が何かとできるのだろうな。考え次第だ。


 10分もしないうちにセイントゴーレムが見えない攻撃で倒れた。


「すごいわね、報酬品!! 3000テレア……!? 上位防具!?」

「確かに見た事ないものばかりだ。あ、この[セイントゴーレムを倒した証]ってコレクションアイテム、俺にくれないか?」

 スウは怪訝な顔をした。

「別にそんなのいらないわ。あげるわよ。他は山分けでいい?」


 分け終わって一旦街で整頓しようと言い街へ向かおうとしたその時。

「立てない……」

スウがへたりこむように座っている。

「重量オーバーか?」

「そうみたい……」


 そうか、やはり普通にステータスとスキルを振るとアイテム重量がきついんだな。

「俺は重量持ちに特化してある。あと300ウェイトはいけるからこっちにアイテム貸しな」

「助かる。やるじゃん、あんた」

 そう言いながらスウはこちらにアイテムを渡してきた。なんだかちょっと、照れているようにも見えた。普段からこんな感じならちょー美女なのになあ。


 ドロップ品はレア物ばかりだった。これを取引すればもっと有力な冒険アイテムを手に入れたり、武器防具を揃えたりできるな……。


「さ、もう一匹いくわよ!」

「……もしかしなくてもセイントゴーレムですか?」

「もちろんよ!」


 それから果てしない時間二人でセイントゴーレムを倒し続け、通常の効率では手に入らないであろう大量のアイテムと大量の経験値を手に入れる事に成功した。

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