第9話[輝く初期装備]
◆
強引に引っ張られ、フラリムの人同士が物の取引をしている中央広場へとやってきた。
ここではプレイヤー間でアイテムの売買が多くされている場所で、人の頭上に出ているチャットに物品名が流れているのを眺め、欲しいものを持っている人に声をかけて取引をするようになっている。
アイテム出品のシステムが無いMYOの中で、誰がこの取引の仕組みを考えたかはわからないが、プレイヤーがなんとなく集まって考えられてこういった文化が作られるのはMMOにはよくある。勝手にルールが作られていくのは、まさに社会の縮図のようだ。
「で、なにを思いついたって?」
広場まで引っ張られてきてスウにやっと問う事ができる俺。
「装備を買うのよ! [エクセレント装備]をね!」
「エクセレント装備ぃ?」
と、疑問っぽく聞いてみたが、[エクセレント装備]は今までにいくつかドロップしたものを所持している。
[エクセレント装備]。たとえば今、俺が右手に装備しているのはアイテム名に[EX]のマークがついている[ダガー]だ。[EX]がついていると特殊効果がいくつか付与されている。特殊効果とは[クリティカルダメージ発生確率5%増加]など戦闘の足しになる能力値の付与だ。ただのダガーより少しだけ効果がある分強いという事だ。
つまりこのダガーは、[EX][ダガー]
「[EX][鉄装備]の全身、[ダメージ反射]がついたオプションを探すわよ!」
「揃えるのはいいが、ダメ反? なんでだ?」
ダメージ反射とは、受けたダメージの数%を反射するオプションだ。基本的に反射の数字が低く、ゲーム内では使い道がないハズレオプションのゴミ装備とされて叩き売られている。
スウが珍しく詳細を説明する。
「あんたは人に比べてHPだけはバカ高いんだから。全身に反射装備をつければ……そうね、40%くらいは跳ね返せるんじゃない?」
俺は彼女が何を考えているかを察した。
「モンスターから逃げつつ受けたダメージを自動反射して、相手のライフをじわじわ削れって事……か?」
スウはドヤ顔で言う。
「そうよ! ポーションを使いながら走ればさらに安定する!」
そんなアホな戦い方が通用するのか……? と疑惑はあったが、彼女が言った反射装備案は俺の体力特化ステータス振りにとって、救世主になる可能性があるのも確かだった。
「確かに……試してみる価値はあるな……」
取引広場を回っていると、[EX][鉄の装備][ダメージ反射8%]ゴミ装備と言われているだけあって、安い。需要がなく数が多いのですぐに全身買い揃った。
全身ゴミと呼ばれる装備って、なんたる悲劇だ。
装備してみると、元の[鉄の装備]よりもなんだか薄い虹色のようなオーラ色が装備に出ている。格好いい!
◆
「ところでスウさんよ、どうしてそんなに色々と詳しいんだ?」
「それは……」
スウは少し下を向いて答える。
「私このゲームが面白そうで、友達に薦めまくってさ」
「うん」
「オープン前から完っ璧にWIKIとか動画の情報叩き込んで始めたんだけど」
スウがわなわなと震えている。
「一緒に始めたらみんなやる気が薄いのよ! ありえない!」
「次の街の[イエティフット]ってモンスターが効率いいよって言っても、ネタバレやめろ! とかそういう事ばっかり言うわけ!」
いやいや、それはお前が悪いだろう。ネタバレは大分悪のほうだぞ?
「最終的に仲違いしちゃって、ソロでやってたの! でも私は少人数で風変わりな攻略をしていきたいのよね!」
少人数攻略は確かに楽しい。目立つパーティーはギルド以上に有名になる事もあるしな。
「そんであんたには素質があると思うのよね〜」
「そりゃ、なんてか……光栄だな?」
一体なんの素質なんだ、俺は健全な一般プレイヤーだぞ、おい!
「つまりね、ありえない装備構成とか、ありえない攻略法を考えるのが私大好きなのよ!」
目をキラキラさせる美女、スウ。
それにしてもこいつからはなんだか、ゲームを心の底から本当に楽しみたいのが伝わってきてどうにも共感と興味が出てしまう。
「じゃ、俺の現状でいけそうな装備とかスキル調整をしてもらおうかな」
スウは金色の長髪をさらっと風に乗せてから、ぐっと俺に近づいてきて言った。
「任せて! 絶対面白くするわ!」
いやいや、面白さは求めていないんだがな……。
その後スウの提案でネックレスの1枠と、リングの2枠を埋めるためアイテムを探したところ、5秒に3%オートヒーリングするオプションがついたノーマルのアクセサリーを手に入れた。こちらも最大HPに効果が依存するために通常の需要はイマイチ。おかげで安かった。
現在の装備をインターフェースで開くとこうだ。
・[EX][ダガー][+3][クリティカルダメージ発生確率5%増加]
・[レザーバックラー][+2]
・[EX][鉄の兜][+0][ダメージ反射8%]
・[EX][鉄の鎧][+0][ダメージ反射8%]
・[EX][鉄のガーダー][+0][ダメージ反射8%]
・[EX][鉄のグラブ][+1][ダメージ反射8%]
・[EX][鉄のブーツ][+0][ダメージ反射8%]
・[稲妻のネックレス][稲妻属性ダメージ上昇3][オートヒーリング3%]
・[炎のリング][炎属性ダメージ抵抗2][オートヒーリング3%]
・[炎のリング][炎属性ダメージ抵抗3][オートヒーリング3%]
強化値の[+]がほぼ上がっていない物を買ったので、ほとんど力と敏捷にステータスを振らずにEX装備がつけられたのがデカい。
初期装備の[鉄の装備]シリーズのため防御力こそ高くないが、これで殴られても8%が5パーツで40%のダメージが返っていく。100受けたら40、1000ダメージを受けたら400を返せるのだ。
あとは、さらにスキルツリーなどで調整すれば、俺は歩いてポーションを飲むだけで反射狩りができるようになるということだ。
「金は随分減ったが……最初としてはいい感じじゃないか?」
スウはニコニコしている。
「うん! 良さそう……早速試したいわね」
スウも同意見のようだ。俺も反射装備を試したくてテンションが上がっていた。
「なあ、スウ。君の装備構成も教えてくれないか?」
スウはしばらく考えた後「暇な時にね」とイタズラな笑顔で答えた。
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