第4話[パーティーの誘い]

「あのー、パーティ組みませんか!?」

 そう声をかけて来たのは2人組の男女だった。

 よっしゃあ! アバターをイケメンに作った甲斐があったってもんだ。正直自分から話しかけるのは、物凄く勇気がいるからな。


「いいけど、俺は今始めたばかりのスキル無し、レベル1だよ?」

 ちょっとかっこいい雰囲気をキメる俺。レベル1のおじさんだって格好つけたい年頃なんだよ。


「私たちもさっき始めたところで……! ウィズと弓です」

 ウィズというのはウィザードの略で、弓はアーチャーの略だな。ゲーム界はどうにも特有の略称が多いものだ。


「じゃあ、よろしく。色々教えてもらえたら嬉しい。名前はササガワだ」


 と、少し冷静キャラっぽく喋っておくのが、俺の中ではゲームしてる感じがするから好きだ。

 パーティーを組むには、リーダーが近くのメンバー一覧を表示してから勧誘ボタンを押す。またはユーザー名がわかっている場合は検索して招待を飛ばせるようになっている。

 インターフェースの扱いにも随分と慣れ、ボタンも正確に押せるようになってきた。


・三等星

・むちょ

・ササガワ


 パーティが組まれる。三等星って人がウィズで、むちょが弓だな。なんだかMMORPGの冒険らしくなって来たぞ。


「うーむ……」

とぼやきつつ三等星に目を見やる。

 三等星は長髪の男アバターで、ローブのような防具を身につけている。まさにウィザードといった容姿をまじまじと眺めてしまうが、その反面自分も早くナイトらしい装備が欲しくなってたまらない。

 むちょはエルフのような耳を生やした女性アバターで、映画で見た事があるような森に住む弓使いの容姿だ。彼女は胸当てとブーツだけが装着されているところを見ると、まだ全身の防具を揃えてはいないようだ。

 かく言う俺は一部位も防具が付いていないワケだが。


 ウィザードの三等星が指をさして言う。

「バランスの良い3人パーティーなら、少しレベル高いモンスターもいけると思うっス!」

「よぉーし! 行ってみよー!」

 盛り上がっているが、俺の経験はミニドラ2体だけだ。役に立てるのだろうか。



 ルーレンサ東のフィールドを進んでいくと、形状の違うモンスターが数体見える。余程近づかなければこちらを感知して襲ってくる事はないようだ。

「この辺っスかね、一体ずつやってみますか!」

 と、三等星がターゲットを決めた。


・子ミノタウロス


「ふん!」


 敵の前に立ちはだかり、またもや地味な戦闘シーンが始まる。先ほどのミニドラよりはモーションが複雑だ。これは敵のレベルでAIの動作レベルが上がっていくということか……。


 やはり前衛はナイトだ! とダガーでなけなしの、いや渾身の通常攻撃をいれていく。

 ミノタウロスの反撃で俺のHPがゴリゴリと減って行くが、一発8%程度のダメージなので10発以内で倒し切れればまったく余裕の領域だ。

 その隙にウィザードの三等星が魔法を唱える。


「収束する力、エナジー!」

 少しの詠唱の後、光の球が飛んでいく。魔法エフェクトがかっこいい分、自分のダガーが少し情けなく思う。あと左手に盾もほしい。

 その後ろからむちょが弓を的確に打ち続け、10秒程度で戦闘は終わった。[12テレア]のドロップ。

「このドロップは拾っちゃっていいのか?」

「今のパーティー分配は、均等でテレアに関しては均等分配設定になっているのでそのままもらっちゃって下さい」

 ふむ、そういうシステムがあるのか。争いを産まなくて良い、便利なものだな。


 敵を倒した事で俺のレベルが一つ上がった。どうやらステータスを自分で振り分ける事ができるようだが、パーティー中なのであとから確認するとしよう。

 しかし敵を殴る感覚もリアルに伝わってくるな……慣れなのだろうが、武器を振る時のアシストの勢いと動きを同調させるのが難しい。面白いシステムだなぁ。

 などと感心しているとむちょが声を上げる。

「あれは……! 金色のミニドラ!?」


 振り向くとそこには、一回り大きな金色のミニドラが俺たちの前で牙を剥き、立ちはだかっていた。他のモンスターと違う輝きを明らかに放っている異質っぷり、これは……。

「レアモンスターに違いない、倒すぞ!」

 そう言って俺は無謀にも唯一の相棒、ド・ノーマルのダガーを金色のミニドラに向けた。

 その瞬間の俺は目を輝かせて、世界の誰よりもわくわくしている、おじさんだった。 

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