第3話[地味狩りの醍醐味]

 ルーレンサの街を歩いていると、薬屋の露店NPCや武器屋など、ゲームシステムとして配置されているNPCが多く見られる。プレイヤー達は露店NPCにアクセスを試みてはどれがどの程度の値段か確認しては去っていく。皆始めたばかりだし、金が無いんだろうな……。


 他に目を引いたのは貸し倉庫だ。倉庫管理NPCに話しかけた所、アイテム100枠分を入れておけるらしい。

 手持ちに持てるアイテム数の初期枠が30枠なので、これは大分助かる。どのゲームでも無駄にアイテム収集をしてきた俺にとっては、所持品がいくつ持てるかは重要だ。

 いずれインベントリの持てる数を増やす方法が見つかるだろうけれど、その条件が難しいダンジョンの報酬品だとか、ネームドモンスターの高級ドロップ品でないことを祈りたい。


 オープンチャットで喋っているプレイヤー達の話を流し聞き聞いている限りでは、別の街の倉庫とは繋がっていない仕様らしく、あくまでもルーレンサの街専用の倉庫らしい。つまり隣町まで旅するとなれば、30枠のみで旅しなければならないという事だ……。

 MMORPGによくありがちだが、荷物の持てる重さには限界値がある。

 一定以上の限界値を超えると、足が重くなって動きが鈍くなる仕様だ。MYOみょーのインベントリ下部やアイテム詳細にもウェイトの表記があるので、おそらく重さの概念はあるに違いない。

 仕様把握おじさんっぷりを発揮してからのドヤ顔である。


 通常、今までプレイしてきた現代のMMORPGであれば街を巡っている最中で多数のクエストを受注して、お使いで報酬をもらえるというのが定番だ。

 しかしこのゲームはその辺りが数十年前のシステムを踏襲しているようで、一切クエストらしいものは現状発生していない。ただしインターフェースの中にクエストの欄が存在するので、おそらくクエスト自体は存在するのだろうね。


 ああ、街を彷徨くだけで30分以上堪能してしまった。ほっこりしている場合ではないな、そろそろレベル上げに行こうと思う。

 こうやって仕様を把握することにばかり時間を費やしてしまう癖がついているのは、ゲームへの慣れか、歳を食った証拠なのか。どちらにしても少し自分に悲しくなる。


 ルーレンサは東西南北の4箇所に出口がある街で、立ち聞き情報では、南の狩場が安牌だそうだ。

 南門は石造りの、開閉しそうな大きなハネ橋がかかっている。門、というか橋が上がって閉じる時間帯があるのかは現状わからない。警備兵NPCが突っ立っているのを横目に過ぎ去ると、本当にファンタジーの世界にいるようだ。


 初級狩場と言われる場所には、モンスターの数を超えて圧倒的な人だかりができている。

 狩場特有のルールも感じられず、たまたま目の前にポップすれば倒すような横取りオンパレードの空気読み大会が行われていた。

 ダガーを取り出して空中で一振りしてみる。ダガーと言っても金属バットよりちょっと軽いくらいの感覚がする。

 この辺りの感覚がリアルなのは現代ゲームでしか味わえないな……。


「ふん! せい!」

 力を入れるとスイッチが入ったように動きダガーが空を切る。ブゥン! と振る音が耳に届いてくる。


 しかし、我ながらこの世界を無双するにはまだまだ程遠い、不慣れなモーションだな……。

 掛け声に迷うが、周りの人も声を出して攻撃しているので変なことではないだろう。ここは笑うところじゃないぞ、おじさんはいつも必死なんだ。


 やはりパソコンのクリックとは違い、自分で振っている感じが俺にとってはとても斬新で面白い。空気を斬って楽しんでるなんて、周りから見ると不思議な光景だろうが。

 ただし自分の意識に逆らうように、振れる速度は一定に制限されるのを感じる。これは将来、敏捷ステータスが上がった時などに影響する攻撃速度で変わってくるのだろう。頭で思っているよりも圧倒的に早く動けるのは、このゲームの醍醐味となるかもしれない。

 

 延々と空気を斬って遊んでいると、たまたま目の前に初モンスターがPOPした。


・ミニドラ


 情報はこれだけしかみて取れない。ミニドラと言う名前ではあるが、実際全長60センチ程度はあるように見える。

 いざ目の前で体感してみると、それなりの恐怖感はある。敵のモーションに合わせて、渾身の力でミニドラにダガーを振る。


「ふん! ふん!」


 渾身の、おじさんバトルシーンである。冒険小説や漫画がひっくり返る程に、すげー地味だ……。あ、ここは笑うところだぞ。


 HPゲージが見えているので、ダガーを数振りあてたところ倒す事ができた。必死すぎて腰を抜かしてしまったがな。

 ドロップ品は[2テレア]と小さなマナポーション1個だ。これがいいのか悪いのかはわからないが、初ドロップ品は何だか嬉しい。地面に落ちたアイテムにアクセスするとすんなり取得できた。


 スキルをまだ所持していないからか、戦闘が本っ当に地味だ。現状ただ殴るモーションのみのはるか昔のゲームを彷彿とさせるこの感じがおっさんの俺にはたまらない。

 空気を縦横に斬る練習をしながらミニドラがPOPするのを待つ。周りのプレイヤーはレベルが上がっては次の狩場へ移動していっているようだが、新規プレイヤーの数が多すぎて確実にモンスターは足りていない。

 またミニドラがPOPしたのを倒すと、次も同じ2テレアがドロップした。

 確か街の一番安いHPポーションが100テレアでNPC販売していたので、ミニドラ50体倒してやっとポーション1本と言ったところか。

 

 この地味な狩りでどう稼ぐかをワクワクしながら考えていた少年時代を思い出して、一人フィールドの真ん中で懐かしさを覚えていた。


「すみません〜」

 懐かしさに浸っていると、見知らぬプレイヤーが声を掛けてきた。

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