第5話[経験値も金も減る]
◆
金色のミニドラと対峙する事数秒。
右手に装備したダガーが敵にヒットした瞬間に目の前が真っ暗になった。
感覚的にどれほどの時間が経ったかわからなかったが、目覚めるとルーレンサの街の中央にある噴水が目の前に見えた。
敵のモーションは一回見えただけ……つまり、一撃で沈められたわけだ。
よく見ると、三等星とむちょも街に戻ってきている。俺が早とちりした事を怒っているだろうか。
「いやぁーレアものだったっスね! 見れただけでもラッキー、でもまったくダメージ通らなかったっス」
そう言う三等星。どうやら俺と一緒に倒されたようだ。申し訳なく思う。
三等星はウィザードだが、防具は全身装備しており、ほぼ生身の俺より余程防御力のステータスがあると見る。その彼が全く敵わないならば、今のレベルと装備で倒せるモンスターでは無いのだろう。
きっとあの周辺にいた初心者は皆、金色のミニドラに手を出してはやられて街に戻ってくるんだな……。あぁーもったいない。
目の前に広がっているインターフェースの中に、自分の名前とHP、MPが主に書いてある現在ステータス値の欄がある。
ここにはバフやデバフの情報が簡易アイコンで表示されたりする欄だが、その中に現在のレベル経験値進行度合いが書いてある。先ほどまで45%程度あったはずの経験値が、33%まで減っていた。
死亡によって経験値が減ったか……。嫌な予感がしてついでにインベントリを開くと、やはり金も減っていた。鬼である。
「本当に申し訳ない、新しいものを見るとつい確認したくなるんだ……」
「突然突っ込んでいくからびっくりしましたよー!」
そう二人が笑ってくれたのでセーフという事にする。
「次は見かけても逃げるよ、安定した狩場でレベル上げをしよう」
「そうっスね! 気を取り直して行くっスよ」
快諾してくれるのはありがたい。それから3人パーティーで数時間、安定した狩りをルーレンサ周辺でひたすらに続けた。
・ササガワ LV7 ナイト
・HP670 MP34
・近接攻撃力82 物理防御力132 魔法抵抗力112(他省略)
・スキル:なし
街に戻ってきてからステータスを確認する。
これが現在7レベルの俺のステータス詳細だ。近接攻撃力のほとんどは武器に依存している。防御力は、狩りの最中にモンスターからドロップした初期シリーズの装備、[鉄の装備]シリーズの5部位のうち、3部位を手に入れて装備している分だ。ビジュアルは絶妙だが、数値には変えられない。
課金などでよくある、外見装備みたいなものは存在するのだろうか。俺、気になります。
なさけないビジュアルの理由が、手に入った部位のせいである。甲冑のような頭装備、腰装備に鉄のパンツ、そして鉄のグローブだ。
つまるところ、仮面をつけた鉄パンツ野郎である。早く全身分欲しい。
「三等星くんは魔法スキルを使っているけど、それはどうやって習得できるんだ?」
三等星は少し驚いた様子をする。
「ササガワさん、ずっと気になってましたけどスキル無いんスか?」
「ない」
むちょが無言のままおもむろに空中へ、三発の矢を放つスキルを自慢げに打つ。こいついい性格してやがる、悔しい。
「スキルは本みたいなアイテムで覚えられるっスね、ドロップ品だったり買ったりするみたいっス。ウィズの場合は魔法書で、ナイトは……アイテム名はわかんないっスけど本みたいな形のやつっス!」
そういえば狩りの最中、魔法書がドロップしてたな。綺麗に3職に分かれていた今回のパーティーはそれぞれの適正職のものを優先に分配しようと言う事になっていたので、ナイトに関係あるものが主に俺の取り分だったが、スキル本は無かったな。
インベントリに[ハンドアックス+2]という装備が手に入っていたが、初期のダガーのほうが何故か強かったので店で売ろうと思う。
「じゃあ俺はそろそろ落ちるっス! また機会があったら組むっスよ!」
落ちる、というのはログアウトして現実に戻ると言う事だ。
「じゃあ、フレンド登録しときます」
そう言ってインターフェースからフレンドの欄を開き、二人にフレンド申請をし、承諾してもらった。
三等星がパーティーから抜けてログアウトしていく。俺にとっては現実のほうが生きている心地がしないので、空腹の限界まではこの世界に居たい。
「むちょさんは落ちなくていいんですか? ご飯とか」
と、他愛もない気の遣いをしてみる。
「私は全然、なんならこのまま朝まででも続けますよー」
廃人だ。この人からは廃人の匂いがする。俺の大好きな種族だ。
「今レベルが13なんですけど、そろそろ隣の街あたりまで行けるレベルなんですよね」
「詳しいですね」
俺よりも6レベル上なのか。ちなみにパーティーを組めるレベルに制限は無いらしい。
「ファミリーテストの時からプレイしているので、何回もレベリングしたんですよね。だからちょっとだけ効率良く進められるというか……知ってる事は多めですね」
ファミリーテストからのプレイヤーって……なんという抽選に対する豪運だろう。
「隣の街ってどんな所なんですか?」
その質問を投げると彼女は急に笑って答えた。
「それは行ってからのお楽しみの方が絶対楽しいでしょ!」
むちょはそう言ってからパーティを脱退して、笑顔で手を振りながら去っていった。
MMOの楽しみ方を深く解っている人だ……と感心し、なんだか嬉しくなった。
ネタバレをしない、初見の楽しみを奪わないタイプのプレイヤーか。
ルーレンサで回復ポーションを買ってから、鍛冶屋に言って装備品の耐久力を修理した。最初は出費が重いかと考えたが、案外うまく回りそうだ。
今日だけで200体以上は倒しているし、もっと沢山モンスターを集めて範囲攻撃で狩れれば効率も上がるだろう。まずは攻撃スキルの習得が一つの課題かな。
そのあと一瞬だけログアウトして飯を3分で胃に叩き込んでから、またルーレンサの狩場へソロで向かった。
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