第6話[悪名高きギルドマスター]
[近況ノート等に挿絵有りページ]
◆
要塞の街ルーレンサの周辺フィールドで延々とモンスターを狩っては、次の狩場へと移る事を繰り返していたところ現在のレベルは16に到達した。
ついでに全身の鉄シリーズの装備が揃い、ついにクソダサい鉄パンツ野郎から卒業できたのはデカい。今し方街に戻ってきて余分なアイテムをNPCに売りつけている所だ。
「これを買い取ってほしい、2割増しで頼む」
NPCは会話を理解する事ができる。AIで制御されているはずだが、それなりに人間のような受け答えをしてくるのが物凄く面白い。無茶な事を言ってもそれなりの返答をしてくる。
「定価じゃないと買い取れないなぁ、勘弁してくださいよ」
そう返してくるのは雑貨商人のNPCだ。
ま、2割増しは冗談だけどな。と思いつつインベントリからアイテムを選択してNPC側に確定を促した。
隣を見ると、ずっとNPCをプレイヤーだと思って話し続けている人がいたりして面白い。いつ相手がAIだと気づくのだろうかと気になるが、混雑しているのもあってすぐに移動することにした。
インターフェースから[ランキング]の項目を開くと、全プレイヤーのレベルランキングが確認できる。確認できるとは言っても、上から50人のレベルと名前が表示されているだけだ。
まったりスタートした俺は当然上50人には追いついておらず、現在の1位は31レベルのアーチャーのようだな。
ランキングを見ていくと50位でも28レベルという事はほとんど差が無く、プレイヤーの母数がいかに多いかを思わせる。しかし1日とて俺とプレイ時間はずれてないのにどんな廃プレイをすればそんなレベルに到達するんだか……。
実際の同時接続数などがどうなっているかは現状わからないが、街に現れる新規ログインプレイヤーが増え続けているのを見るとこのゲームの話題性の大きさを感じる事ができる。
(そろそろ次の街で狩りをするレベルだなぁ……)
ルーレンサのマップ西側を探索しているときに、遠くに街が見えていた。そのまま行くか迷ったが、隅々まで探索したい心が強く出てしまいずっとこの街のマップに縛られていたところだ。
敵を倒した時の経験値の上がり具合と敵の強さに対しての効率から見て、もう少し先にいくべきレベルまで来ていると思う。
このゲームにはテレポートが無い。実装予定はあるのかもしれないが、現状は少なくとも存在しておらず、次の街からまたここへ戻りたい時には徒歩でどれ程の時間がかかるかわからない。目視では相当遠くに見えたしな。
ルーレンサの街中央の初期スポーン地点、噴水が見える広場の近くに座って人がうろうろしているのを何となく見ていると、異様に目を惹く一団がルーレンサの西門から入ってきた。
プレイヤーの頭上にはプレイヤーネームが表示されているが、それと共にもう1行書いてあるプレイヤーをしばしば見かける。ギルドと呼ばれるシステムで、端的に言えばチームのようなものだ。そのギルド名が名前と共に表示される。
「一旦解散だ、30分後にここにまた集合だ」
1人のナイトがそう言って隊が解散されるのを見る。
その10人程度の集団は皆 [
◆
「……っ」
俺は息を呑んだ。そのギルド名には見覚えがあったからだ。同時に少し恐怖を覚えた。
30年以上は前だろうか、まだパソコンでカチカチとプレイしていたMMORPGにいた有名ギルドの名前と同じだったのだ。
よろしく無い方の思い出だ。PVP、プレイヤー同士の戦闘が盛んだったそのゲームで、俺が所属していたギルドの人たちはその[
MMORPGは現実社会と同じ事が起きる。人のエゴによって集団が破壊されたり、一人のわがままで内部からじわじわ崩壊する事もある。
自滅はまだ良い。内側の人同士によって崩壊するのは理解ができるし許せる。しかし他の集団に追い詰められて潰されるのはあまりにも虚しく、残るのは怒りと恨みだけだ。
しかしシステム上警察の役割が存在しないゲームの世界では相手が崩壊するまで粘着し追い込む奴も、それをコンテンツとして楽しむ奴も存在するのが事実だ。
俺は何年経っても、その集団の名前を忘れてはいなかったという事だ。
そして目の前にしたそのギルドマスターは、当時と同じ名前で……。
・エルラド[御伽集落]
ナイトの装備をしていた。頭装備をつけているのもあってアバターの顔は見えなかったが、俺は自分が装備している鉄の甲冑の中からエルラドを睨み続けていた。
絡みにいく事も考えたが、本人じゃない可能性や、ギルドが真似で作られた可能性もあったので大人しくしておくとしよう。
否、本当のところは純粋にビビって何もできなかったわけだ。目の前にいるヤンキーに絡みに行くのと同じ感覚だ。パソコンの画面前にいるのと違って、どうにも強気に出られないのがVRMMOの欠点かもしれない。というか、本人ならばアイツは黎明期からの相当なゲーマーだろうな……。
ランキングを改めて見ると29レベルの欄にエルラドを確認できた。こうして座って観察している場合ではない、追いついていずれ「ササガワ」を認知させる。
そしてあいつに勝つ、PVPでもなんでもいい。レベルでも装備でも、金でも。
そんな妄想をしている自分が唐突に情けなくなりその場から逃げ出した。
「でーい! 馬鹿野郎!! 絶対勝ーつ!」
周りに人がいない事を確認して叫び散らかしてから、俺は次の街へ駆け出した。
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